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魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第三章 マゼル学園入学編

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第521話 ファインの過去①

side ファイン


 妹のサラは、重度の魔欠症だった。

 魔欠症とは、体内の魔力が常に外へ漏れ出してしまう病だ。その上、自力で魔力を生成・回復することが極めて困難――しかも、完治する方法はいまだ発見されていない。


 サラの場合は特に症状が重く、体内で魔力を生み出す機能そのものがほとんど働いていなかった。

 放置すれば、確実に死に至る。


 だから妹は、常に魔力回復薬を点滴によって投与し続ける必要があった。だが症状が重度であるがゆえ、一般的な魔力回復薬では回復量が追いつかない。


 結局、薬師の紹介で――両親は聖魔教会を頼ることになった。


 教会が提供する【聖魔水】は、市場で流通している魔力回復薬よりもはるかに効果が高い。

 だが当然、その分だけ代償も大きかった。


 教会は「代金」を請求しない。

 代わりに求められるのは――お布施。


 気持ちで構わない、とは言う。

 だが相場よりも少ないと「在庫がない」「順番待ちだ」と理由をつけて提供が後回しにされる。


 うちは商人の家系ではあったが、平民として特別裕福というほどではない。

 教会へのお布施が続くにつれ、生活に余裕はなくなっていった。


 そのことを、一番申し訳なく思っていたのは――間違いなくサラだ。


 点滴につながれたまま、申し訳なさそうに笑う妹を見るたび、胸が締め付けられた。

 兄として、何もできない自分が情けなかった。


 十歳を過ぎてからは、俺も両親の仕事を手伝うようになった。

 時間を見つけては働き、少しでも家計の足しになろうとしたが――稼げる金は、駄賃程度だ。


 両親は「助かるよ」と礼を言ってくれた。

 だが、それが焼け石に水であることは俺自身が一番わかっていた。


 だから最初は、俺も商人になろうと思っていた。

 少しでも早く稼ぎ、家を支えたいと。


 だが――サラの苦しむ姿を見続けるうちに、考えは変わっていった。


 俺が商人になっても、根本的な解決にはならない。

 サラを救うには、病気そのものを治す必要がある。


 そして知ったのが、近年注目され始めた分野――魔導医療だった。


 魔法と医学を融合させた、新しい医療。

 もし最新の魔導医療を学び、研究することができれば……サラを救える方法が見つかるかもしれない。


 そう思った時、迷いはなかった。


 俺は両親に頼み込んだ。

 魔法学園の入学試験を受けさせてほしい、と。


 家が苦しいことはわかっていた。

 だから、学費は勉強しながら稼ぐ仕事を探す、とも話した。


 だが――両親は、そんな俺を見て、静かに微笑んだ。


『お前がそこまでサラのことを考えていたなんて……私は誇らしいよ』

『学費のことは心配しなくていい。お前は、自分で決めた道を行きなさい』


『そうよ。私たちのことなんて気にしなくていいの』

『貴方を学園に通わせるくらいの蓄えは、ちゃんとあるわ』


 その言葉に、俺は堪えきれず涙を流した。

 そして、心に誓った。


――絶対に学園で結果を出す。

――魔導医療の道へ進み、サラを救う。


 そうして迎えた、魔法学園への入学。


 だが――入学式で知らされた現実は、あまりにも無情だった。


 一年Fクラス。

 学年最底辺、落ちこぼれの集まるクラス。


 希望に胸を膨らませていた分、その評価は重くのしかかった。


 教室を見渡せば、クラスメートたちの顔も沈んでいる。

 Fクラスから始まって、上に行けるのか。

 学園に通う意味はあるのか。


 不安と諦めが、教室の空気を支配していた。


――そんな中、教室に入ってきたのが担任教師、イロリだった。


 イロリは一度、何も言わずに教室を見回した。

 腕を組み、机に(もた)れ、俺たち一人ひとりを値踏みするように眺める。


 そして、口を開いた。


「知っての通り、ここはFクラスだ」


 淡々とした声。

 それだけで、胸の奥が冷たくなる。


「学園の最底辺。落ちこぼれの集まる場所――そう呼ばれている」


 言葉が、重く突き刺さる。

 担任ですら、そう言うのかと、心が沈みかけた――その時。


「だが――」


 イロリは一歩前に出て、黒板を拳で叩いた。


「――そんなもん、糞食らえだ!」


 教室が、静まり返る。


「そろいもそろって暗い顔しやがって。いいか、お前ら。ここはFクラスだ」


 イロリは笑った。

 だが、その目は真剣だった。


「つまりだ。これ以上、下はねぇってことだ」


 その言葉に、何人かが顔を上げる。


「下を見るな。見るのは上だけだ」

「どん底から這い上がる人間ほど、強くなれる」


 イロリは指を立て、天井を指した。


「お前らには、その資格がある」

「俺はそう信じてる」


 そして、拳を握り締める。


「だから――お前らも、俺を信じろ」

「お前らが成長するために、俺は全力を尽くす」


 その瞬間。

 教室の空気が、わずかに変わった。


 絶望だけだった場所に、かすかな熱が灯る。


――それが、イロリ先生との出会いだった。


 この日、Fクラスで語られた言葉は。

 確かに、俺の胸に深く刻まれた。

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