第460話 魔力0の大賢者、アズールを送り出す
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「やったね、シアンちゃん♪」
包帯を巻き戻しながら戻ってきたシアンに、リミットが勢いよく飛びついて勝利を祝った。だが当のシアンは、いまひとつ納得がいかない様子で首を傾げる。
「……私、何もしてない」
「そんなことないよ。シアンちゃんだからこその勝利だよ!」
「うむ。俺が相手ならこうはならなかっただろうからな」
「そ、そうだよ!」
リミット、ガロン、アニマが口々に称えるが、シアンはまだ実感をつかめないらしい。
「なぁ先生、これって読んでたのか?」
アズールが肩をすくめイロリ先生を見る。
「俺に組み合わせまでわかるか。偶然だ」
先生はそっけなく返した。
その時――
「ちょ、ライトニング、どうしたんだい!」
Sクラス側から声が上がる。見ると、ライトニングがベンチで膝をつき苦しげに息をついていた。
「ハハッ……高速でも、全部は避けられなかったみたいだね」
「フン。説教の一つも言えんとは……情けないやつだ」
ラクナの言葉を受けつつ、ライトニングは肩で息をしながら項垂れていた。そんな姿をシアンが思い詰めたような表情で見ていた――
「さあ、副将戦だ」
ウィンガル先生の声にアズールが勢いよく立ち上がる。石で組まれたリング中央には、すでにSクラス副将――フレイザ・アイスヒートが腕を組んで待っていた。彼の足もとには蒼炎と白い霧が絡みついている。
観客席からは「あと一勝でSクラスの完全勝利だ!」という声援と、「無能なZはここで終わりだ!」という煽りが入り交じる。
「あいつが相手か。上等だ……なぁ、マゼル」
アズールが振り向き、フレイザを睨んだまま僕に声をかける。
「負ける気はねぇが、気合を頼む」
「――アズール、君ならやれる。ファイト!」
僕は背中を強く叩いた。アズールは親指を上げて応え、リングへ駆け上がる。
両者が向かい合い、場内が静まる。石床に靴底の触れる音が「コツン」と響いた。
「双方、正々堂々と戦うように。副将戦――始め!」
「先手必勝! 染め上げる朱、唸れ業火――フレイムナックルッ!」
烈火を纏った拳が唸る。しかし――
「くだらん」
フレイザが生み出した氷盾が炎を受け止め、蒸気が白く上がった。
「この程度で勝てると?」
「テメェ!」
アズールは殴りかかるが、フレイザはバックステップで間合いを外す。
「――我が手に宿れ灼熱、一点の赤、放て火球……」
「あ、あの詠唱は中級魔法のフレイムボールだよ!」
「アズールの奴、いつのまに」
「え? そうなの?」
リミットとガロンが驚いていたけど、フレイムーボールって前にイスナとクイスに絡んでた男が使っていた魔法なんだよね。そうか中級魔法なんだっけ……。
「フレイムボール!」
アズールから両手で抱えるほどの火球が放たれ、観客席がどよめく。一方でフレイザは平然と右手を翳し――
「燃え尽きろ、紅蓮の檄――クリムゾン・メイルストロム」
短い詠唱から放たれた巨大な回転火球が、アズールの魔法を飲み込み足元に着弾。爆炎がリングの石を焦がし、アズールが横薙ぎに吹き飛ぶ。
「グワァッ!」
立ち上がるアズールの服が焦げ、肌には火傷の痕が浮かぶが、闘志の光は消えていない。
「おいおい、まだ立つか?」
フレイザが薄く笑う。
「なめるなよ! 俺だって鍛えてんだ!」
そしてアズールが再び詠唱を口にする。
「……放て、燃え上がる槍を――フレイムランス!」
アズールの魔法で炎の槍が突き進む。これは以前アズールと試合したライジが使用していた魔法だね――
「無駄だ」
今度は左手を翳すフレイザ。そして――
「凍れ、蒼絶の静寂――フロストランス」
音もなく連続射出された氷槍がアズールの炎槍を相殺し、残りが肩と脇腹を貫いて凍結痕を刻む。
「グハッ!」
「アズール!」
「ちょ、あいつあのレベルの炎と氷魔法を両方扱えるのッ!?」
ドクトルが緊迫した声を上げて、メドーサは信じられないと言った顔を見せた。
「お前ごときが副将とはな。やはりZクラスか。程度が低すぎる」
「な、何だと?」
嘲笑の声にアズールが立ち上がり、フレイザを睨めつけた。氷の槍が当たった箇所は凍傷が見られるけど、アズールの戦意は削がれていない。
「見下してんじゃねぇぞテメェ」
「フンッ。貴様、魔力は幾つだ? どうせ底辺らしい数値なのだろう」
「ざけんな! これでも200はあんだよ!」
「200? やはり雑魚だな。教えてやろう俺の魔力は2100だ」
煽るような台詞を叩きつけるフレイザ。観客は「二千越え!」「圧倒的だ!」と騒ぎ、アズールの肌が朱色に染まる。
「テメェ、くっ、駄目だ! 抑えろ俺!」
アズールが奥歯を噛みしめて耐える。これは、怒りを抑えようとしているんだね――
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