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魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第三章 マゼル学園入学編

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第512話 敵対しない理由

side イスナ


「一体、何を企んでいるのですか?」


 私は率直な疑問を、そのままビホルダにぶつけた。

 魔法使いを狩り続けてきた魔狩教団の人間が口にする言葉とは、とても思えなかったからだ。


「何も企んでなどおりませんよ。そもそも我々が粛清すべきは、神の力を我が物顔で使用している人間のみ。あなた方エルフは、その対象ではありません」

「貴様の目は節穴か? 我らも魔法を使う。この魔獣を倒したのも魔法によるものだ」


 クイスが低く反論する。


「ええ。確かにエルフも魔法を扱う。ですが、あなた方が使うのは精霊魔法。精霊と心を通わせ、精霊に愛された者のみが行使できる力です」

 

ビホルダは淡々と続ける。


「人間が使う、力だけを奪い取った偽物とは異なる。自然の理に根差した、高貴な力――」

「……だから、エルフとは敵対しないと?」

「その通りです。ですからご安心を。このまま引き返していただければ、こちらから手を出すことはありません」


 言葉の端々に嘘は感じられない。

 しかし、それでも――納得できる話ではなかった。


「そういうことでしたら、今すぐこのような馬鹿げた真似はおやめください」

 

私は一歩、前に出る。


「魔獣の暴走に関与しているのであれば、今すぐ止めさせるのです」

「それは無理な相談ですね」

「何故ですか。私たちはこの魔法学園の生徒です。エルフである私たちが通う学園を襲撃する行為は、敵対と同義でしょう」

「残念ながら」


 ビホルダの声が、わずかに冷たくなる。


「我々はエルフに手を出すつもりはありませんが――愚かな人間は別です。特に、学園で魔法を学ぼうなどという行為。それは決して見過ごせません」


 やはり、人間への敵意は揺るがない。

 説得は、ここまでのようだ。


「それならば、仕方ありません」

 

 私は静かに告げる。


「私たちは全力で、あなた――いえ、魔狩教団を止めます」

「右に同じ。姫様の意思に従い、このクイス全力を尽くす」


 交渉決裂――

 そう思った瞬間、ビホルダが不意に問いを投げてきた。


「――何故ですか?」

「何故、とは?」

「あなた方エルフが、そこまでして人間に肩入れする理由です」


 仮面の奥の視線が、鋭くこちらを射抜く。


「まさか知らぬわけではありますまい。かつて人間が、エルフにどれほど酷い仕打ちをしたか」


 その言葉に、私の脳裏に過去の光景がよぎる。


「……その表情。やはり知っているのですね」

「――話には聞いています」


 私は息を整え、答えた。


「確かに、人間とエルフの間には深い溝がありました。かつての人間の中には、エルフを奴隷として扱う者も少なくなかった」

「その通り。愚かな人間はエルフに首輪を付け、物のように扱った。その屈辱――忘れられるはずがない。そうでしょう?」


 私は一瞬、目を伏せ――そして、はっきりと顔を上げる。


「……確かに、わだかまりのすべてが消えたとは言い切れません。ですが」


 胸に手を当て、続けた。


「そんな私たちを救ってくれたのも、人間でした。かつてのゼロの大賢者が、私たちを救ってくれたのです」


 その名を出した瞬間、ビホルダの雰囲気が変わった。


「大賢者様は、人の過ちを正し、大陸から差別をなくした。そして、エルフと人とを繋ぐ架け橋となり、共存の道を示したのです」

「……なるほど。ですが、こうは思わないのですか?」


 ビホルダが言葉を挟む。


「かつての大賢者が、エルフを利用するために、敢えて味方のように振る舞っただけだと――」


 その瞬間だった。


 抑えていた感情が、限界を超えた。


「――ッ!」


 気付けば、火の精霊王(イフリート)の拳が、ビホルダへと振り下ろされていた。


「驚きましたね。いきなり攻撃してくるとは」


 ビホルダは軽やかに跳躍し、その拳を避ける。


「精霊剣――土の爪壊(そうかい)!」


 間髪入れず、クイスが追撃する。

 床が隆起し、巨大な爪のように変形してビホルダを襲う。


 だが、ビホルダはそれすらも跳躍で回避した。


(……違和感)


 その動きを見て、私は確信に近い感覚を覚える。


「貴方もですか。随分と攻撃的ですね」

「大賢者様を愚弄する発言、看過できない」


 クイスも同じ想いなのだろう。


「やれやれ。確かに敵対するつもりはありませんでしたが――」


 ビホルダが肩をすくめる。


「一方的に攻撃されては、話は別ですね」

「無駄だ」


 クイスが剣を構えたまま言い切る。


「今のでわかった。お前たちでは、我々には勝てない」


 クイスが言い放ち、私を見る。


「……ですよね、姫様?」

「ええ。間違いありません」

「ほう。それはまた、随分な自信ですね。理由を聞いても?」

「――魔切り」


 私は静かに告げた。


「それが魔狩教団の特技でしたね。ですが、今あなたはそれを使わなかった」

「司祭を名乗る者が使えぬとは思えん。つまり答えは一つだ」

「魔切りは――精霊魔法には通じない」


 一瞬の沈黙。


 やがて、ビホルダが小さく笑った。


「ええ。その通りですよ。我々の魔切りは、人間の魔法を断つための業。精霊そのものを断つものではありません」


 あっさりと認めましたね。


「ですが、何故わざわざそれを私に。そのまま攻撃を続ければ良かったでしょうに」

「諦めてほしかったのです」


 私は真っ直ぐに見据える。


「私たちは戦いを望んでいません。もし、あなたに本当にエルフへの敬意があるのなら――降参し、仲間にも止めるよう伝えてください」


 ビホルダはしばらく黙り込み――やがて、深く息を吐いた。


「……なるほど。確かに、このまま戦っても勝ち目はない」


 どうやら戦意は喪失したようですね。


「それに正直、この襲撃には私自身も疑問を抱いていました」


 意外な言葉だった。


「いいでしょう。その提案に乗ります。ただし、その前に――どうしても、お二人に話しておきたいことがある」

「話、ですか?」

「ええ。現代の大賢者――マゼルとも、深く関わる話です」


 マゼル様の名を出された以上、聞かないという選択肢はない。


「……わかりました。聞かせてください」

「では、もう少し近くに」

「――姫様。油断なされぬよう」


 クイスが小声で注意を促す。

 私たちは警戒を解かぬまま、ビホルダに近づいた。


「――凝視」


 低く呟かれた一言。


 次の瞬間、ビホルダの瞳が妖しく光り――私の体が、完全に硬直した。


「フフッ。上手く引っかかってくれましたね」


 くッ――動けない。


「ご安心を。私のギフト【凝視】で動きを封じただけです。それ以上のことはしません」


 凝視――恐らくあの瞳を見たのが悪かった。警戒していたつもりなのに、しっかり話を聞くためについ視線を合わせてしまった。


「いずれ束縛は解けます。その頃には、すべて終わっているでしょう」


 その背後から――


「ハァアアァアアァアアアアアアッ!」


 熱量のこもった叫び声。


「熱血旋風脚!」


 炎を纏った蹴りが、ビホルダに迫る。

 しかしビホルダは軽く身を翻し、それを回避した。


「――何者だ?」

「僕はガッツ! 女性に手を出す不届き者は許さないッスよ!」


 ガッツ――Dクラスの生徒。


(まさか、この子が……)


 予想外の乱入者に、場の空気が大きく揺らいだ。

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