第464話 魔力0の大賢者、大将戦でラクナと戦う
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Sクラス対Zクラス、大将戦――石張りのリングを取り巻く観客席がざわついている。
僕が階段を上がった瞬間、四方から嘲声が浴びせられた。
「マゼルもここまで!」
「ラクナ様がトドメだ!」
「落ちこぼれに現実を思い知らせろ!」
さっきまでアズールの熱戦に沸いていた空気が、いっきに敵意へ転じる。胸の奥がざらつくが、顔を上げたまま中央へ進むしかない。
対面に立つラクナ・ワグナー――茶髪をかき上げ、黒い瞳で僕を射抜く。少年期の丸みは影もなく、研ぎ澄まされた細身の体から大地そのものの重圧が滲んでいた。
ラクナは観客席を一瞥もしない。
「……応えろ、大地」
低く短い詠唱。次の瞬間、ゴウン――石畳が隆起し、砂礫が渦を巻く。土塊は瞬く間に背丈の数倍――およそ十メートルほどの巨人へと姿を変えた。
悲鳴と椅子の軋む音。ラクナは氷の声で吐き捨てる。
「さえずるな。黙って見ていろ」
巨人の拳がドンとリングを叩き、嘲声は潮を引くように途切れた。
――ひと振りで空気を沈黙させる魔法。ラクナの努力が確かに結実している、と胸の内で認めざるを得ない。
「ラクナ・ワグナー! 試合開始前の魔法行使は規定違反だ!」
ウィンガル先生の叱責が鋭く飛ぶ。ルールに厳しい先生だけに見逃すはずがない。
「……フン」
ラクナは肩をすくめ、指を鳴らす。土の巨人は砂礫へ崩れ落ち、リングに戻った。観客は息をのんだまま、誰一人声を上げられない。
「双方、準備はよいか?」
「問題ない」
ラクナが短く返し、僕も頷く。
ウィンガル先生の手刀が振り下ろされた。
「――大将戦、始め!」
「応えろ、大地」
ラクナは号令と同時、石床に掌を当てた。詠唱は先ほどと同じワンフレーズ。詠唱省略が可能になった証だろう。
リングがうねり、拳大の礫が雨あられと飛来――しかし軌道は読める。石の雨の隙間を縫うようにステップで回避する。
土煙の向こうでラクナの黒い瞳が細まる。わずかな焦りを含む空気が伝わり、胸がざらりとした。
「俺の魔法は、まだ序の口だ」
回避した礫が空中で形を変え、槍となって再加速。迫る石槍を拳で砕くと、ラクナの唇がわずかに歪んだ。
「ならば拘束してやる。応えろ、大地――クェイグマイア・フィールド」
足元の石畳が瞬時に泥へと化け、膝まで沈み込む。泥は粘り、動くほど脚を噛み締めていく。
「固まれ」
ラクナの指示と同時に泥が石へと反転――リングに縛り付けられた。体を傾け逃れる間もない。鋭い。
「身動きさえ封じれば俺のものだ。応えろ、大地――アース・タイラント!」
リング全体が震え、再び巨大な土巨人が隆起する。先ほどより密度が濃い。
――ラクナ、前に戦ったときとは比べ物にならない。一つ一つの魔法の練度が高い。
だけど、僕だってここで負けるわけにはいかない。
そして、巨人の足が唸りを上げ、僕めがけ振り下ろされた――。
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