第523話 ファインの過去③
side ファイン
あれから俺は、ギャノンともすっかり打ち解けた。
気づけばクラスでも自然と隣にいることが多くなり、休み時間も、授業の合間も、何かと一緒に過ごすようになっていた。
不思議なものだ。
ギャノンと親しくなっただけで、周囲の空気ががらりと変わった。
以前のように、意味もなく絡んでくる生徒はいなくなった。
視線に含まれていた棘も、いつの間にか消えていた。
ギャノンを中心に、自然と人が集まる。
気づけば、俺の周りにもクラスメートが増えていた。
二年になってしばらく経つ頃には、「元Fクラス」などと口にする者は、誰一人いなくなっていた。
――全部、ギャノンのおかげだ。
彼と友だちになれて、本当によかった。
心から、そう思っていた。
「見たぜ、テストの結果」
定期テストが返却された日のことだ。
ギャノンが、いつもの調子で声をかけてきた。
「学年トップテン入りだって? すげぇじゃん」
「そういうギャノンだって、同じだろ?」
努力してきた結果が、こうして形になるのは素直に嬉しかった。
両親の顔も、イロリ先生の顔も、自然と浮かぶ。
「まぁな。ほら、俺って天才だから」
ギャノンの冗談に、周囲から笑い声が漏れる。
実際、ギャノンはAクラスの中でも群を抜いていた。
魔力、才能、度胸――どれを取っても一級品だ。
俺の魔力は152。
決して低くはないが、突出しているわけでもない。
一方、ギャノンの魔力は2000を超えていた。
学園内でも、これほどの数値を持つ生徒はそういない。
「俺も、まだまだ頑張らないとな」
「随分と努力家だな。それも、妹のためか?」
その一言で、サラの顔が浮かんだ。
ギャノンには、妹の病気のことも話していた。
「あぁ。魔導医療を学ぶには、学園で結果を残さないといけないからな」
魔法学院への進学。
そのためには、学園内での評価がすべてと言っていい。
「そうか……立派だな」
「俺なんて、将来何するかも決めてねぇや」
そう言いながらも、ギャノンはどこか楽しそうだった。
「ギャノンなら、どんな道に進んでも上手くいくさ」
「だったらさ」
少し考えるような間があってから、ギャノンが笑った。
「俺も一緒に魔導医療の道、行ってみるかな。お前と一緒に、未知の病を治す研究するのも悪くねぇ」
「本当か?」
「まぁ、思いつきだけどな」
軽い口調だったが、俺は本気にしていた。
ギャノンなら、きっとどんな分野でも通用する。
「なぁファイン。今度、実家に戻る日はあるのか?」
「連休に帰る予定だけど……」
「だったらさ。一緒に行っていいか?」
冗談かと思ったが、ギャノンは本気のようだった。
「親友の家族に会えるなんて、光栄だろ?」
親友――
その言葉が、胸にすっと落ちた。
約束通り、連休を使って俺は実家に戻った。
ギャノンを連れて。
両親は、俺が友だちを連れてきたことを心から喜んでくれた。
ギャノンも礼儀正しく、誰に対しても愛想がよかった。
――好かれない理由が、見当たらなかった。
そして、サラにも会わせた。
「話には聞いていたけど、本当に可愛らしい妹さんだ」
「そんな……」
サラが照れたように視線を落とす。
「ファインは、いつも君のことを誇らしげに話してくれる。本当に、大切に思ってるんだなって伝わるよ」
その言葉に、俺は気恥ずかしくなった。
「いい子だな、サラちゃん……救ってあげたいな」
その一言が、胸に刺さった。
ギャノンは優しかった。
何気ない言葉のはずなのに、俺には深く響いた。
その日は、ギャノンはうちに一泊した。
翌日、彼は用事があると言って先に帰った。
両親も、サラも、
「またいつでも遊びに来てね」
と口々に言っていた。
いい友だちができたね。
家族も、そう言って笑っていた。
――この時の俺は、何一つ疑っていなかった。
◆◇◆
side ???
『よぉ。久しぶりだな』
『俺が、ここに来た理由は……わかるよな?』
『大した話じゃねぇ。少し、協力してほしいだけだ』
『うまくいったら、親父に頼んで寄付も弾んでやる』
『お前も、早く司教になりたいだろう?』
静かな声が、密やかに響いていた。




