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魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第三章 マゼル学園入学編

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第458話 魔力0の大賢者、ガロンの変化を見る

いつも感想や誤字脱字報告を頂きありがとうございます!

「行くよッッッ!」

「来い!」


 互いに気合いを入れ、ガロンとマリーがリング中央で拳をぶつけ合った。マリーの豪拳がガロンの側頭部を揺らし、返す刀のように放たれたガロンの右ストレートがマリーの顎を跳ね上げる。


 肉と肉が激突する鈍い衝撃音が観客席まで届き、アリーナの空気が一気に熱を帯びた。


「これ、本当に【魔法戦】かよ……」

「互いに強化系を使ってるんだ。形式上はちゃんと魔法戦だろう」

「はあぁ、男相手にも引けを取らないマリーさま……ホント素敵!」


 Sクラス側の観客席は割れんばかりの歓声。女生徒たちが両腕を振り上げ、マリーの名を連呼している。ガロンを応援する声はまだ小さいけれど、それでも確かに届いている。


 拳と拳が衝突するたびに、石造りのリングが震え、周囲の熱気も増していく。互いに一歩も退かない殴り合い……かと思われたが、数十発を超えたあたりから流れが変わり始める。


「グハッ!」


 腹部にめり込んだマリーのボディブローで、ガロンの膝が沈んだ。控え席で見守るアニマが両手を口元に当て、不安げに小さく震える。


「まずいね。あのままダメージが蓄積すると保険魔法が発動される。そうなったらガロンの負けだよ」


 ドクトルが冷静に分析し、周囲の顔色が強張る。イロリ先生も腕を組んだまま、じっと試合を見つめていた。ガロンの身体強化より、マリーのパワーボイスのほうが一段上――その差が着実に響いている。


「膝が笑ってるねぇ。そろそろ限界かい?」

「ハァ、ハァ……まったく、大した女だ。魔法の効果があるとはいえ、ここまでやるなんてな」

「あん? “女の癖に”って言う気かい? そういうの、あたしは大嫌いなんだよ」


 マリーの眉間に深い皺が走る。僕は思わず息をのんだ。彼女の闘志は本物だ。


「そんなこと言わないさ。むしろ尊敬してる。一人の戦士としてな」


 ガロンが薄く笑う。視線が僕たち控え席に流れ、そして――アニマと合った。二人は言葉を交わさず、それでも何かを確認しあうように小さく頷いた。


 ガロンの表情に覚悟の色が滲んだ。


「――その力に敬意を表し、俺も“本気の本気”で行こう」


 ガロンの瞳が見開かれた。喉から迸るように詠唱が溢れる。


「内なる狼、目覚めし野生――荒ぶる血潮、理性と引き換えに我が身を変えよ! 獣化魔法・リカントロープ!」


 天地が震えた――そう感じるほど濃厚な魔力がリングに噴き出す。ガロンの制服が裂け、隆起した筋肉を覆う灰銀の毛並みが現れた。顔は牙を覗かせる狼へと変貌し、指先から黒曜石のような爪が伸びる。


「驚いたねぇ。あんた、魔法で人狼になれるのかい」

「グルルゥゥウゥ……」


 返答は低い唸りと、殺気を帯びた黄金の瞳――理性がほとんど霧散している。


「ウォォォォォン!」


 遠吠え一閃。ガロンがリングを縦横無尽に駆ける。高速で残像を引くたび、リングが音を立てて割れ石塊が宙を舞う。


「ガロンの奴、どうなってんだ!」

「わからないけど、明らかにパワーアップしてるよ!」


 僕たちの背中で、メイリアが淡々と告げる。


「――ガロン・ジンロの全身数値を測定……筋力+540%、敏捷+480%、最大魔力量+420%。総合戦闘力指数は従来比“5.09倍”と推定されます」


 五倍――その数値に皆の目の色が変わった。


「ならばあたしも遠慮はしないさ! 響け魂のシャウト――ブレイクボイスッ!」


 マリーの咆哮が風圧を生み、鋭い衝撃波となって前方へ奔った。しかし――ガロンはそれを一歩で見切る。刹那、影のように滑り込み、鋭爪でマリーの脇腹を薙いだ。制服が裂け、赤い線が走る。


「チッ!」


 マリーが後退し、指で血を拭った。場内の女子たちから悲鳴と歓声が入り混じった声が上がる。


「やるじゃないか。だったら――こっちも最終段階と行こうかねぇ! 響け魂のシャウト――【バーサクボイス】!」


 咆哮とともに赤黒い魔力がマリーの身体を包み込む。筋肉がさらに肥大し、腕と脚が獣のように太くなる。目の色は深紅。まさに猛る女戦鬼――。


「ウオオォォォォッ!」

「アォォォォォンッ!」


 二つの凶獣が激突した。拳と爪、肘と膝――肉弾と衝撃波が入り混じり、リング中央で火花が散る。観客は息を飲み、僕も拳を握りしめたまま二人の本気と意地を受け止めていた。


「メイリア、マリーの数値はわかる?」

「――バーサクボイス発動後のマリー・シャウトの強化率は、筋力+510%、敏捷+450%、魔力量+460%。総合で“4.96倍”と推定。理性低下を考慮しても、ガロンとほぼ互角ですとお答えします」

「つまりパワーも速さも五分か……」

「なら最後は……根性の勝負だね」


 拳が交差しあい、リング上の空気が震え続ける。長く感じた一分、二分――ついに決着の瞬間が訪れた。ガロンの右フックとマリーのハンマー気味のストレートが、ほぼ同時に相手のこめかみを捉える。


 ――ドン、と鈍い衝撃。二人の身体が同時に崩れ落ちた。


「どっちもダウンしたぞ!」

「この場合どうなるんだ?」


 審判席もざわつく。その時、リング中央でピクリと動いた影――ガロンだ。

 肩を震わせながら、四肢を支え、ぐらつく足取りで立ち上がる。


「ガロン、踏ん張れぇええ!」

「もう少しだよ!」


 仲間たちの声援が飛ぶ。だが――


「待て、マリーも……!」


 Sクラスからの声。マリーも歯噛みしながら立ち上がろうとしている。しかし一歩及ばず、ヒザが床を叩いた。


 ガロンは息を荒げながらも微笑んだ。


「俺の……勝ち、だ――」


 その瞬間、獣の毛並みが霧散し、本来の姿へ戻った。限界を越えた反動か、ガロンは力なく前へ倒れ込む。


『負傷を確認――〈保険魔法〉を適用します』


 温かな癒光がガロンを包む。数息遅れてマリーが立ち上がり、喉を張り裂けさせるように吠えた。


「よっしゃあぁああぁああ! あたしの勝ちぃいぃいいい!」


 そして審判――ウィンガル先生の宣言がアリーナに響く。


「Zクラス、ガロン・ジンロの負傷による戦闘不能!

 勝者・Sクラス マリー・シャウト!」

いよいよ明日!6月26日に本作のコミカライズ版最新の第10巻が発売です!宜しくお願い致します!

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