第442話 魔力0の大賢者、Zクラスの快勝を心配する
休日が明け、僕は授業と学年対抗戦に全力で取り組むことにした。ゲシュタル教授の言葉どおり、今は学園生活に集中するときだ――そう自分に言い聞かせる。
学年対抗戦は佳境を迎え、Zクラスは魔導球、魔導人形戦、そして魔法戦と立て続けに勝利をつかみ取った。
「やった、また勝ちだ!」
「うむ、連勝街道まっしぐらだな」
「ひょっとして私たちって、かなり強いんじゃない?」
勝利を重ねるたびクラスの空気は軽くなる。けれど同時に、胸の奥に言葉にしづらいひっかかりが生まれていた。
「これで全勝だよ。負け知らずなんて初めてだ」
「へへっ、今まで散々見下してきた連中の顔が最高だぜ」
アズールが拳を突き上げ、リミットやメドーサも笑顔で頷く。
そんな中、メイリアは長い睫毛を伏せ、静かに告げた。
「……浮かれすぎると足元をすくわれます。油断は禁物です、と忠告いたします」
シアンも口を開かないまま真剣な目で全員を見渡している。
僕はメイリアの言葉には耳を貸すべきだと思ったけれど――。
「チッ、折角いい気分なのに水をさすようなことを言うなよ」
「アズール。それは違うよ。メイリアは僕たちのことを心配してるんだ」
不機嫌そうに返すアズールに思わず言い返してしまった。アズールは鼻を鳴らして頭をかいた。
「あ~はいはい。わかってるって。マゼルも固いな」
「うむ。確かに油断は禁物だが、勝利したら素直に喜ぶことも必要だろう」
それがアズールやガロンの答えだった。確かに今は勝ちが続いているし、気分が良いのもわかるけれど――。
翌朝。教室に入ってきたイロリ先生が短く告げる。
「今日は魔導球でFクラスと試合だ。準備ができたら出発するぞ」
「Fクラスか。正直、楽勝だな」
アズールがあくび混じりに言うと、リミットが笑って同調する。
「どの競技でもFクラス相手なら楽勝よね」
その言葉に先生の目が細くなった。
「――楽勝か。お前たちも随分と言うようになったものだな」
皮肉の混じった声音に空気が少し張り詰める。だがガロンが肩をすくめて笑い飛ばした。
「それだけ俺たちの実力もついたってことだな」
表情からは自信が窺えるが、僕は素直に受け取れず黙っていた。相手に敬意を払う余裕が、みんなから薄れはじめている気がしてならない。
「……準備が出来たら行くぞ」
グラウンドでは、すでにFクラスの面々と白髪の老教師が待ち受けていた。穏やかな笑顔をたたえたその教師は、眼鏡越しに鋭い光を宿す瞳をこちらへ向ける。
「来ましたか。いやしかし、さすが全勝中と噂されているだけあって、皆さん自信に満ち溢れていますね。私たちも今日は胸を借りるつもりで挑みます。よろしくお願いしますよ」
「……ま、俺はただ見ているだけだがな」
Fクラス担任とイロリ先生のやり取りの側で、Fクラスの生徒たちは真剣な眼差しで僕たちを観察していた。
「胸を借りるだってよ」
「うむ。それなら胸を貸すとするか」
笑い合うクラスメイトを眺め、戻ってきたイロリ先生が小さく鼻を鳴らす。そして出場メンバーを決める段になり、ドクトルが手を挙げて僕の名を告げた。
「まずマゼルは必要だよね?」
「ごめん」
僕は腹を押さえ、首を振る。
「朝からお腹の調子が悪いんだ。今日はちょっと厳しいかも」
「ハッ? おいおいマジかよ!」
「何か悪いものでも食べたの?」
「だ、大丈夫ですか?」
皆が一斉に心配してくれた。申し訳ない気持ちで胸が痛む。
「マゼルの健康状態は――いえ、何でもありません」
メイリアが何か言いかけて口をつぐむ。気遣ってくれたのだろう。
「しかしマゼルが出られないとは」
「ちょ、何とかならないの?」
「仕方ねぇだろ。本人が調子悪いって言ってるんだからよ」
ガロンが頭をかき、メドーサが不安げに僕を見る。その時イロリ先生が口を開いた。
「これまでマゼルはフル出場だった。たまにはお前らだけで何とかしてみろ。それとも、あれだけ自信満々だったのにマゼルがいないと勝てませんとでも言う気か?」
挑発めいたその言葉で、皆の士気に火がつく。
「上等だ! 相手はたかがFクラスだろうが! マゼルなしでもやってやるよ!」
「……そうだな。マゼルは心配せず休んでいてくれ」
「うん。僕たちだけでもやれるってところを見せよう!」
「その意気だね。よし! 私も頑張るぞ!」
「リミット、出るなら気絶しないようにね……」
「……フンッ」
その様子を見て、イロリ先生は小さく鼻を鳴らすだけで何も言わなかった。
こうして――僕は先生の側で試合を見守ることになり、Zクラス対Fクラスの魔導球戦が始まった。




