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魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第三章 マゼル学園入学編

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第522話 ファインの過去②

side ファイン


 イロリ先生は、間違いなく熱い教師だった。

 理想論を語るだけではなく、俺たち一人ひとりと真正面から向き合い、結果が出るまで決して見放さない。


 だが――それはあくまで、イロリ先生だけの話だった。


 他の教師や生徒の目は、冷たかった。

 同じ一年であっても、Fクラスはどこか異物のように扱われていた。


 廊下ですれ違えば、聞こえよがしに囁かれる。

 「落ちこぼれ」「最底辺」「どうせ上がれない連中」。


 そんな扱いが続けば、不安も生まれる。


――イロリ先生も、本当は俺たちを厄介者だと思っているんじゃないか。

 表向きは熱く語っていても、裏では違うのではないか。


 そんな疑念を口にする生徒も、少しずつ増えていった。


 俺は信じたかった。

 あの言葉が、あの目が、嘘だとは思いたくなかった。


 そんなある日だ。


 廊下の角で、聞き覚えのある声がした。


「よぉ、イロリ。お前も大変だよな。落ちこぼれのFクラスなんか任されてよ」


 声の主は、Aクラス担任の教師だった。


「あぁ、大変だよ」


 イロリ先生の返答を聞いた瞬間、胸が冷えた――やっぱり、そうなのか。


 だが、次の言葉で俺は自分の耳を疑った。


「お前みたいな教師が、同じことを何度も聞いてくるからな。正直、いい加減うんざりなんだよ」


 Aクラスの教師が、言葉を失う。


「いいか。二度と言わねぇから、よく聞け」


 イロリ先生は、相手の胸倉を掴み、壁に押し付けた。


「俺のクラスに、落ちこぼれなんて一人もいねぇ。全員、まだ成長途中なだけだ」


 低く、しかしはっきりとした声だった。


「それを導くのが、俺たち教師の仕事だろうが。最初から見限るような奴に、教壇に立つ資格はねぇ」


 Aクラスの教師は、顔を引きつらせながら何度も頷いた。


「二度と、生徒を落ちこぼれなんて呼ぶな。いいな?」

「……わ、わかった。悪かった」

「フン」


 その一連を、俺は物陰から見ていた。


――疑う余地なんて、どこにもなかった。


 俺はその日のうちに、クラスのみんなに伝えた。

 イロリ先生は、間違いなく俺たちの味方だ、と。


 それからは、必死だった。

 期待に応えたい。ただそれだけで、がむしゃらに努力した。


 結果――


「ファイン。お前は二年からAクラスだ」


 進級の際、イロリ先生はそう言って俺の肩を叩いた。


「よく、頑張ったな!」

「は、はい! これも先生のおかげです!」

「馬鹿言うな。全部お前の力だ」


 そして、続けてこう言った。


「他の皆もな。全員、上のクラスに上がった」

「本当によくやったぞ」


 その言葉に、教室は歓声に包まれた。

 涙を流す奴もいた。俺も、その一人だった。


――努力は、報われる。


 そう信じられた瞬間だった。


 二年生となり、俺はAクラスの教室に足を踏み入れた。


 最初に感じたのは、距離だった。

 視線が、どこか冷たい。


 初日の自己紹介。

 俺は正直に話した。


 Fクラス出身であること。

 病気の家族を救うため、魔導医療を志していること。


 だが、それが気に入らない連中がいた。


「一年Fクラスが、Aクラス入り?」

「出来すぎだろ」


 数人の男子生徒が、露骨に絡んでくるようになった。


 最初は無視していた。

 関わらなければ、いずれ飽きると思ったからだ。


 だが、それが逆効果だった。


 ある日、授業終わり。

 校舎裏で、俺は囲まれた。


 殴られ、蹴られ、地面に転がされる。


 抵抗しようとした瞬間――イロリ先生の顔が浮かんだ。


 (俺が手を出せば、先生に迷惑がかかる)


 そう思って、歯を食いしばった。


「へっ、無抵抗かよ」

「所詮、Fクラス上がりだな」

「どうせ汚い手でも使ってAクラスに上がって来たんだろ?」

「……くだらない」


 思わず、口を突いて出た。


「あん?」

「暴力でしか自分を保てないなんて、情けない連中だ」


 次の瞬間、腕を押さえつけられた。

 詠唱が始まる。


――その時だった。


「お前ら、何やってんだ!」


 怒鳴り声と共に、空気が変わった。


「ぎゃ、ギャノン……」


 現れたのは、同じAクラスのギャノンだった。


「よってたかって一人相手に、恥ずかしくねぇのか!」

「いや、でもこいつ元Fクラスで――」

「あん? そんな理由でやったのか。ザケンな!」


 鈍い殴打音が続く。

 次々と、俺を押さえていた連中が倒れた。


「大丈夫か?」


 差し出された手。

 俺はそれを掴み、立ち上がった。


「あぁ……何とか」

「悪かったな。俺の連れが馬鹿やって」


 ギャノンは、真っ直ぐ俺を見て頭を下げた。


「保健室、行くぞ。怪我してる」


 その背中は、頼もしかった。


――この時の俺は、疑いもしなかった。


 ギャノンは、いい奴だ。

 Aクラスで、初めてできた友だちだと。


 まさか――

 この男が、後に俺の人生を壊す存在になるなどとは。

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