第480話 魔力0の大賢者、親睦会に向かう
いよいよ親睦会の日がやってきた。この日は特別扱いで授業も休み、全校生徒が見守る中で催される。
最初は特別学区と生徒会執行部の魔法戦。僕たちは他のクラスと同じように、まずは観客席から観戦だ。
会場は、以前Sクラスとの魔法戦を行った試合場。その広さとざわめきに、自然と胸が高鳴る。
「おお! 今度はまともな席だぞ!」
「丸太じゃないなんて新鮮よね」
「うむ。座り心地も悪くない」
「それが“新鮮”と感じるのが、ちょっと悲しいけどね」
「お弁当でも持ってくればよかったなぁ~」
「な、なんだか緊張してきました」
「ガウガウ!」
「ピィ~♪」
皆が口々に感想を漏らす。確かに前回と違って、ちゃんとした観客席。周りのクラスと同じ場所に腰掛けているだけで、胸が少し誇らしくなる。
――けれど。
「おい見ろよ、Zクラスだぜ」
「次の試合に出るんだろ?」
「チッ……一体どんな卑怯な手を使ったんだか」
相変わらず、僕たちを蔑む声も耳に届く。対抗戦で結果を出したはずなのに、根強い偏見は簡単には覆らないらしい。
「まだそんなことを言ってるのですか? 本当に恥ずかしい限りですわ」
「その通り! あり得ないのです!」
「ちゅ~!」
辟易しかけたところで届いたのは、陰口を戒める凛とした声。
「アリエル……それにイスメリアも」
「あなたたちの活躍は、ちゃんと見ていましたわ」
「Sクラスとの魔法戦、本当に凄かったよマゼル!」
「ちゅ~!」
Bクラスの二人が胸を張って言ってくれる。その後に続くように、他の生徒たちからも声援が飛んできた。
「本当に熱かったッス! 胸が震えたッスよ!」
「あれを見ても認められないなんて、ありえへんやろ」
Dクラスのガッツとマネリアも、笑顔で手を振ってくれる。
「俺たちは全員、Zクラスを応援してるからな!」
「二年生との試合、しっかりやりなよ!」
Fクラスの生徒たちまで、拳を突き上げて声をかけてくれる。
「――マゼル。見てくれている人は、確かにいる」
「ビロスもマゼルを応援してるもん!」
「そうだぜマゼル。わからずやの声なんて無視しとけ!」
「それが合理的ですね。相手にするだけ時間の無駄です」
「アイラ、ビロス、モブマンにネガメまで……ありがとう」
胸の奥がじんわりと温かくなる。確かに、ちゃんと見ていてくれる人たちがいる。
――その時。
「だ、黙れよ! 俺は知ってるんだ! Sクラスがお前らにズルされて悔しいって言ってたのをな!」
一人の生徒が立ち上がり、僕たちを指差して叫んだ。
「へぇ。それ、誰が言ってたのかな? 僕に教えてくれる?」
「へっ……?」
柔らかい声で問いかけたのはアダムだった。静かな笑みを浮かべながら、しかし逃がさないような眼差しを向ける。
「ねぇ、誰がそんなことを言ったの?」
「い、いや……それは……」
「テメェ、まさかでまかせを言ってるんじゃないだろうね!」
マリーの怒声が追い打ちをかける。
「適当なことを言うなら、私のクマちゃんが許さないんだからね!」
「凍らされるのと燃やされるの、どっちが好みだ?」
「ハハッ、嘘は格好悪いなぁ。実に見苦しい」
「本当、そんな稚拙な嘘、よく口にできたものね」
ベア、フレイザ、ライトニング、ローズ――Sクラスの精鋭たちが次々と声を浴びせる。生徒は顔を真っ青にして後ずさった。
「ち、違うんだ! 俺はただ……Sクラスの名誉のために……!」
「名誉のため? その行為が逆に名誉を汚していると、なぜ気付かない。愚か者が!」
ラクナの冷たい一喝が決定打となり、生徒はその場でへたり込み、気を失ってしまった。
――結局、Sクラスの名を使って僕たちを貶めようとした生徒は、自分で招いた言葉の刃に打ち砕かれたのだった。




