第455話 魔力0の大賢者、圧倒的アウェイ感を味わう
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午後も深まり、いよいよ一年対抗戦・最終戦が始まった。最初に魔導人形戦に挑んだZクラスだったのだけど――
「これで初敗北か」
「ごめんね、みんな……」
「うぅ、全勝ストップさせちゃった」
「気にするな。これまで負け知らずだったのが出来すぎだったんだからな」
「そうだよ。魔法戦は残ってる。Sクラスには魔導球で勝っているんだ、まだ五分五分さ」
アズールの何気ないひと言に、メドーサとドクトルが申し訳なさそうに肩を落とす。ガロンが二人を慰め、僕も励ました。負けたといっても全力を尽くした結果だ。気持ちを切り替え、次に備えなければ。
魔導人形戦のあとに短い休憩を挟み、僕たちは石畳の回廊を抜けて魔法戦用の試合場へと向かった。
そしてアリーナの扉を開けた瞬間、空気が震えるほどの歓声が降り注いだ。
「来たぞ! Sクラスだ!」
「頑張れ、Sクラス!」
「Zクラスなんかに負けるなよ~!」
「きゃ~ライトニング様、素敵~!」
ほとんどがSクラス贔屓の声。僕たちZクラスは完全に“アウェイ”だ。
「なんだよ、このアウェイ感……」
「一年だけじゃない。上級生もいるみたいね」
「人の波が揺れてる。あれ全部敵意か……」
「見て見て! ハニーが出店でパンケーキ売ってるよ!」
「この状況でも食べ物に目が行くのはさすがだな」
「あはは……」
リミットが手を振ると、屋台に立つハニーが照れくさそうに応えてくれた。だけどその表情には戸惑いも滲んでいた。
僕達に向けられた敵意を感じ取ったからかもしれないね。
それでも――敵ばかりではない。
「マゼル~~! 俺たちはZクラスを応援してるぞぉお!」
「頑張ってください! きっと皆なら勝てます!」
正面スタンドからモブマンとネガメが大きく手を振る。その声は雑踏の中でもまっすぐ届いた。
「マゼル、私も応援してる。実力で黙らせて」
「ビロスも見てるよ~! ファイトだよ!」
「Sクラスになんか負けない! ありえるのです!」
「ちゅ~!」
「し、仕方ないから応援してさしあげますわ!」
別ブロックではアイラ、ビロス、アリエル、ファンファン、魔導人形戦で試合したイスメリアまで――顔ぶれに胸が熱くなる。
「お兄様~! 私はお兄様の勝利を確信しております!」
「主様なら楽勝さね! ゼロの大賢者の凄さを見せてやる時だよ!」
「私も応援してますよ、マゼル様~!」
上段にはラーサやアネ、フレデリカ、特別学区の仲間たち。
「――全く。我々は勉強のために来ているのだ。偏った応援をするべきではないのだよ」
「そんなこと言いながら、グリンはマゼル先輩のことばかり話していたじゃない」
「僕達は助けられた恩もあるし。先輩を応援しないとね」
「う、うん。ラーサのお兄さんだもんね!」
グリンが口を尖らせてはいるけれど、視線はまっすぐ僕たちに向けられていた。ブルックとシルバ、アンも僕達に声援を送ってくれている。
「これは、ラーサのためにも負けられない!」
「出たよ、このシスコン」
「でも張り切ってくれるなら助かるわね」
アズールとメドーサが苦笑い。頬が熱くなったが、気合いも入った。
「Fクラスは全力でZクラスを応援するよ!」
「みんな、上げるわよ!」
Fクラスが広げた巨大な横断幕――真紅の布に白く染め抜かれた『闘 Z 魂』の文字――が翻る。その迫力に観客席がどよめく。
「あそこまでしてくれるとはな」
「益々負けられないわね」
ガロンとリミットが旗を見上げる。僕達がアウェイの中、Fクラスも応援してくれているんだ。負けるわけにはいかないよ。
「おい、なんだその旗下げろ!」
「そんなこと言われる筋合いはないわ」
「Fクラスのくせに生意気だ!」
僕達が感慨深く旗を見上げていると、誰かが放った火球が横断幕を狙う。瞬間――。
「テメェら! それでも漢かァッッ!」
ムスケル先輩が仁王立ちで火球を背中で受け止めた。筋肉が蒸気を上げ、観客が悲鳴と歓声を上げる。
「この旗は折らせねぇ! それでもやるって言うなら、この俺が相手だッ!」
先輩の咆哮に、絡んでいた生徒たちは場外まで吹き飛んでいった。
「ありゃもう戻ってこれねぇな」
「流石ムスケル先輩ッス! 一生ついていくッス!」
「うちらも応援してるで~Zクラス気張ってや~」
生徒の飛んでいった方を見届けるライジ。拳を突き上げるガッツ、そしてマネリアがにこやかに手を振っていた。
――味方はいる。負けられない理由が、こんなにもある。
「静粛に!」
リカルドの声音がアリーナに響き、会場のざわめきが凍る。理事長の隣にはロベール生徒会長とヘンリー、そして三年生が集まる席では、ギャノンが腕を組み、鋭い目つきでこちらを見ていた。
「これより一年対抗戦・最終試合を始める。応援は構わないが、節度を守るように」
リカルドに睥睨され、ピリリとした緊張が走る。
「それではZクラス対Sクラス、魔法戦を開始する。――先鋒、前へ!」
ウィンガル先生の合図。僕たちの隊列が動き、リミットが一歩前に出た。白い息を吐き、リミットはギュッと杖を握りしめる。
「頑張れよ、リミット!」
「うん。一撃必殺で勝利してみせる!」
「あぁ、まぁそうなるよね」
仲間たちが背中を叩く。リミットは軽く跳ねるようにリングへ。
「リミット――ファイト!」
「任せて!」
彼女の足取りは軽い。無数の視線が交差する檻の中でも、火の精霊のように燃えている。
そして――魔力が揺らぎ、先鋒戦の幕が上がった。さて、Sクラスの先鋒は果たして――
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