第450話 魔力0の大賢者、対抗戦の予定変更を知る
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「お前ら、今日は午後から Sクラスとの試合だ。準備しておけよ」
この日の朝、イロリ先生は教壇に立つなり、僕たちに午後の試合について告げた。気だるげな口調とは裏腹に、その眼だけは鋭く真剣だったのが印象的だ。
「午後なら学食でお昼が食べられるね♪」
「リミットはほんと、いつも食い気よね」
午後と聞いてテンションが上がるリミットを見て、メドーサが苦笑する。
「むしろしっかり食っておいた方がいいかもな。なにせリカルドの野郎、今日ですべての試合を終わらせる気だ」
「すべての試合? どういう意味だよ」
「時間割にもそんなことは書いてありませんが……」
アズールとドクトルが首をかしげる。僕が確認しても、時間割にはSクラスとの試合時間しか載っていない。
「その時間割はもう意味ねぇ。急遽決まったことだからな。お前らは今日、魔導人形戦と魔法戦を連続でやることになる」
イロリ先生の説明に、皆が教室内で顔を見合わせる。
「まさか連続で試合とはな」
「は、初めてのことで驚きです」
「クゥ~ン……」
「ピィ?」
ガロンとアニマの声に合わせ、シグルとメーテルも反応した。シグルは声が弱く、メーテルも心配そうだ。
「時間も変わる。魔導人形戦は午後最後の授業に合わせて、魔法戦はその直後だ」
「先生、それじゃ魔法戦は授業が終わったあとに行うんですか?」
僕が尋ねると、イロリ先生は後頭部を掻いて嘆息した。
「そういうことだ。リカルドの野郎は“その時間しか空いてない”なんてほざいてたが、実際は強さを見せつけたいだけだろうよ」
「見せつけたいとは?」
ドクトルの問いに、イロリ先生の表情が険しくなる。
「授業後なら誰でも見学できる。あの野郎は学生全員の前でSクラスの力を誇示したいんだ。――つまり、お前らを舐めきってる」
空気が一変した。Sクラスに負けると決めつけられている――その事実が皆の闘志に火を点けたようだ。
「俺たちも随分と舐められたもんだな」
「魔導球では私たちが勝ったのにね」
「上等じゃない! たっぷり食べてパワー満タンで挑んでやるわ!」
「うむ、逆にこちらの実力を思い知らせてやろう」
「舐められっぱなしなのも癪だもんね」
「…………」
アズール、メドーサ、ガロン、ドクトルの四人は意気軒昂。一方、シアンとメイリアは静かに状況を見守り、アニマは不安げにシグルの頭を撫でている。
「張り切るのは勝手だが、連続試合ってことでルールが一つ追加だ。魔導人形戦と魔法戦への重複出場は禁止。学生の負担がどうとか建前を言ってたが、要はお前らを分断したいんだ」
僕たちの誰もが、どちらに出場するか選ばねばならない。
「マジかよ」
「それじゃマゼルも両方は無理ね」
「うーん、どっちを選ぼう」
悩むクラスメートを見渡し、僕は手を挙げた。
「それなら――イロリ先生に選んでもらいませんか?」
「あん? 何言ってるんだお前は」
僕の発言にイロリ先生が顔を顰めた。
「そんなの適当に決めて終わるに決まってるだろう」
そうアズールは言うけど、僕は首を振った。
「いいえ。先生は僕たちをいちばん近くで見てくれています。だから先生の決定なら誰も文句を言いません。――僕たちは先生を信じます。先生も、僕たちを信じてください」
静かな言葉にイロリ先生が目を見開いた。短い沈黙ののち、教壇に視線を落とし、やがて顔を上げる。
「……わかった。そこまで言うなら選んでやる。だが決定にケチはつけるなよ」
クラスに安堵の笑みが広がったが、アニマだけは眉を曇らせていた。
「せ、先生! 朝からシグルの調子が悪いんです。傍についていてあげたいし、診てくださる方がいると助かります」
イロリ先生は小さく頷く。
「頭に入れとく。――選抜は午後までに決める。じゃあな」
「じゃあなって、授業はどうするんだよ」
とアズール。
「自習に決まってるだろ。わかりきったことを聞くな」
捨て台詞を残して退室した先生を見送り、僕たちは顔を見合わせて苦笑した。
「でもシグルが心配ね。あの人じゃあてにならないし、誰か診てくれる人を探しましょう」
メドーサの提案に、アズールが僕を見た。
「それぐらいマゼルの魔法で何とかなんねぇのか?」
「そうだよ、マゼルなら!」
みんなの視線を受け、シグルの前にしゃがむ。僕はいつもの手で治癒を施したのだけど――
「どうかな?」
「クゥ~ン……」
「……変化なし、か」
ガロンが静かに呟いた。どうやら効果がないみたいだね――
「マジかよ! マゼルでも駄目って重症じゃねぇか!」
「あんたデリカシーなさすぎ!」
とメドーサがたしなめる。
それにしても、このシグルの反応――僕自身、病気とは違う何かを感じていた。
「ごめんね、力になれなくて」
「ううん、ありがとう……。午前の生物学はバローネ先生だから、診てもらえないかなって」
「そうか。確か生物学の権威という話だったよね」
アニマの話にドクトルが頷いていた。確かに生物学に精通しているなら、僕なんかよりずっと頼りになるかもね。とにかく今はバローネ先生の授業を待つことにしたんだ――
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