第481話 魔力0の大賢者、特別学区の代表を確認
「ふんっ、口だけの雑魚が」
気絶した生徒を見下ろしながら、ラクナが吐き捨てるように言った。
その眼差しは冷たく、周囲のざわめきも一瞬で凍りつかせる迫力があった。
そして彼はゆっくりと僕たちへと視線を向ける。
「――いいか。魔法戦では遅れを取ったが、結果的には引き分けだった。勘違いするなよ」
「うん。わかってるよ。ありがとう」
「お礼を言われる筋合いじゃない。当たり前のことを言っただけだ」
そう言い残し、ラクナはそっぽを向いて近くの席にドカッと腰を下ろした。素直じゃないけれど、それも彼らしい。
「本当に素直じゃない人ですね。私はZクラスの実力は確かだと思っていますよ。特にマゼル様の力は、学園どころか世界中の魔法使いが束になっても勝てないほど。エルフの中でも奇跡の――」
「姫様、落ち着いてください」
興奮気味に語り出すイスナを、クイスが慌てて制する。評価してもらえるのは嬉しいけど……僕に関して語られると、どうしてもむず痒くて居心地が悪い。
「全く、騒がしい連中だな」
そんな僕たちの様子を見て、イロリ先生が呆れ顔でぼそりと呟いた。
「いいじゃないかぁ~仲良しなのは素晴らしいことだよぉ~」
今度聞こえてきたのは師匠の声だ。火・水・土・風・光――五大精霊を従えて、なぜかダンスのようにクルクルと回っている。
「生徒の前でそのような振る舞いは如何なものか。教師としての示しがつかんぞ」
「うぅ……ごめんなさい」
師匠の肩を掴んで説教を始めたのはウィンガル先生。規則に厳しい先生だけに、まさにお手本のような対応だ。
「良いではないか。親睦会なのだから多少羽目を外すくらい」
「バカを言うな。こういう場だからこそ気を引き締める必要があるのだ」
シェリー先生が宥めるも、ウィンガル先生の厳しさは揺るがない。
……それにしても、先生たちまでどんどん僕たちの周りに集まってきている気がする。
「い~ろりん、調子はどうだい?」
「うるせぇ。なんでお前までここにいるんだ」
「まぁまぁ。Zクラスの周りがガラガラで寂しそうだったからさ」
にやにやと笑いながら答えるのはゲシュタル教授。確かに、僕たちの周りの席は最初スカスカだった。
「広いほうが快適だったのによ。余計に暑苦しい」
イロリ先生が心底うんざりしたように吐き出す。
「ま~た素直じゃないなぁ、い~ろりんは」
「そうだぜぇ、いろりん」
なぜか師匠まで一緒になって、イロリ先生の頬をツンツンと突き始める。
「お前ら、いい加減にしろ」
「全くだ。さっさと席につけ! 親睦会が始まるぞ!」
イロリ先生とウィンガル先生に同時に叱られ、二人は「は~い」と子供のように席に戻っていった。
「どっちが生徒かわからないわね……」
呆れたようにメドーサがこぼす。その言葉に僕も内心で大きく頷いた。
やがてリカルドが立ち上がり、全校生徒に向けて高らかに声を張る。
「これより親睦会を始める。まずは学園が誇る生徒会執行部と、特別学区の代表五人との魔法戦である。お前たちにとっても良い刺激になるだろう。しっかり見届けるように」
その言葉と共に、生徒会執行部と特別学区の代表五人が入場してきた。
そして、その列の中に――妹ラーサの姿を見つける。
胸の奥が熱くなり、視界が滲んだ。
「ラーサ……立派になって……」
「滝のように涙が溢れてるじゃない」
「シスコン具合が日々悪化してないか?」
「い、妹想いなのは良いことだと思うけど……」
皆が好き放題言ってくる。でも、そんなことはどうでもいい。
僕はただ、妹の晴れ舞台を、全力で応援していた。




