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魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第一章 幼年編

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第55話 魔力0の大賢者、蟲使いに狙われる!

前回のあらすじ

蟲一族と混蟲一族についてハニーに教わった。


sideバグズ

「馬鹿な……まさかと思ったがクイーンソルジャーアントまでやられた、だと?」


 あまりのことに愕然となった。領内で暴れさせていた蟲たちも大幅に減少し、このままではもう間もなく殲滅されることだろう。


 正直言って、大賢者の再来など所詮誇張に過ぎないと思っていた。ほんの少し人より魔法に長けたガキが大賢者などど褒め称えられ調子に乗ってるに過ぎないのだと、そう決めつけていた。


 だが、どうやら認めざるを得ないようだな。これだけの蟲を、この俺の自慢の蟲の兵をことごとく潰して回ったのだ。その実力は大賢者と語るほどのものであると。


 だが、語れる、程度だ。所詮偽物。本物には遠く及ばないこと、これ至極当然。

 とはいえだ、それでもこの俺に切り札を使わせるのだからな、自慢していいぞ。尤も死んでしまってはそれも不可能だろうがな。


「さぁこい! この俺の最高傑作! ケイオスコロペンドラギガンテスよ!」

『――ヴォオォオォオオン』


 地の底から這い上がってくるような、静かで獰猛で狂気じみた唸り声、そして大地を突き破り、俺が調教し見事に育て上げたムカデの頭が、俯瞰する俺目掛けて伸びてくる。岩山の足場を蹴りそして俺は巨大なそのムカデの頭に飛び乗った。

 

 ふふ、これだけデカイと頭の上からの眺めも壮観だな。何せ尻尾の先からこの頭まで小さな山なら見下ろせるほどに大きい。数十頭の牛をひと呑みに出来るほどには巨大なのだ。


 しかしこのケイオスコロペンドラギガンテスの恐ろしさは何もその巨大さだけではない。この巨大ムカデは常に毒素を漏出させている。しかもこの毒素はすぐに気化し、猛毒のガスを辺りに撒き散らす。


 今は頭を上げている状態だが、このまま体ごと倒すだけで、領地は毒に侵され、死の大地と化すことだろう。


 更に言えば、このケイオスコロペンドラギガンテスは毒に圧を加え放出することもできる。その威力たるや大地に向けて放てば底が見えなくなるほどの溝となったうえ、周辺をドロドロに溶かしてしまうほどだ。


 ははは、そうだ、この蟲に負けはない。まさに最強の蟲だ。問題はこいつを出してしまったらもう加減は出来ないということだ。一度暴れ始めると俺でも止めるのに苦労する。


 だから出来れば出したくはなかったが、仕方ない。混蟲族にとって任務の失敗は死と同じ。蟲だけ失って村に戻るなどありえないことだ。俺は一流の蟲使いだ。これまでだって一度だって任務を失敗したことがない。なのにこんなところで傷つけられてたまるか。


 うん? 何かが森から出てきたな。2人いるが、蜂? そうか! あの一族もここに来ていたのか!


 しかし、これで多少は合点がいった。俺の用意した蟻を倒したのは蜂の協力もあったからか。ワスプ家は蜂使いの一族だ。かつて先祖が大賢者に蜂の扱い方を教わったからと、未だに蜂にこだわり続ける黴の生えたような考え方をしている愚かな一族だ。


 とはいえ、あの蜂も調教によってはそれなりに強くなる。4匹しかいないようだが、他の蜂はきっと蟻と相打ちにでもなったのだろう。


 それにしても、他にもう一人いるな。なんだまだガキじゃないか。しかし、一緒に森から出てきたということは、まさかこいつも蟻を倒した奴らと関係あるのか? いや、まさか、あれが、大賢者?


 確かに大賢者はまだ子どもだと聞いてはいたが、あんな虫も殺せなさそうなガキが大賢者? とても信じられん。


 だが、だとしたらこれまでのことは大賢者と持ち上げられているあれだけの力ではなく、蜂の一族の協力があったからこそと考えるべきか。


 そもそも他の蟲にしても、戦っている連中は他にもいた。そうだ。最初から大賢者だけの所業と考えることに無理があったのだ。大賢者以外にそれなりの使い手がいて、そこに大賢者とあの蜂使いが加わったことで蟲たちが次々叩かれることとなった。ただそれだけのことなのだ。


 はは、なんだそんなことか。どうりで、蓋を開けてしまえばなんてことのない真実だけが明るみになってしまった。


 とはいえ、俺のやることに変わりはない。ここまで来たのだからもう後戻りも出来はしない。


「全く、恐れ入ったぞ。どんな手であろうと、このケイオスコロペンドラギガンテスを引きずり出したのだからな。だがそこまでだ! これは貴様らが今まで相手した蟲とは違う! 圧倒的だ! 圧倒的な強さというものを貴様に見せてやろう。大賢者などと持ち上げられ浮かれていた貴様も、それで少しは身の程というものを知るだろうさ!」

 

 と、いったところできこえはしないだろうがな。何せこの高さだ。普段からこいつの上に乗って慣れている俺ならともかく、下の奴らでは俺の姿も視認できやしない――


『そう思い通りにはさせないよ!』


 ……は? なんだ、今の声は? まさか、あのガキの声が? いや、そんな筈あるわけないな。


 全く、俺としたことが、幻聴とはな。大体見てみろ、あのガキなど俺の自慢の蟲をみてビビって小便でも漏らしているに違いない、って、確かにあの蜂使いは腰を抜かしてるようだが、あのガキは何故か俺の方に指を向けているような……いや見えるはずがない。気の所為に決まっている。


 だが、そもそもなんだその態度は? こちらを指差したかと思えば、腰を抜かしている女と何故か楽しそうに会話しているじゃないか……ふざけやがって! こんなときに女とイチャつくとは! 俺にだって彼女がいないのに! いや、それはともかくとして、腹の立つ奴だ。ならば早速一発くれてやろう。このケイオスコロペンドラギガンテスによる毒の一撃を!


――スパァアアァアアァアアン!


「……は? え? 今なにか、妙な音が、そう何かを切断したような妙な音が……うぉ!」


 な、なんだ? 突然ケイオスコロペンドラギガンテスの頭が傾いて、バランスが崩れてるぞ! お、おいどうした! そんな命令はしてないぞ! 早く頭を戻せ!


「ギギギィギギギィ……」


 え? なんで鳴き声がそんなに弱々しいんだ? いや、それ以前に、な、なんで胴体がスパッと切れてるんだーーーーーー!


――スパァアアン! スパスパスパスパ――スッパァアアァアアン!


 な、何いいぃいいぃィ!? 馬鹿な! 俺の最強のムカデが、輪切りにされているだとおぉおおお!? なんだこれはなんだこれはなんなのだこれはぁあぁああ!


 ありえないありえないありえない! だってケイオスコロペンドラギガンテスだぞ! 俺が何年もの歳月を費やして育てた最強の蟲なのだぞ! 山よりも大きなムカデなのだぞ! それなのに、なぜだ、なぜこんなにも簡単に切られているんだあぁあああ!






◇◆◇

 sideマゼル

 蟻の巣からでて僕たちはそのまま森の外に出た。


『――ヴォオォオォオオン』


 そんな僕の視界に飛び込んできたのは、地面から飛び出してきたちょっとした山のように大きなムカデだった。う~ん、あれって確かケイオスコロペンドラギガンテスだよね。久しぶりに見たけどやっぱり結構な大きさだなぁ。


「ひ、ひぃい、そ、そんな! あの一族があんなものまで飼っていたなんて……」


 ありゃ! なんとハニーが腰が抜けたようにその場にへたり込んじゃったよ。しかも仲間の蜂たちもブルブル震えている。


 う~ん、まぁ確かにあれだけの大きさだし、蜂にはちょっと刺激が強いかもね。でもハニーは蟲使いの一族だし、見慣れてはいないのかな?


「全く、恐れ入ったぞ。どんな手であろうと、このケイオスコロペンドラギガンテスを引きずり出したのだからな。だがそこまでだ! これは貴様が今まで相手した蟲とは違う! 圧倒的だ! 圧倒的な強さというものを貴様に見せてやろう。大賢者などと持ち上げられ浮かれていた貴様も、それで少しは身の程というものを知るだろうさ!」


 うん? これはあの頭の上に乗ってる緑ローブからか。全く、随分と勝手なこと言ってくれるよね。


『そう思い通りにはさせないよ!』


 だから僕は、頭の上のそいつに向けて言い返してやった。距離があるから空気の振動を大いに利用して声を直接届けた形だね。


「ねぇハニー、あの頭の上に乗ってるのが混蟲族の人なのかな?」

「え? の、乗ってるんですか?」

「うん、緑のローブを着ててフードも被ってるから顔はわからないけどね」

「視力がすごいのですね。流石大賢者です。ですが、それなら間違いなくそうだと思います」

「そっか、だったらちょっと懲らしめないとね」

「え? いやいや! 流石にあれは大賢者様と言えど一人では!」

「いや大丈夫だよ。だってあのタイプの蟲には弱点があるもの」

「え? じゃ、弱点ですか?」


 そう弱点。あ、そうかきっとハニーもその弱点を知らないんだね。それがわかっていればそこまで恐れる相手じゃないんだけど。


「あいつの弱点それは、巨大なこと!」

「ふぇ?」

「「「「ビー?」」」」


 ハニーも蜂たちも疑問符を浮かばせてるけど、これはわかりやすい弱点なんだよ。だって大きければそれだけ的が大きくなって仕留めるのも楽になるからね。


「そしてこれが一番重要だけど、あのタイプの魔物は節が弱いんだ!」


 そう。蟲系には節が多いタイプは割と多くて、その場合は大体あの部分が弱い。


「しかもあれだけ巨大なわけだから弱点も楽に狙える。ね? そう考えたら簡単そうに思えない?」

「……あの、それが弱点だとしても、そもそも攻撃を当てる手段がないような……」

「うん? いやいや大丈夫だよ。こうやって――」


 僕は以前妹のラーサに見せたように掌を手刀にし、腰だめの形で構えをとってみせた。本当は風魔法の使い手でも入れば僕の出る幕じゃないと思うんだけどね。

 

 だけど、この場には僕たちしかいないから仕方ない。魔法じゃないのだけど、あの距離程度なら――僕は鎌首をもたげる巨大なムカデの節に狙いを定め、手刀を振り抜いた。


――スパァアアァアアァアアン!


 我ながら耳心地のいい快音が空を駆け抜ける。うん、狙いはばっちりだね。高速で手刀を振り抜くことで鋭い刃状の風を発生させ飛ばす。


 水平に振り抜くことで発生した風の刃は幅があるからあの節を狙うには丁度良かった。僕の狙い通り、巨大なムカデの中心部分から分断されて、先ず上半分が崩れ落ちる。


「え、えぇえええええぇえええ!?」

「「「「ビイイイィイイィイ!?」」」」


 あれ? 何かハニーと蜂達が騒がしいな。あぁ、あんな大きいのが切れたんだもんね。落ちてくると思って驚いているのかな? でも大丈夫。


「ハッ! ハッ! ハッ!」


 僕は次々と手刀を横薙ぎにし、物理的に生み出した風の刃で半分になった巨大ムカデを更に寸断していく。節を狙うだけだからそんなに難しいことじゃない。多分風魔法の使い手とか、そうでなくても切れ味鋭い魔法の使い手なら楽勝だと思う。


 とは言え、これで終わりともいかない。だってあのケイオスコロペンドラギガンテスは体全体が毒素で満ち溢れていて、気化した猛毒を常に放出しているような魔物だからね。


 そのまま落としたんじゃ領内が毒で汚染されちゃう。だから落ちてくる前に滅却してしまおう。


 肺一杯に空気を取り込んだ。空気は燃料だ。火と合わせると激しく燃える。だから僕は口を閉じたまま歯を強く噛み合わせる。これで火花が発生しそれが燃えて口の中一杯に炎が篭った。そこへ肺の空気を一気に放出、口内の火と混ざりあい、爆炎と化したところで対象目掛けて吐き出した。


 轟々と燃え盛る末広がりの炎が、バラバラになって落ちてきたケイオスコロペンドラギガンテスの体をあっという間に飲み込んでいく。


 いくら毒まみれの魔物でも、燃やし尽くしてしまえば問題ない。毒ごと炭化し、ボロボロと崩れ落ちていく。


 これで、とりあえず蟲は駆除しおえたかな。うん、畑も無事だし皆の協力のおかげだね。


「お……」


 うん? あ、そうだハニーのことがあった。


「おみそれいたしました~~~~!」

「「「「ビビビビッビ~~~~!」」」」


 えぇ! また土下座! どうして!?

切り札もあっさり……(´・ω・`)


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― 新着の感想 ―
[気になる点] いやいや、空気が燃料ってなに? ほかに可燃性のガスなり物質がなければ、空気(酸素)がいくらあっても燃えないから
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