第470話 魔力0の大賢者、師匠が連れてきたダークエルフと初顔合わせ
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「よっと」
師匠が箒から軽やかに降り立つ。その隣では、褐色の肌と切れ長の黒い瞳を持つダークエルフの青年も無言で着地した。
「ししょ……先生。その方は?」
僕が尋ねると、師匠はにっこり笑って紹介した。
「彼は ルフダーク。古い友人でね。ね、ルフ♪」
「……お前とはただの腐れ縁だ」
師匠の人懐こい口調とは対照的に、ルフは素っ気ない。けれど師匠は愛称で彼も師匠を「お前」と呼ぶあたり、親しい間柄なのは確かだろう。
「やれやれ。許可もなく学園内に部外者を入れるのは勘弁願いたいものだ」
険しい声で歩み寄ったのは理事長のリカルド。すぐにウィンガル先生も眉を吊り上げる。
「ルールを守れぬ者は学園に迎え入れられぬぞ!」
「まぁまぁ、りっちゃんと私の仲じゃないか」
「理事長と一教師、それ以上でも以下でもない。“りっちゃん”もやめて頂きたい」
そんな押し問答の最中、ルフは周囲に一瞥もくれずシグルへと膝をついた。
「ガウ?」
「触診だ。困っているのだろう」
「あ、はい……急に大きくなってしまって……」
アニマが戸惑いながら状況を説明する。シグルはルフに触れられても従順だった。
「……フェンリルの細胞が組み込まれているようだ。暴走と巨大化はその影響だろうな」
静かな確信を帯びた声に、アズールが目を丸くする。
「見てもいないのに分かるのかよ?」
「探れば察しは付く」
短く返すルフの手つきから、ただ者でない技量を感じる。
診察を終えたルフを前に、師匠が朗らかに付け加えた。
「動物園の新しい園長に適任だと思って推薦しておいたの。覚えてるよね?」
「確かに話は聞いていたが……彼がそうなのか。ダークエルフだとは思わなかったぞ」
「まさか種族で不採用にするわけじゃないよね?」
「今どきそんな偏見は持たないさ」
リカルドは肩をすくめ、関心をルフへ向け直す。
「元に戻りますか!?」
アニマがすがるように問う。ルフは顎に手を当て、小さく首を振った。
「拒絶反応で制御を失っている。精神的には落ち着いている故に自然順応を待つ手もあるが賭けだ。環境を整え、外科的に制御機能を解放するのが確実だろう」
言葉を聞き、スーメリア先生は「やっぱり頼りになるね」と満足げ。
「手術、手術が出来るのですか!」
ドクトルがルフに近づき問いかけた。ドクトルも手術で怪我を治療するから興味をもったようだね。
「ルフは優秀な獣医でもあるのさ♪」
ドクトルの疑問に答えるように師匠が言った。獣医、それで詳しかったんだね。
「――しかし」
一方ウィンガル先生は腕を組んで唸った。
「学園で即手術など環境が――」
「それなら僕の部屋を提供するよ」
ここで話に加わってきたのはゲシュタル教授だった。
「僕も実験に使う部屋だから、環境には満足出来ると思うよ」
「流石アイっち頼りになるぅ」
「ふふん。スーたんの連れてきた友だちだからね。特別さ」
二人のやりとりに頼もしさを覚える。シグルは大きいままだが、暴走の気配は消え、静かにアニマの肩へ頭を預けていた。
「……まずは診断結果をまとめ、正式手続きに移ろう。当面は私が責任を持って預かる」
ルフの宣言に、リカルドはしばし沈思黙考。
「……よろしい。詳細な計画書を提出してもらおう。正式許可はそれからだ」
二人の視線が交差した瞬間、僕は胸をなで下ろした。シグルを救う道が――見えてきた。
師匠が僕の肩をぽんと叩く。
「心配しなくて大丈夫。ルフは腕利きだから」
隣のダークエルフは無言で視線を外し、黒いマントを翻した。
彼がどんな人物で、何を抱えているのか――それはまだ分からない。
だけどシグルを託すに足る実力と覚悟だけは、確かに感じ取れた。
(ありがとう、ルフ……頼んだよ)
僕はそう胸の中で呟き、巨大なままのシグルとアニマを見守り続けた。
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