第459話 魔力0の大賢者、中堅戦を見守る
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「ああもう! ガロンまで負けちゃったじゃない!」
メドーサが頭を抱えて叫んだ。
「二敗目。でも熱い試合だったよ」
ドクトルが静かにメドーサの肩を叩き唇をゆるめる。観客席のざわめきがまだ遠く響く中、控え席の空気はどこか誇らしげだった。
「俺も胸が燃えたぜ」
アズールが拳を握ると、メドーサが即座に突っ込みを入れる。
「文字どおり燃えないでよ!」
「お前、俺を何だと思ってるんだ?」
二人は軽口を交わしながらも、視線はリングに残るガロンへと注がれている。
するとマリーがガロンを抱きかかえ、こちらに向けて歩いてきた。
「ガロン君!」
アニマの声が弾けた。マリーが、元に戻ったガロンを“お姫様抱っこ”で抱えたまま歩いてくる。
「安心しな。怪我は保険魔法で完治済みさ。力尽きて眠ってるだけだからね」
マリーはガロンを腕に抱いたまま、くしゃりと笑った。
「それは良かったけど……なぜ抱えたままなのかしら」
メドーサが目を細める。マリーはくいッと肩をすくめ、アニマへそっとガロンを預けた。
「強かったよ。あたしが“漢”を見たのなんて、久しぶりだね。惚れそうになったよ」
「ほ、惚れ、え、ええぇえええぇっ!?」
アニマは顔を真紅に染め、両手で頬を覆う。マリーは慌てふためくアニマの頭にそっと手を置き、囁く。
「――大切に思うなら、離すんじゃないよ」
その言葉にアニマは頭から湯気を噴きそうになりながらも、ガロンを抱き締めていた。な、なんだろう。見ているのはちょっと悪い気がしてきた。
「アニマの奴、なんであんなにパニクってんだ?」
アニマから視線を外すと、アズールが小声で問う。
「鈍いなあ」
ドクトルが肩をすくめ顎に手を添えて続けた。
「ガロンは騎士、彼女は姫――おとぎ話の構図さ」
「はあ?」
アズールは首をひねったまま、話題の核心に気づかない。
マリーが手を振ってSクラス控え席へ戻ると、タイミングを見計らったようにウィンガル先生がリング中央に歩み出た。
「続いて中堅戦を開始する――!」
Zクラス側からはシアンが出た。リングに向けてゆっくりと歩いていく。
「ふにゃぁ、お腹すいたぁ……はにゃ?」
「リミット気がついたのね」
中堅戦が始まる直線に、リミットが起き上がってお腹を押さえた。空腹状態のようだけど、それ以外では体調面も問題ないようだね。
「そっか二敗に――うぅ、私がもっとしっかりしてれば」
「リミット、まだ負けたわけじゃないよ」
「そうだよ。だから一緒に応援頑張ろう!」
僕とメドーサの励ましに、リミットがコクンと頷いた。
「うん! あ、次はシアンちゃんだね! 頑張ってシアンちゃ~~~~ん!」
シアンに向けてリミットが声援を送った。シアンは一度振り返ると、軽く手を上げ無言でリングに上っていく。
対するライトニングは白薔薇を咥え、燕のような跳躍を見せる。空中二回転半ののち、貴族の舞踏会さながらに片膝をついてリングに着地――観客席から黄色い悲鳴が上がる。
「決まったね」
「キャァァァ! ライトニングさま素敵ぃぃぃ!」
「わたしの王子様~~!」
──観客の大半はSクラス推しだ。
「あと一勝で勝利だぞ、ライトニング!」
「華麗に決めて、Zクラスを黙らせてやれ!」
Sクラス応援席からは勝利宣言に近いエールと、Zクラスへの容赦ない煽り声が飛ぶ。
ライトニングは歓声を受け流し、指先で薔薇を弾いた。
「フッ、今日の僕は運命に愛されている。美しい花には棘がある――だが、レディの肌に傷などつけはしないさ」
そう言ってシアンに向けてウィンクする。
「何だか彼からヘンリーと同じ匂いを感じるな」
「そうかい? もしかして僕に憧れているとかかなぁ。後輩に慕われるとは光栄だね」
「いや、まぁそういうことでいいのかな――」
ロベール生徒会長とヘンリーとのやり取りが聞こえてきたよ。確かにヘンリーも薔薇をよく持ち歩いているからね。
「始め!」
ウィンガル先生の試合開始の合図に、シアンは黙って包帯の端をすっと抜き取る――その動作を読んでいたかのように、ライトニングが稲妻の軌跡を描いて前へ飛び出した。
「悪いけど、君たちの戦術は研究済みなのさ」
圧倒的な加速。残像を残したまま、ライトニングはシアンの背後へ潜り込み、そのまま柔らかなソフトスローでシアンをリング外へ向けて放った。
「な、なんだ今の! 速すぎて見えねぇ!」
Zクラス席でアズールが驚愕し、Sクラス席ではラクナが鼻で笑う。
「フン、ライトニングの【高速魔法】だ。シアンが包帯を解く暇も与えはしない」
シアンは驚いたように瞳を見開いたまま空中を漂うけど――次の瞬間、ふわりと身体を受け止められた。
「大丈夫かい? レディ」
ライトニングが優雅に抱き留め、そのままスッとリング外へ降り立つ。客席から再び悲鳴のような歓声。
だけど――着地した場所はリングの外側。
「……む、むぅ。ライトニング・スター、場外!」
ウィンガル先生の低い声が木霊する。
「よって中堅戦は――Zクラス、勝利!」
『は? はぁああぁああぁぁあああッ!?』
Sクラス席が揃って絶叫した。まさかこんな形で決着がつくなんてね。でも、これで一勝だね――
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