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魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第三章 マゼル学園入学編

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第487話 魔力0の大賢者、生徒会長とラーサの試合を見守る

「ラーサ! 頑張ってぇえええ!」


 思わず立ち上がって声を上げると、ラーサがこっちに気づいてふわっと微笑んでくれた。


 はぁ、あの笑顔はまるで天使だよ。この笑顔を見るためだけでも学園に来て良かったって思える。


「いいからさっさと座れよマゼル!」

「ほんと、妹のことになると周りが見えてないのね」


 アズールに腰を押され、メドーサに呆れられた。うぅ……妹のこととなると、つい、ね。


「……マゼル」


 アイラがそっと声をかけてきた。やり過ぎてみっともなかったかな。


「あ、ごめん。うるさかったよね」

「そうじゃない――マゼルはラーサを応援してる。でも……もし生徒会長が噂通りの力なら、双方にとって酷な試合になるかもしれない――」


 アイラの表情は硬い。会長の実力。直接見たことはないけど、大将を務める時点で察するべきだろう。


「心配してくれてありがとう。でもきっと大丈夫。もし負けても、ラーサなら必ず糧にできるよ」

「――マゼル……うん、そうだね。きっと」

「マゼル様の妹君であるラーサ様なら、試合で負けてもへこたれるなどありえません」

「ちょ!」


 イスナがするっと会話に入り込んで、なぜかアイラを押しのけ気味。いや、その熱量はありがたいけど!


「ビロスもラーサを応援してる! マゼルと一緒に応援!」

「わわっ!」


 後ろからビロスが抱きついてきた。応援は嬉しいけど、その距離感は色々ドキドキするから!


「ビロスはありえません! 離れてください!」

「そうですよ! もっと適切な距離感を!」

「姫様、あまり興奮されると精霊が……」

「ちゅ~……」


 アリエルとイスナがビロスを引きはがし、クイスが精霊の暴走を心配し、ファンファンは若干あきれ顔。


「ハハッ。マゼルの周りはいつも賑やかだね。メイリアも楽しいんじゃないかい?」

「ただただ呆れております、とお答えします」

「この状況でも陰陽のバランスが保たれているのは、マゼルの影響と言うべきか。さすがであるな」

「当然さぁ。マゼルは皆の太陽――」


「そこ! もう少し静かにしたまえ! 目に余るようなら退場とする!」


『ごめんなさい……』


 ウィンガル先生の一喝に、みんな素直に謝った。


「全く……気を取り直して、生徒会執行部 対 特別学区の大将戦を始める」

「生徒会執行部会長、ロベール・オドニア・フラジリスだ。君の本気を楽しみにしているよ」

「ラーサ・ローランです。よろしくお願いします」

「ラーサ、目にもの見せてやりな!」

「ラーサちゃん、頑張って!」


 ロベール会長とラーサが挨拶を交わす。観客席からはアネとアンの明るい声。アネは出られないぶん、親友のアンが預かっている形なようだね。


「まずは君の魔法がどんなものか、見せてもらおうか」


 開始の合図。会長の声音は穏やかだけど、底が知れない。


「随分と自信がおありなんですね。なら、遠慮なく――緑の凪、刻みの空、風の傷、追い立てよ刃――エアロカッター!」


 先手を切ったのはラーサ。放たれた風の刃が会長を切り裂かんと奔る。


「私相手に様子見かい? ――光あれ、ライトシールド」


 短い詠唱。会長の前に光の盾が瞬時に展開され、風刃はきれいに弾かれた。やっぱり詠唱省略は当たり前って顔だ。


「やりますね! それなら――飛炎の鳥、燃え上がる朱、意思を持つ火、獲物を狙う翼――ファイヤーバード!」


 次は火。無数の炎の鳥が意思を持つかのように舞い、会長へ殺到する。シールドに対して角度と数で崩す判断、悪くない。


「なるほど。――光あれ、シャイニングレイ」


 指先から射線が雨のように走り、炎の鳥は次々と撃ち抜かれて霧消した。


「浮き上がる土塊、落ちる衝撃、重厚なる巨岩――ロックフォール!」


 土へ切り替え。リングから打ち上げられた土塊が岩へ変じ、頭上から降り注ぐ。


「おいおい、あの子いったい何属性扱えるんだよ!」

「風に火に土って、どれだけレパートリーあるのよ!」


 周囲がどよめく。ラーサの多彩さ自体は十分に脅威だ。――けど、会長の視線は、どこか冷めているようにも見えた。


「――光あれ、シャインステップ」


 足元が一閃。会長は軽やかに、けれど人以上の速度で岩の雨を縫うように躱していく。


「天の鳴動、輝く雷鳴、黄金の鉄槌、迸る(あずま)、打ち砕け障碍――ブレイクサンダー!」


 読み切っていたかのように、ラーサの雷が会長を捉えた。白煙がぶわっと立ち上がる。


「やったなラーサ!」

「これは決まりよね!」

「――そう上手くいくといいけどねぇ」


 シルバとフレデリカが沸く一方、アネは冷静だ。


「一発、もらってしまったか」

「え?」


 煙が晴れる。そこには涼しい顔のロベール会長。ラーサの目が見開かれた。


「そ、そんな……無傷だなんて」

「驚くことではない。雷はヘンリーも得意だ。彼とはよく魔法の鍛錬で打ち合っている。それに比べれば、この程度は大したことではない」

「大した……ことじゃ、ない?」


 言葉を失うラーサ。信じられない、そんな顔だ。


「――どうした? “すごい、才能に溢れてる、見事だ”とでも言って欲しかったかい?」

「そ、そんなこと!」

「君は優秀だ。これだけの属性を扱えるのだから才は確かにある。だが――君の魔法からは君が見えない」


 淡々とした言葉なのに、刃のように刺さる。ラーサの動揺が、こっちにも痛いほど伝わってきた。


「わ、私にはまだ使える魔法がある! ――天空の輝き、煌めく矛、その光で闇を穿て――ライトジャベリン!」

「――私相手にいい度胸だ。――天空の輝き、煌めく矛、その光で闇を穿て――ライトジャベリン」


 同じ詠唱、同じ魔法。けれど、質が違う。

 ラーサの無数の光槍より、会長のたった一本の光槍のほうが、圧倒的に鋭く、洗練されている。


 会長の槍が直線で貫き、ラーサの光はまとめて撃ち抜かれた。槍はラーサの横を通過し、背後のリングに着弾――光柱がドンと立ち上がる。


 その迫力に、観客席から息を呑む音が重なった。


「それで? 君の“お披露目会”は、まだ続くのかな」

「あ、あ――」


 言葉が出ない。ラーサがじりじりと後ずさる。気圧されてる――完全に。


「――ブルックの青魔法、シルバの銀魔法、フレデリカの妖精召喚、グリンの植物。彼らは魔力だけ見れば君より低いだろうが、それぞれの魔法から“個性”が滲んでいた。君には、それがない。残念だ。――光あれ、ルミナスバースト」


 会長が指を弾いた瞬間、視界が爆ぜるような閃光が走った。

 眩しさで会場がざわめく。……けど僕は、目を凝らしてしっかり見える。光の芯、そこにある動きがわかるから。


 光が収束した時――会長はラーサを軽く抱え、リング端に立っていた。


「これで終了だ。お嬢様」


 ガラス細工でも扱うように、ラーサをそっと場外へと降ろす。その丁重さが、逆に“格の違い”をくっきりと描き出してしまう。


「――場外! 生徒会執行部の勝利とする!」


 ウィンガル先生の宣言が響く。

 会長は背を向け、ゆっくりと歩き出した。残されたラーサは、光の失われた瞳で、ただ呆然と立ち尽くしていた――。

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