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魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第三章 マゼル学園入学編

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第517話 ビロスの危機

side ビロス


「くっ……」


 息が荒れる。

 腕も、脚も、思うように動かない。


「ハハッ。どうした? もう終わりか?」


 余裕たっぷりの声。

 その一言だけで、実力差を突きつけられている気分になる。


 強い。

 こいつは――本当に、強い。


 拳も、蜜も、色々試した。

 工夫も、意地も、全部ぶつけた。


 それでも、通じない。


 でも――まだ。


 まだ、やれることは残っている。


「蜜魔法・ハニーアビス!」


 詠唱と同時に、蜜が渦を巻く。

 粘度の高い黄金色の液体が形を変え、大型の蜂となって飛び出した。


 羽音が空気を震わせ、一直線にミクスへ襲いかかる。


「おお、蜜の蜂か。面白いな」


 ミクスは笑いながら、身をひねってそれをかわす。

 だが、その視線がアビスに向いた――今だ。


「蜜魔法・ハニーボンド!」


 拳を振り抜く。

 床を這うように広がった蜜が、ミクスの足元に絡みついた。


「……動けねぇな」


 ミクスの足が、地面に縫い止められる。


 そう。

 範囲は狭いけど、その分、接着性は段違い。


 ハニーボールより、ずっと強力な――拘束用の蜜。


(これで……!)


 アビスが再び襲いかかる。

 今度こそ――


「蜜ってことは……甘いのか?」

「――ッ!?」


 ミクスは躊躇なく、アビスに噛みついた。


 音を立てて、蜜の蜂が引き裂かれ――そのまま、食われた。


「お、甘くていけるじゃん」


 信じられない。

 蜜でできてるとはいえ、あれはただの蜂じゃない。


 それなのに――


「で、でも! 動けないのは変わらない!」


 私は拳から針を伸ばし、何度も叩き込む。

 一発で駄目なら、二発。

 二発で駄目なら、三発。


「ドラゴンフライって、知ってるか?」


 突然、そんなことを言われた。


 次の瞬間――熱。


 炎だ。


 ミクスの口から吐き出された炎が、空気を焼く。


 反射的に後ずさる。

 だけど、この距離で吐いたら――自分も。


「お、溶けた溶けた。炎には弱かったみてぇだな」


 視線を戻すと、蜜は跡形もなく消えていた。


 拘束は、完全に解除されている。ミクスへのダメージもない。


「ドラゴンフライってのはな、火を吐く蟲系の魔物だ。顔が竜っぽいからそう呼ばれてる」


 首を鳴らしながら、ミクスは続ける。


「それが俺にも使えるってわけだ」

「……」

「ま、俺の方が何倍、いや何十倍……何百倍? ま、とにかくすげぇ炎を吐けるけどな」

「……それ、何の自慢?」


 思わず口から出た。

 だけど、ミクスは気にした様子もない。


「そういや、お前。本当は蜂だろ?」

「――ッ!?」


 背筋が凍る。


「何でわかったって顔だな。俺の体には無数の蟲の細胞が組み込まれてる。だから、なんとなくわかんだよ」


 ニヤリとした笑み――気持ち悪い。

 ただそれだけが、はっきりとした感想だった。


「さて。蜂っていえば――ライトニングビー、知ってるか?」


 次の瞬間、世界が白く弾けた。


 全身に電撃。

 思考が、感覚が、焼き切られる。


「ぐっ……!」

「刺すと同時に電撃を浴びせる蜂だ。もっとも、俺は針なんて使わねぇがな」


 首を掴まれ、宙に持ち上げられる。


「く……はな、せ……」

「う~ん。どうしようかなぁ」


 思案するような素振り。

 そして、唐突に告げられた言葉。


「だったらさ。お前、俺の子を産め」

「……は?」


 理解できなかった。


 地面に落とされ、見上げると――

 舌なめずりしながら、こちらを見る目。


 気持ち悪い。

 吐き気がする。


「お前、強いし、俺の好みだ。俺とお前の子なら、優秀なのが生まれる」

「……」

「最強の雄と番になれて、命も助かる。いいこと尽くめだろ?」

「ふざけるな!」


 叫ばずにはいられなかった。


「誰がお前なんかと! 絶対に嫌!」

「最強の雄だぞ? 何が不満だ?」

「最強? 馬鹿言わないで!」


 胸の奥から、言葉が溢れた。


「確かにお前は強い! でも――マゼルの方が、絶対に強い!」


 そうだ。

 比べるまでもない。


「マゼル……あぁ」


 ミクスが、思い出したように呟く。


「俺の目的も、そっちだったな」


 再び、首を掴まれる。


「どうせ、そっちも俺が潰す。遅いか早いかの違いだ」


 力が抜けていく。


「助けて……マゼル……」

「ハハッ。無駄だ」


 その瞬間――


 衝撃。


 ミクスの体が、後方へ吹き飛んだ。


 そして、私を包み込む温もり。


「ビロス。もう大丈夫だから」


 優しい声。

 優しい手。


「マゼル……」


 その名前を呼んだ瞬間、

 張り詰めていたものが、全部ほどけた。


――来てくれた。

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