表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第三章 マゼル学園入学編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

487/502

第485話 魔力0の大賢者、ヘンリーの試合を見る

「ぷっ……ほら見ろよ。口ほどにもないじゃないか」


 リングを降りてきたフレデリカに、シルバが皮肉を飛ばす。


「う、うるさいわね! 黙ってなさい!」


 顔を真っ赤にして言い返すフレデリカ。その気高さだけは崩さまいとする姿に、僕は思わず感心した。


「続いて副将戦を始める。両者はリングへ」


 ウィンガル先生の声で、リングに上がる二人の姿があった。

 特別学区側はグリン。ラーサたちが魔狩教団に囚われた時、彼の冷静な判断で皆が逃げ延びたんだった。


 そして生徒会執行部からは――ヘンリー。

 魔法学園に入る前、僕は彼と一度だけ魔法戦を経験している。あの頃から雷鳴魔法の扱いは群を抜いていたけど、こうして学園で戦う姿を見るのは初めてだ。


「特別学区副将――グリン・キーパーなのだよ」

「僕は生徒会執行部副会長、ヘンリー・マナール・ロンダルキアさ。君たちのような未来ある後輩を持てたことを光栄に思うよ」


 そう言ってヘンリーがグリンに薔薇を手渡した。

 グリンが少し困惑しているけど、あぁいうところは昔から変わらないね。


「――試合開始!」


 ウィンガル先生の号令。直後、ヘンリーが両手を大きく広げ――


「僕は美しい!」

「は?」


 ヘンリーの突拍子もない発言に、アズールが目を丸くした。……うん、気持ちはよくわかるよ。


「――そう、だって僕は皆の僕だから! 美しいと書いて僕と読む!」

「い、一体何のつもりなのだよ」


 ヘンリーの謎の言葉にグリンはさらに混乱していた。アリエルも額を押さえている。


「お兄様、いつもながらその詠唱はありえないのです」

「ちゅ~」

「え! あれ詠唱だったの!?」


 リミットの素直な驚きが会場にこだまする。

 ……まぁ、最初は誰だってそう思うよね。


「――ほら見てごらん、すっかり雷も僕の虜さ。さぁ君も浴びてごらん、僕の美しき雷撃ビューティフルサンダー!」

「なッ!?」


 轟音と共に雷がグリンの目の前に落ちた。

 グリンは咄嗟に後方へ飛び退き、ヘンリーとの距離を取る。


「驚いたのだよ。今のが詠唱だったとは」

「ふふふっ。僕の美しさを知ってもらおうと思って考えたのがこれさ。どうだい、伝わったかな?」

「――確かに伝わったのだよ。これならなんとかなるかもしれないとね!」


 グリンの目が鋭く光った。周りの生徒たちがざわめく中、彼は腰の袋から種を取り出し、リング上にばら撒く。


「芽吹けよ緑、成長の促進、緑の蔦は時に牙を剥く――植物魔法・グリーンファング!」


 地面から一斉にツタが伸び、口のように変化しヘンリーへと迫った。

 しかし――


「我は王でありそしてまた雷なり! この身をもってそれを証明せん! 皇雷脚(スパーキングスラスト)


 ヘンリーの脚が一瞬光を帯び、雷の弾ける音と速度を上げ回避した。


「なるほど。雷の力で速度を上げたのだよ」

「君のツタも立派だったけど、僕の輝きの前では少し影が薄いね」


 軽口を叩くヘンリーに、グリンの頬がピクリと動く。


「ならば、これはどうかなのだよ!」


 グリンが大きめの種を投げつけた。そして両手を地に向けての詠唱――すると、今度は大地の下から蔓の群れがせり上がり、鞭のようにヘンリーへ襲いかかった。


「植物魔法・ソーンウィップ!」


 鋭い棘を持つ蔓が、音を立てて空気を裂く。だが――


「素敵だ! その美しさ、認めよう! けれど僕の雷はもっと美しい!」


 迫る蔓に雷を纏った蹴りを浴びせるヘンリー。

 それでもグリンは怯まず、静かに微笑む。


「さぁ行くよ! 美しいとは罪と思わないかい? 完璧という孤独に打ちひしがれたことはないかい? でも安心しなよ――」

「その長すぎる詠唱が貴方の欠点なのだよ!」


 そう言って、グリンがポケットから何かを取り出す。

 それは、試合前にヘンリーから受け取った――薔薇。


「命は芽吹く、花よ、その主を絡め取れ――植物魔法・ローズバインド!」


 グリンの魔力が薔薇に宿り、花弁が一気に開いた。

 ヘンリーの目の前で薔薇の蔓が伸び、瞬時にして彼の身体に絡みつく。


「な、何ッ――!?」


 美しい蔓が腕や胴を縛り、ヘンリーの動きを封じた。


「これで終わりなのだよ。どんなに美しい詠唱でも、完成する前に動けなくなれば意味がないのだよ」


 グリンの勝ち誇った声が響く。観客席からもどよめきが起きた。


 確かにグリンの言う通りだ。ヘンリーの詠唱は独特だけど、その分、発動までに隙が生まれる。

 生徒会執行部の勝利が続くこの状況――グリンが一矢報いることができたと言えるだろう。


 だけど――まさか……このままヘンリーが負けるのか?


 その時、蔓に絡まれたままのヘンリーの口元が、静かに、けれど確かに笑った――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ