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魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第三章 マゼル学園入学編

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第526話 歪んだ真実の果てに

side イロリ


「――いかがでしたか?」


 人形の動きが止まりバジルがゆっくりと両手を広げた。


「これでお分かりいただけたでしょう。ファインが復讐のために教団へ身を投じた理由も。彼が何を失い、何に絶望し、何を憎んできたのかも」


 芝居がかった口調が陰に溶ける。


「全ては必然。彼は被害者であり、そして加害者となった。それだけの話です」


 その言葉を最後に、場が静まり返った。

 誰も口を開かない。


 黒竜の巨大な翼がはためく音だけが、やけに遠くに聞こえた。


――俺は馬鹿だ。


 胸の奥から込み上げたのは怒りでも反論でもない。ただ、悔恨だった。


 ギャノンが何かを隠していることには気づいていた。

 だが、ここまでだったとは。ファインの家族を殺したのもファインに罪を被せたのも――自分の馬鹿さ加減に反吐が出る。


 証言台に立つ準備はしていた。

 ファインの人柄を、努力を、家族への想いを、すべて語るつもりだった。


 それが当然だと思っていた。


 だが現実は違った。


 俺は、守れなかった。


「今の話……本当かよ」


 沈黙を破ったのはアズールだった。


 怒りを抑えきれない目で、こちらを睨みつけている。


「先生、あんた……本当にあいつを見放したのかよ!」


 拳を握り締め、今にも殴りかかってきそうな勢いだ。


 俺は目を伏せた。


「……事実だ」


 それだけを告げた。


「ふざけるな!」


 アズールが一歩踏み出す。


「証言台に立たなかったって! それで終わりかよ! あいつはあんたを信じてたんだぞ!」


 リミットも言葉を失っている。

 何か言いたそうに唇を噛み、ただ立ち尽くしている。


 その時だった。


 クツクツ、と低い笑い声が響いた。


「やっと気がついたか」


 ファインだった。


 血と煤にまみれた顔で、歪んだ笑みを浮かべている。


「だから前に言ったんだ。この男が平気で生徒を裏切る教師だったらどうするってな」


 その言葉で、アズールの表情が凍る。


「……あんた」


 ゆっくりとファインを見る。


「確か学園のOBだって言ってたよな……」


 ファインは口元を吊り上げた。


「そうだ。ま、結局卒業は出来なかったが、こいつの教え子だった男だよ」


 バジルが愉快そうに手を叩く。


「いやはや、美しい構図ですね。信じた教師に裏切られ、復讐に染まる教え子。実に人間らしい」

「黙れ」


 俺が低く言う。


「おやおや。図星ですか?」


 その時、一歩前に出た人物がいた。


「君は誤解している」


 ゲシュタルだった。


「余計なことを言うな」


 俺は制止する。だがゲシュタルは首を振った。


「悪いけど聞けないかな。これは事実だからだ」


 ファインの視線が鋭くなる。


「証言台に立たなかったのはイロリの意思じゃない」


 場が凍りつく。


「裁判直前に、証言の取り下げが上層部から通達された。理由は“学園の評判を守るため”。実際に取りやめを決定したのはリカルドだ。イロリは、裁判が終わるまでその事実を知らされていなかった」


 アズールが目を見開く。


「何だよそれ……だったら悪いのはリカルドじゃねぇか!」


 怒りの矛先が変わる。


 だが俺は首を振った。


「関係ない」


 自分でも驚くほど、声は静かだった。


「悪いのは俺だ」


 全員がこちらを見る。


「俺は教師だ。生徒を守る立場にあった。知らなかったで済む話じゃない。気づけなかった時点で、俺の負けだ」


 リカルドから真実を聞かされたあの日、俺は急いで裁判所に向かった。だが判決が下りた事を知った瞬間、膝が崩れ落ちた感覚を、今でも覚えている。


 間に合わなかった。


 ただ、それだけだった。


「だから俺は、お前を責める資格はない。ファイン」


 ファインの瞳が揺れる。


「だが――」


 胸の奥から、ようやく言葉が出た。


「それでも俺は、お前がこれ以上罪を重ねるのを見過ごす事は出来ない」


 静かな宣言だった。ファインの笑みが消える。


 空気が張り詰める。

 黒竜が低く唸った。

 そして俺は告げる。


「だからこれで終わりにしよう。俺を殺せファイン。それで全て終わりだ」

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