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魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第三章 マゼル学園入学編

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第535話 魔力0の大賢者、先を読む

「マゼル!」


 アズールの声が響いた。


 僕はリングの床に叩きつけられていた。


 石造りの床が砕け、破片が周囲に散っている。


 かなり派手に投げられてしまったらしい。


 だけど問題はない。


 着地の瞬間、衝撃はそのまま受け止めていない。体内を巡る力を使い、衝撃を身体の内側へ通し、そのまま地面へ逃がしている。


 見た目ほどのダメージはない。


 とはいえファインは容赦がない。


 僕をリングへ叩きつけた直後、すでに次の攻撃へ移っていた。


 拳を握り込み、真上から追撃を叩き込んでくる。


――速い。


 だがそれだけじゃない。


 ファインは僕の動きに正確に対応してきている。


 単なるスピード差ではない。


 明らかに、こちらの行動を読んでいる。


 振り下ろされる拳。


 僕はそれを手で受け止めようと腕を伸ばす。


 だが拳は途中で止まった。


 そして次の瞬間、僕の腕を掴む。


 関節を極めに来た。


「腕は貰ったぞ」


 捻り上げられる腕。


「そう簡単にはいかないよ」


 僕は体内に溜めた電気を一気に解放した。


 パチッと火花が散る。


 しかしファインはすでに距離を取っていた。


「魔法を使おうとしたな。悪いが全部視えてるぞ」


 魔法、か。


 僕のこれは魔法じゃないんだけどね。


 ただ電撃を放とうとした意図は読み取られている。


 だとすると――


 未来を見ているわけではない。


 恐らく。


 僕は即座に拳を振るった。


 距離は離れている。


 それでも衝撃波が走る。


 リングの床が弾け、ファインの足元へと衝撃が突き進んだ。


 だが。


 そこにはもう誰もいない。


「お兄様の衝撃魔法も避けるなんて!」


 ラーサの声が響く。


 その瞬間。


 背後に気配。


 振り向きざまに回し蹴りを放つ。


 しかし。


 空を切った。


 ファインはすでにそこにいない。


 そして次の瞬間。


「グハッ!」


 地面へ叩きつけられる音が響いた。


 倒れているのは――


 ファインだった。


「ば、馬鹿な……」


 リングに倒れ込んだまま、ファインが呻く。


「俺の先読みは完璧だったはずだ。それなのに何で俺が……」

「恐らく君は、僕の一手先を読んでいた。それが君の一来向の効果」

「だったら何故ファインがやられているのだ!」


 バジルが声を荒げる。


 不可解そうな顔だ。


「難しい話じゃないよ」


 僕は肩をすくめた。


「単純に僕はそのさらに一手先を読んだ。それだけ」

「――なんだそりゃ。それも魔法だってのか」


 ファインが苛立ったように吐き捨てる。


 魔法じゃない。


 強いて言えば経験則。


 長い戦いの中で身についた勘の積み重ねみたいなものだ。


「当然です!」


 ラーサが勢いよく声を上げた。


「お兄様の予知魔法なら一手どころか千手先でも読んでしまうのですから!」


 かなり興奮している。


……多分それは過大評価だ。


 とはいえ訂正する暇もない。


 ファインはすでに立ち上がっていた。


「一々こっちの行動に合わせてきやがって……」


 ファインの瞳に苛立ちが浮かぶ。


「やっぱり気に入らねぇ」


 その瞬間。


 空気が変わった。


「――無拍子!」


 ファインの身体が消えた。


 予備動作がない。


 呼吸の変化も。


 筋肉の溜めも。


 踏み込みの気配すらない。


 ただ――動いた。


 無拍子。


 動作の「拍」を消し去ることで、最速の動きへ昇華させる歩法。


 相手が察知するための前兆をすべて削ぎ落とす。


 それはもはや移動ではなく、出現に近い。


 しかもファインは、動作そのものを極限まで削って距離を詰めてくる。


 縮地に限りなく近い。


 だが。


 僕はそれより上の技を知っている。


「ぐっ!」


 ファインの拳が空を切る。


「何故攻撃が当たらない!」


「悪いけど」


 僕はわずかに距離を取った。


「もう君の攻撃は当たらない」


 一手先を読むファイン。


 そのさらに一手先を読む僕。


 そして。


 無拍子の動きには縮地で対応している。


 先読みと先読み。


 技と技。


 互いの読みがぶつかり合う。


「だったら――」


 ファインの目がぎらりと光った。


「奥の手だ!」

「まだ、何かあるのか!」


 ガロンの驚愕の声。


 次の瞬間。


 ファインの身体から、さらに強い圧が噴き出した。


一来果(いちらいか)!」


 宣言と同時に空気が震える。


 リングの空気が重く沈んだ。


 先ほどまでとは比べ物にならない圧力。


 ファインの存在そのものが、もう一段階上の領域へ踏み込んだようだった――。

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