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魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第三章 マゼル学園入学編

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第499話 ルールブック

side ラシル


 うちの宿も随分と賑やかになったものだ。

 宿泊客は絶えず、昼時になれば食事目当ての客で席が埋まる。


 だからこそ、こうして客足が落ち着いた一瞬に息をつく――とはいえ、手は動き続けて食器を磨いていたりするけどな。


「アンタ、どしたい? 空なんかじっと見て」

「いや……マゼルはどうしてるかと思ってな」


 ふと、マゼルやZクラスの面々を思い出す。


 風の噂では、学園で親睦会が始まっていて、彼らは対抗戦を勝ち抜いたあと 上級生との魔法戦に挑んでいるらしい。

 今まさに戦っているのかもしれない。


「あの子なら大丈夫さね。ま、心配なのは女心に対しての鈍さぐらいかねぇ」

「ハハッ、それは確かにな」


 ジリスは“心配”というより“面白がっている”に近い。そういうところが好きなんだけど。


 さて、そろそろ仕事に戻るか――そう思った矢先だった。


 空気が、ひりついた。


 鼻に微かに引っかかる獣臭。

 直後、遠くの地面が震えた。

 まるで巨大な何かが駆けてくるような重い足音。


「アンタ? どうしたんだい?」


「……もしかしたら、それどころじゃないかもしれない」

「はい? 何言って――」


 ジリスが怪訝そうに言いかけた瞬間。


――空を裂く咆哮。


 全身の毛が逆立つほどの、地を震わせる声。


「な、なんだい今の!」


 影が落ちた。

 見上げると、巨大な黒竜 が空を横切っていくところだった。

 竜の頭上にはフードを深く被った人物が乗っている。


 ただ者じゃない。あれは……災厄の前触れだ。


 さらに――


「……魔獣、か?」


 黒竜を追うように、大小の魔獣が群れを成して都市を駆け抜けていった。


 ただの魔獣の暴走じゃない。明らかに“何かに従っている”動きだった。


「ジリス、今日の営業は中止だ。急いで宿泊客に声を――」


 “危険だ” と言いかけたところで、


 都市中の魔導スピーカーが警報を鳴らした。


 嫌な予感が、確信に変わった。


◆◇◆

side ルル


「僕たちも、もっと試合見たかったよねぇ」

「仕方ありません。学園の風紀を守るのが、私たち風紀委員の務めです」


 今まさに、一年Zクラスと三年Dクラスによる魔法戦の真っ最中。

 注目度は高いけれど、こういう時だからこそ警戒を強める必要がある。


「でもさ、皆あっちに集中してるし、学園内で事件なんて――」

「アラード。貴方は優秀ですが、そういう油断が一番危険なのですよ」

「うわ……ルルが厳しいだけじゃ――」

と彼が言いかけた瞬間。


――甲高い警笛。


 アラードの警備魔法だ。

 指定地点に魔法陣を配置し、侵入者が近づくと発報する。


 つまり、侵入者ありだ。


「アラード、行きます!」

「もう走ってるよ!」


 私たちは急いで校舎の外へ出た。


 そして――“それ” を見た。


 地面がわずかに振動し、砂を巻き上げながら迫る 大量の魔獣たち。


「うそ……どうして魔獣がこんな数……!」

「いや、これは……ヤバいよ。ルルの魔法で止まってるけど……」


 魔獣たちは、見えない壁に阻まれるように動きを止めている。


 私の固有魔法――規則魔法(ルールブック)


 魔法で作り出した本に“ルール”を書き込むことで、指定範囲内の存在に絶対の制約を課す。


 ただし条件も多い。


●対象の選別はできない

●課せるルールは一つのみ

●曖昧な文言は無効


 今回のルールは一つ。


『許可なき学園内への立ち入りを禁止する』


 魔獣だからといって無視できない強制力。

 だから入って来られない。通常なら――。


「アラード。今すぐ先生たちに知らせて!」

「わかった! ルルは?」

「私は風紀委員長です。この場を離れられません!」

「でも……これは危険すぎる! 本当に……!」

「大丈夫。私のルールがある限り、魔獣は中に入れません。だから今は――急いで!」

「……わかった! 絶対無理はするなよ!」


 アラードが校舎に駆け戻っていく。


 私は魔獣の群れを正面から見据えた。


 もし、このルールが破られたら――

 もし、この“壁”が壊されたら――


 学園は――一年生たちは――。


 弱気になるな。大丈夫。私のルールは、絶対よ。


 自分に言い聞かせるように息を整え、

 迫り来る魔獣の怒号を真正面から受け止めた。

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