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魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第三章 マゼル学園入学編

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第528話 魔力0の大賢者、天敵になる?

「炎が駄目なら――肉弾戦といくか」


 ミクスが口角を吊り上げた。


 直後、その体がぎしりと音を立てながら縮こまり、丸く収束していく。

 分厚い甲殻が重なり合い、まるで巨大な鉄球のような姿へと変貌した。


 鎧のような皮膚と質量。

 あれにまともに当たれば、ただでは済まない。


「スピンメタルボウルって魔物はな、硬い皮膚を武器にしてこうやって転がって相手を粉砕する。当然――俺はそいつより強ぇ」


 甲殻の隙間から、ぞわりと何かが突き出した。


 鋭い針。


「シャープヘッジホッグの針は下手な剣より鋭い」

「で、お前のはそれ以上って言いたいんだよね?」

「よく分かってんじゃねぇか!」


 鉄球の表面から無数の針が展開する。


「メタルボウルの勢いとシャープヘッジホッグの針を組み合わせた最強の体当たり――くらいやがれ!」


 地面を抉りながら、ミクスが高速回転で突撃してきた。


 轟音。

 地面が削れ、木々が薙ぎ倒される。


「言っとくが、避けたところで無駄だ。蟲の触覚のおかげでテメェの位置は分かる!」

「逃げる必要なんて――ない!」


 真正面から迎え撃つ。


 針の回転の僅かな隙間。


 その一瞬を見切り――


 拳を叩き込む。


「通破拳!」


 打撃と同時に、気を内部へと叩き込む。


 外殻がどれほど硬くとも関係ない。

 衝撃は直接、内側を打つ。


「グハァッ!」


 鉄球が弾かれ、空中へ舞う。


 回転が乱れ、ミクスの姿が元の形へ戻る。


 甲殻の隙間から、苦悶の息が漏れた。


「曲芸は見飽きたよ。そろそろ――」


 言い終わる前だった。


 背後から風を切る音。


 反射的に振り向いた瞬間、尾が迫る。


 高速でしなる尾の先端――鋭い針。


 肩に突き刺さった。


「マゼル!」

「ハハッ、油断したな」


 ミクスが立ち上がり、勝ち誇る。


「デッドスコルピオンの尾だ。針には猛毒。終わりだな」


 毒が回る感覚は……ない。


「悪いけど」


 肩から針を引き抜き、尾を掴む。

 手刀一閃。

 尾が切断され、地面に落ちた。


「僕には毒は効かないよ」


 尾を投げ返す。


「なっ……毒が効かねぇだと? それも魔法かよ」


 ただの抗体だ。

 転生前から積み上げた体質の賜物。


「てか、あっさり切りやがって。これでも結構痛ぇんだぞ」

「知らないよ」


 言い捨てると、ミクスの表情が変わった。

 軽薄さが消え、獣のような目になる。


「なるほど……ことごとく俺の技を潰すテメェは、俺の天敵ってとこかもしれねぇな」


 勝手に認定されても困る。


「だが、それでいい」


 低く笑う。


「だったら俺も本気を出す」

「今まで本気じゃなかったと?」

「精々四割ってとこだ」


 出し惜しみして押されてる時点でどうかと思うけど。


「これからは本気だ。嬉しいだろ?」

「別に――」

「ただし、溜めが必要でな。三十秒だ。ちょっと待ってろ」


 ミクスが腰を落とし、力み始める……。

 はぁ――ため息が出た。


 僕は静かに構えを取る。

 腰だめで右手に気を集束。


「お、おい待て! 三十秒待てと言ってんだろう!」

「何で僕がお前の自己満足に付き合う必要があるの?」


 学園の状況も気になる。悠長に待っていられない。

 ミクスが愕然とする。


「は、はは……そうか。そうだよな。甘かったのは俺か」


 笑いながらも、目は焦っている。


「いいぜ! だったらとっておきを――」


 気は十分に集まった。

 決める。


「行くぜ! オール――」

「百歩神――」


 放とうとした、その瞬間。


「悪いけど、そこまでにしてもらおうかな」


 横から声。ミクスの隣に、ローブ姿の人物が現れた。

 フードを目深に被り、顔は見えない。


 一瞬――空間が歪む。

 次の瞬間、ミクスごと消えた。

 転移魔法――。


「――今のは?」


 静まり返った森。気配は完全に消えている。


「仲間か……」


 取り逃がした。

 けれど。


「ふぅ、仕方ないね」

「マゼルぅぅぅうう!」


 次の瞬間、ビロスが勢いよく抱きついてきた。


「ちょ、ビロス!?」


 いきなりは心臓に悪い。


「あいつ逃げた! マゼルに勝てないと思ったから! マゼルの勝ち!」

「えっと……まぁ、そうなるのかな?」


 乱入者が止めた形にも見えたけど、結果は結果だ。


 ビロスの体温が伝わる。

 さっきまでの緊張が、少しだけ緩んだ。


 でも。

 その瞬間――


「……これは」


 全身を撫でるような殺気。

 学園の方角――濃い。

 嫌な気配で満たされている。


 さっきまでの戦いに集中して気づかなかった。


「ビロス、ごめん。僕、急いで学園に戻らないと」


 ビロスは一瞬寂しそうな顔をしたが、すぐに笑った。


「――うん。ビロスは大丈夫。皆、マゼルを待ってる」


 そっと離れる。強い子だよねビロスは。


「ありがとう。行ってくる」

「うん!」


 ミクスの気配はない。

 ローブの人物も。


 だが。


 学園から放たれる殺気は、確実に増している。


 僕は地を蹴った。


 次の戦場へ――。

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