第54話 魔力0の大賢者、蟲使いの少女と出会う
前回のあらすじ
クイーンソルジャーアントを一撃でふっ飛ばした。
クイーンソルジャーアントは倒した。かなり大きくなってたし、流石に一撃じゃ死なないよなぁ、なんて思ってたら一撃で死んだ。
ついでに周囲のソルジャーアントも全員やっつけちゃった。その為なのか、女の子や蜂たちが驚いたまま固まってしまっている。
「え~と、あの」
「ふぇ? は、はい!」
僕が話しかけると、女の子はビクッと肩を震わせて僕に顔を向けてきた。吊り上がり気味の瞳だ。勝ち気っぽい雰囲気はあるけど綺麗な子だね。
「え~と、とりあえず僕の名前はマゼル。ソルジャーアントの存在を知って駆除しに来たんだけど、途中の蟻は全部君がやってくれたんだよね? ありがとうおかげでスムーズにここまでこれたよ」
「いえ、そんな。私は一族の責任を果たしただけなので」
一族の責任? どうやら彼女は彼女で何か使命をもってここにやってきたようだね。もしかしてこの蟲の大増殖に関係あるのかな?
「あの、今マゼルと名乗っていただきましたが、もしかして貴方はあの、大賢者マゼル様なのですか?」
どうやら僕のことを知っているようだね。それにしても、やっぱり大賢者……一体お父様はどこまでこの異名を広げてしまったのか。
「え~と、ま、まぁ、一部では何故か僕を大賢者と呼んでいるような、いないような……」
「やはりそうなのですね!」
出来るだけ濁す感じで答えることにした。自分から大賢者ですなんて答えるのは恥ずかしいし、大体僕は魔法が使えないんだ。
だけど、彼女の目が急にキラキラして、僕の手を手繰り寄せ胸の前でギュッと握りしめた。すごく照れくさい。
「え、え~と……」
「あ! ご、ごめんなさいつい目にできたことが嬉しくて! た、大変失礼なことを!」
「いや! ちょっと驚いただけだから! そんな失礼なんて思ってないし!」
手を放し、パッと飛び退いたと思ったら、地面に膝を付けて急に土下座し始めたよ。しかも蜂たちもそれに倣って地面に降りてきて、揃って頭を下げるような動きを見せた。器用な蜂だよ!
とにかく、逆に申し訳ないから頭は上げてもらった。
「別に怒ってないしむしろ感謝したいぐらいだから」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
「「「「ビービビッビー♪」」」」
ほっと胸をなでおろす彼女とダンスを剃るような動きで感情を表現する蜂たち。何か面白い子たちだなぁ。
「申し遅れました。私はハニー・ワスプと申します! そしてこの子たちは私の親友でもあり仲間でもある蜂たちです」
そういいながら、更にハニーは蜂たちを1匹ずつ紹介してくれた。
「この子がリーダーのビーダーです。蜂たちの司令塔で動きがとっても速いのです」
「ビー!」
前に出てきて気合の入った動きで飛び回った。確かにすごく速いね。よく見ると4匹の中では一番小柄だ。
「そしてこの子がビードル。蜂たちの特攻隊長で針を使った戦いが得意なの」
「ビュッビュッ!」
尾から針を出して、剣士のように空間を切り裂いてアピールする。すごく器用に針を扱うね。みたところ、針もかなり長くて鋭いよ。
「この子がビバイト。顎の力は一番! それでいて頑丈で、時には仲間を助けるために自ら盾になるぐらい勇敢なのです」
「ビビビビビビッ!」
顎を激しく鳴らしてアピールしてくれた。うん、他の蜂と比べて一回りぐらい大きくて確かに逞しそうだ。
「最後にこの子が蜂たちの紅一点なビロス。雌の蜂でフェロモンの扱いが上手いの」
「…………ビッ」
うん、ワスプの後ろからひょっこり顔をのぞかせて頭だけ下げた。鳴き声も大人しめで、他の蜂と比べたら控えめな印象だ。そして唯一体の色がピンクだ。
4匹の蜂を紹介してもらったけど、それぞれ特徴があってわかりやすいね。すぐに覚えたよ。
「丁重な紹介をありがとうね。蟻退治まで協力してもらってすごく助かったよ。でも、どうしてここに?」
お礼を述べつつ、念の為理由を聞く。ワスプも蜂たちも初対面で、町でも見かけたことはない。冒険者ギルドにもわりと顔を出したりしたけど、そこでも見たことないから気になった。
「はい。実は私は蟲一族の村出身で、その中でも代々蜂を中心に扱ってきたワスプ家の生まれなのですが――」
蟲一族かぁ。う~ん、あれ? でもなんか聞き覚えのあるような?
「我々蟲一族は先祖代々、大賢者様から授かった蟲操作魔法を役立て蟲を友とし、共存してまいりました。ですが」
「ちょ、ちょっとまって!」
話を聞いて明らかに変なとこあったよね! え? なにその大賢者から授かったって?
「どうかしましたか?」
「いや、何か今大賢者がどうって……」
「あ、すみません。これは貴方様ではなく遠い昔、伝説とされた大賢者マゼル様のことで」
「あ、うん、それはなんとなくわかったけど、その伝説の大賢者様がその、ワスプさんのご先祖様に何をしたのかなって」
「大賢者様、よろしければ私のことはハニーと呼んで頂けると、そ、その村ではみんなその呼び方だったので!」
ワタワタしながら呼び方についてお願いされたね。ハニーがそれでいいならそう呼ぶとしようかな。
「え~と、じゃあハニーのご先祖様についてなんだけど……」
「はい! 私たちの一族はかつて、蜂の魔物が村の近くに巣を作ってしまったことで頭を悩ませていました。ですが、そんなある日、村に大賢者様が立ち寄られたので相談したところなんと大賢者マゼル様はただ無闇に撃退したり巣を破壊するのではなく、超魔法【ミラクルフェロモン】によって蜂を大人しくさせ懐柔させてしまったのです。それから村は蜂の被害にあうこともなくなり、それどころか蜂からとても甘美な蜂蜜を提供してもらえることとなりました」
あ、それで、思い出した! あった、たしかにそんなことがあったよ! あの時は確かに村の人が蜂の被害に悩んでいて、でも巣を作ったという蜂は、とても甘くて美味しい蜂蜜を生成することで有名な蜂だったからね。
ただ駆除するのももったいないと思って、体内のフェロモンを蜂好みに変化させて大人しくさせたんだ。
あの蜂蜜はすごく美味しかったんだけど……まさかそれが魔法扱いされていたなんて……。
「ご先祖さまはそのことをキッカケに例え魔物であっても心が通じ会えるんだと悟り、大賢者様が残してくれた魔法を再現し、それを村で広めることで蟲を操って共に暮す一族をそだてあげたのです。尤もそれでもいまだ大賢者様を超えるには至っていないわけですが」
うん、それ十分すごいと思うんだけど。そもそも僕のは魔法じゃないからね。体内のフェロモンを利用しただけの物理だからね!
それにしても、今までのもそうだけど、僕が物理的に起こした現象を見ただけで新しい魔法を作っちゃうんだから、やっぱり魔法って凄いよね。
でも、この話で蟲一族については判ったんだけど、そうなるとなんでここまで来たのかな。もしかして蟻を捕まえに? でも、倒そうとしていたよね?
だから僕はその疑問をハニーにぶつけてみたのだけど。
「実はここからが重要なのですが……私たちの蟲一族は大賢者様の教えを第一に考え、決して私利私欲のためには蟲を利用しないと決めてました」
特にそんな教えを説いた覚えはない上、蜂を大人しくさせたのは蜂蜜目的だったんだけど……。
「ですが、ある時一族の中にその掟を破るものがあらわれたのです。彼らは私利私欲を満たす悪事の為だけに蟲を利用し、混蟲族と名乗り台頭し始めました。私たちの先祖はかつて何度も混蟲族と衝突しましたが、倒し切ること叶わず、結局未だに混蟲族が裏社会にはびこっているのです。そして、今回この領地を狙ったのが……」
「なるほど。その混蟲族ってわけだね。でも、どうしてこの領を?」
「それは、どこかからの依頼を請けたというのが先ずありきとは思うのですが、同時にあの一族が大賢者様を恨んでいるというのも大きいと思います」
「へ? 大賢者を? 何でまた?」
「それは、勿論今の大賢者であるマゼル様には本来関係ない話かとおもうのですが、かつて混蟲族は大賢者マゼル様の手で壊滅されかけたことがあるのです」
いや、それも僕なんだけどね。でも、そんなことあったかなぁ?
あ、でもそういえば昔! 転生前にナイスが折角育ててくれてたイナ麦を狙われて、その蟲を操ってるアジトがあると聞いてついカッとなって気がついたらアジトの村をめちゃくちゃにしてたことがあったような……あれ? もしかしてあれがその混蟲族だったのかなぁ~? そっか、それで蟲使いという存在に覚えがあったのか。
「混蟲族はその怒りの矛先を現在の大賢者たるマゼル様にぶつけようとしているのだと思います。そのために蟲の軍勢を用意しこのような蟻まで準備した」
「そう、なんだ。でも、その蟻も全滅したから、これでもう攻めてこないかな?」
「それだといいのですが……まだ懸念材料はあります。何より、まだこの蟲をけしかけている蟲使いが出てきていないので」
なるほどね。つまり本体を叩かないと決着がついたとはいえない、て、なるほど……どうやら本当にそのようだね。外で大きな気配が発生したよ。
「た、大変、蜂たちが騒いでます。これは外で何か起きた証拠! 大賢者様」
「うん、判ってる! 急いでここを出よう!」




