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魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第三章 マゼル学園入学編

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第536話 魔力0の大賢者、殴り合う?

 ファインの様相が変わる。


 全身から噴き出す漆黒のオーラ。

 その両拳には黒炎が渦を巻くように立ち上っていた。


 燃え上がるというより、噴き出す。


 まるで怒りそのものが炎となったかのようだった。


「その炎は効かねぇぜ! そうだろ? えっと……影マゼル?」

「――そのはずだね」

「あ、こっちも喋るんだ」

「無言だから会話できないと思っていたぞ」


 ドクトルとガロンが驚いた声を上げる。


 問いに答えたのは、実体化した影の僕だった。


 会話は可能だ。

 ただ、影の僕はあまり多くを喋らない。


「愚かな考えだな」


 鼻で笑う声。


 バジルだった。


「確かにファインの影炎は“影ごと滅却する炎”だ。だが、それは影にのみ作用するという意味ではない」


 ゆっくりと腕を組み、得意げに語り始める。


「炎そのものに熱がないわけではないのだ。むしろ下手な炎より強烈な熱量を持っている。影を焼き尽くすのは本質だが、肉体にダメージを与えるだけならそれでも十分だ」


 確かに。


 僕のところにも熱量は届いている。


 影を焼く炎だとしても、炎であることには変わりない。


「ウォオオォオオ!」


 ファインが咆哮した。


 黒炎を纏った拳が振り下ろされる。


 速い。


 だが、対応は出来る。


 拳を躱し、反撃へ――


 しかし。


 それも避けられた。


 すぐにファインの反撃。


 それを避ける。


 さらに僕が拳を放つ。


 だが、それも当たらない。


 拳と拳。


 動きと動き。


 すべてが紙一重で交錯していく。


 これは明らかにこれまでと違う。


 一手先を読む動きではない。


 もっと単純で、もっと速い。


「どういうことだよ! マゼルも避けてるが、ファインにも攻撃が当たってねぇぞ!」


 アズールが叫ぶ。


「ハハッ。当然だ」


 バジルが愉快そうに笑った。


一来向(いちらいこう)は五感を極限まで強化することで相手の僅かな動きから“次の一手”を読む境地」


 指を一本立てる。


「だが――一来果(いちらいか)は違う」


 バジルの声が一段低くなる。


「これは反射の領域だ。圧倒的な反射――いわば“超反射”による行動」

「超反射?」


 ガロンが眉をひそめる。


「そうだ。思考を挟まない。考えるという行動を省略し、最速で最善の行動を選択する」


 ニヤリと笑う。


「長き苦行の果てに辿り着く境地。今のファインは――ほぼ無敵ですよ」


 全く。


 よく喋る。


 だがその言葉の中で、ひとつだけ気になる単語があった。


 苦行。


 ファインは刑務所にいた。


 その中でも自分を鍛え続けていたのだろう。


 この力を得るために。


「君の力には敬意を表したい」


 僕は拳を構えながら言う。


「出来れば、その先が復讐じゃなければ良かった」

「黙れ!」


 ファインが吼えた。


「俺は教団に感謝している」


 黒炎が揺れる。


「刑務所は文字通りクソみたいな場所だった。理不尽な理由で日常的に暴力を振るわれる。飯もろくに与えられねぇ」

「……」

「そんな中でも俺は技を磨いた!」


 拳がぶつかる。


 黒炎の拳。


 火花のような衝撃。


「ギフトと四向四果(しこうしか)を使いこなすために!」


 拳がまたぶつかる。


 炎と光。


「そのためなら一週間や十日眠らなくても平気だった!」


 黒炎が激しく揺らぐ。


「復讐だけが俺の原動力だった!」


 その言葉が重く響いた。


 拳に込められた感情が伝わってくる。


 怒り。


 憎しみ。


 そして――


 長い時間、積み重ねてきた執念。


「復讐って一体何が……」


 ラーサの戸惑う声。


「そうか。ラーサちゃんは聞いていないもんね……」


 リミットが静かに言う。


 そうだ。


 ラーサは僕とファインの戦いが始まってから来た。


 事情を知らない。


「何をぼっとしてやがる!」


 ファインの拳が頬を掠めた。


 熱い。


 黒炎の熱が頬を焼く。


「いいぞファイン!」


 バジルが声を張り上げる。


「マゼルにも陰りが見えてきている。当然だ――いくら魔法で肉体を強化していようと永遠に続くわけじゃない!」


 高笑い。


「効果が切れた時がお前の最期だ!」


 魔法じゃない。


 だけど、そんなことはもう関係ない。


「マゼルの拳が輝き出したよ!」

「付与魔法――光属性を拳に付与したのね!」


 ドクトルとリミットが声を上げる。


 拳に集中させた氣。


 光のように見えるほど凝縮された力。


 今のファインには、これが必要な気がした。


「フンッ。そんなもの付与したところで、当たらなければ意味がありませんよ」

「はぁああああぁあッ!」

「うぉおぉおぉおおおッ!」


 気迫がぶつかる。


 黒炎の拳。


 輝く拳。


 そして――


 ドンッ!!


 衝撃。


「あ、当たったぞ! マゼルの拳が!」

「だが、ファインの拳も当たってるぞ!」


 アズールとガロンが叫ぶ。


 そう。


 僕の拳とファインの拳。


 同時に当たった。


 相打ち。


 だが。


 止まらない。


 拳がまた振るわれる。


 黒拳と光拳が何度もぶつかる。


「お、お互いの拳が当たってる……でもどうして?」

「グルゥ」

「ピィ~」


 アニマの戸惑う声。


 僕もファインも引かない。


 殴り合いは続く。


「そうか――」


 ゲシュタル教授が呟いた。


「マゼルも魔法によって超反射を得たんだ。互いに思考を超えた最速で最善の一撃を繰り出す……」


 イロリ先生が静かに言う。


「その結果が――」


 拳と拳が再びぶつかる。


 黒炎と光が弾ける。


「相打ち、か」


 そう。


 思考を超えた最速の一撃同士。


 その先にあるのは――


 ただひたすらの殴り合いだった。


 僕とファインは、拳をぶつけ続けた。

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