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魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第三章 マゼル学園入学編

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第497話 強い心

side アニマ


「シグル! メーテル!」


 私は声を張った。

 返事のように、煙の向こうで二匹の咆哮と羽音が響く。

 視界は白く曇り、形は見えない。けれど、匂いと気配が伝わってくる。

 ――ちゃんと戦ってる。大丈夫。


「うざったいわね、この畜生どもが!」


 ルミナの怒声が響いた。耳障りなほど甲高い。

 あれが、彼女の本性なんだ――そう思うと胸の奥が冷たくなった。


「靭やかな火、熱き苦痛、伸びる赤鞭――火魔法・フレイムウェップ!」


 詠唱と同時に、熱風が肌を刺す。

 炎の揺らぎが霧を裂き、輪郭が一瞬だけ見えた。

 赤い炎の鞭。ルミナが振り抜くと、灼熱の軌跡が宙を走った。


「ギャン!」

「ピキィ!」


 悲鳴が上がった。

 シグルとメーテルが攻撃を受けた――!


「シグル! メーテル!」


 声を上げても、煙に掻き消される。

 炎の鞭は長く、火花を撒き散らしながら振るわれていた。


「あははは! 所詮ケダモノね! 火が怖くて近づけないでしょ!?」


 悔しいけど、彼女の言う通りだった。

 火は本能的な恐怖。獣である二匹には天敵のような存在だ。


「……大丈夫。無理に攻めないで。隙を狙うんだよ」


 私は小さく囁く。

 大丈夫。彼らには伝わる。

 焦らずに、冷静に。――Zクラスの一員として。


 煙の奥で、ルミナが何度も鞭を振るう音が聞こえた。

 だけど、何かが違う。鞭の動きが妙に乱れている。

 まるで“誰かの真似”をしているみたいな……。


――もしかして、狙いは別にある?


「甘き囁き、融ける意識、夢の檻で微睡め――」


 耳に届いたのはルミナの詠唱だ。


「心を強く、くじけぬ心、砕けぬ心――」


 私は両手を胸に重ね、必死に詠唱を続ける。やっぱり(・・・・)ルミナは私を狙っていた。お願い、間に合って――!


「誘惑魔法・メロウスレイブ!」

「通心魔法・ストレングスハート!」


 光が交錯した。煙の中で二つの魔法陣がぶつかり合い、火花が散る。

 脳に刺すような圧迫感。心を掴まれそうな感覚が一瞬だけ走る――が、すぐにそれは消えた。


「フフッ、やったわ。これで私の勝ち。さぁアニマ、あの二匹を使ってZクラスの邪魔をしなさい!」


 ルミナが勝ち誇った声を上げた。

 だけど――私の口から出た言葉は違った。


「わかりました。――気高き心、燃え上がる勇気、屈強なる精神――通心魔法・ヒートハート!」


 赤い光がシグルとメーテルの体を包む。

 二匹の瞳が力強く輝いた。


「ハハッ! いいわよ、そのまま――」

「シグル、メーテル、ルミナを狙って!」

「はぁ!? ちょ、ちょっと何言ってんのよ!?」


 ルミナが慌てて後ずさる。

 強化された二匹が低い唸り声を上げて飛びかかった。


「なんで!? なんで操られないの!」

「魔法で心を強くしたの。あなたの魔法は通じない!」


 私は言い切った。

 胸の奥から湧き上がる力が、恐怖を押しのける。

 ――この魔法は、“他人の心”じゃない。“自分の心”を強くする魔法なんだ。


「うそよ……でも、どうして私の位置が……」

「あなたが操ってたのは、先生の方だった。鞭を振っていたのはウィンガル先生。だから炎の動きが乱れてたの!」


 困惑するルミナに向けて真実を叫ぶ。


「嘘……そんな……!」

「やっと抜けたぁぁぁっ!」


 その時アズールの声が聞こえた。


「へ? ちょ、煙で見えない! ヴァルド! ヴァルド!?」


 パニックに陥ったルミナが叫ぶ。だけど返事はない。どうしてヴァルドの名前を呼んだかはわからないけど、今がチャンスだ!


「シグル! メーテル!」

「ガルゥウウウゥウ!」

「ピィ!」

「キャァアアァァアア!」


 ルミナの悲鳴が霧を震わせる。そしてドサッと倒れる音。


 私は音を頼りに近づき、倒れたルミナの姿を確認した。

 完全に気を失っている。白目を剥いてぐったりとしていた。


「勝った……私、勝てたんだ……」


 安堵で全身の力が抜けた。

 その時、背後から声が聞こえた。


「うん? 私は一体――それに、なんだこの鞭は?」


 ウィンガル先生――!

 そうか、ルミナが気絶したことで誘惑の効果が解けたんだ。


「良かった……」


 膝から崩れ落ち、座り込む私のそばに、シグルとメーテルが寄ってくる。

 彼らの温もりが心地いい。


「ありがとね。二人とも……」

「グルゥ」

「ピィ~」


 二匹の頭を交互に撫でながら、私は静かに笑った。

 強くなるって、こういうことなんだ――。

 煙の向こうでまだ戦いの音が響いている。

 でも、私の心は不思議と穏やかだった。

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