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魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第三章 マゼル学園入学編

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第489話 魔力0の大賢者、上級生との魔法戦に挑む

 ラーサ大丈夫かな……。


 ロベール会長に敗れてから、ラーサの様子が目に見えて変わった。最後の挨拶の時も心ここにあらず、アネに話しかけられても反応が薄い。

 やっぱり、負けたことが堪えたんだろうか。


「それにしてもラーサでも通用しないなんてな」

「――生徒会長には“読まれていた”。私も正直、気になってはいたけど」

「え? アイラも何かわかってたの?」

「――マゼルにもわかっていたと思う。ラーサは扱える属性が増えたし、魔法の数も多い。だけど、魔狩教団との戦いから“あまり成長していない”……」


 アイラの真剣な声に、胸をぐさっと抉られた気がした。

 大事な妹だからって、僕も“成長”という面から目を背けてたのかもしれない。


「マゼル。お前は妹の心配をしている場合じゃないぞ。そろそろ時間だ」


 イロリ先生が腰を上げる。そうだ。次は――Zクラスが三年生とやる番だ。


「おお! ついに出番だな! マゼル、妹のことで腑抜けた試合すんなよ」

「わかってる。ラーサも、そんな僕は見たくないだろうしね」

「マゼルはわかってる。ラーサのためにも“いい試合”にする」

「マゼル様ならきっと大丈夫です」

「ビロスもマゼルのこと応援してる!」

「マゼルなら相手が誰でも勝てます! ありえるのです!」

「ちゅ~!」

「頑張れよ、マゼル!」

「しっかりこの眼鏡で見届けますね」


 皆の声が背中を押してくれる。僕たちは試合場へ向かって歩き出した――その時。


「おい、Zクラス」


 後ろからラクナの声。振り返ると、真っ直ぐな目。


「お前らはSクラスと引き分けたんだ。無様な試合はしてくれるなよ」


 一瞬きょとんとしたけど、すぐにわかった。これ、ラクナなりの激励だ。


 ありがとうね、ラクナ。


「クマちゃんと一緒に応援してるね♪」

「あたしもフルボイスでしっかり声出して応援してやんよ!」

「ハハッ、君がフルボイスで応援したら気絶者が続出してしまうよ」

「違いないね。ま、しっかりやりな」

「勝手に燃えて精々自滅しないようにな」

「お前それ絶対俺に向けて言ってるだろう!」


 最後のフレイザの言葉にアズールが噛みつき、舌打ちしながら拳を突き上げて答えていた。なんだかんだ、良い空気だ。


 僕たちはイロリ先生を先頭にリングへ――。


「よぉ。来たな」


 向こう側の控え席にギャノンがいた。あのニヤついた顔で、こっちを値踏みするみたいに見ている。

 嫌な予感しかしない。


「それではこれより、三年Dクラス対一年Zクラスの魔法戦を始める。互いに試合に出る順番を決めるように――」

「ちょっと待ってくれよ」


 ウィンガル先生の説明を、ギャノンが遮ってそのままリングに飛び乗った。


「勝手にリングに上がるんじゃない」

「まぁまぁ。なぁ、理事長! 聞いてくれ!」


 ギャノンが観客席の理事長席に向けて声を張る。リカルドが視線だけで促す。


「魔法戦もずっと同じじゃ、見てる方も退屈だろ? だから俺はこの試合を“三年と一年による五対五のバトルロイヤル”にすることを提案するぜ! 三年か一年、どっちかが全滅するまでやる! どうだお前ら? その方が愉しいだろう?」


 歯を剥いて笑うギャノン。――ここで、ルールごとひっくり返す気か。


「いい加減にしろ! 何を勝手なことを!」

「まぁ待て」


 ウィンガル先生が詰め寄った瞬間、リカルドが片手で制した。


「確かに、慣例だからとこれまで同じルールで続けてきた。だが、生徒が自主的に提案してきたことを、頭ごなしに却下するのも違うだろう」


 リカルドの視線が、僕たちZクラスに向く。


「どうだ? Zクラスが問題ないなら、三年の提案通りで行ってもいいと思っている。……もちろん、自信がなければ断っても構わないが――」


 言い方が実にリカルドらしい。挑発にほんのり皮肉を混ぜてくる。

 わかっているんだ、この言い方ならZクラスが引き下がらないって。


「上等だ! どんなルールだろうと負けるかよ! そうだろお前ら?」

「勿論だ。むしろ腕が鳴る」

「バカにされっぱなしなんて癪だもんね」

「私は“決められたルールに則って行動する”だけです、とお答えします」

「私は多分出ないけど、馬鹿にされるのはごめんね」

「そうだね。ここまで言われたらね」

「う、うん! どんなルールでも皆なら大丈夫だよ!」

「ガウ!」

「ピィ~!」

「……バトル――ロイヤル」


 アズールに続いて、ガロン、リミット、メイリア、メドーサ、ドクトル、アニマ――それにシグルとメーテルもやる気を見せる。

 シアンは少し不安げだけど、目は前を向いていた。


 ギャノンのことだ。何か仕掛けてくるだろう。けど――逃げるわけにはいかない。


「先生、僕たちは受けようと思います。どうですか?」

「お前らがそう決めたなら、やればいいだろ。……そういうわけだ、理事長」

「うむ。それでは“三年Dクラス対一年Zクラスの試合は、バトルロイヤル方式”で行う!」


 リカルドの宣言に、会場中がどっと沸いた。空気が一気に熱くなる。

 やるしかない。ここで勝って、見せる――!






◆◇◆


「準備は万全ですか? ファイン」

「あぁ。問題ない。が、随分とゴツい連中を用意したもんだな」

「フフッ、この日のために手懐けておいた危険な魔獣たちですよ。人間たちの定めたランクで言えばBランクやAランク、それにSランクもね」

「――戦力を整えるのはいいが、俺の邪魔はするなよ」

「勿論。ただし貴方も“マゼル”のことは忘れずに」

「――邪魔をするなら、どんな奴でも容赦はしないさ」

「結構。では、そろそろ行きましょうか。愚かな連中に罰を与えにね――」

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