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魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第三章 マゼル学園入学編

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第440話 魔力0の大賢者、先生に確認する

「先生、いまの件……魔導師団に報告しなくていいんですか?」


 前を歩くイロリ先生の背中に声を掛ける。魔狩教団が絡んでいる以上、黙って済ませていい問題とは思えなかった。


「……さっきも言ったろ。あそこにはあそこなりの“筋”がある。部外者が余計な真似をするな」

「でも――」

「それに――」


 先生は歩みを止めず、わずかに顔だけ振り向いた。


「スラムにもツテってもんがある。今回みたいな騒ぎを起こせば、嫌でも上に話は上がるさ。俺が動かなくても、いずれ魔導師団の耳には届く」


 先生の言葉は淡々としていたが、口調の奥にかすかな苛立ちが混じっている。ここは従うしかないのだろう。


「ここまで来れば、お前なら後はどうとでもなるだろ。――じゃあな」


 歩き去ろうとする背中に、思わず声を上げる。


「先生! その……ファインという人のことですが――」

「余計なことに首を突っ込むんじゃねえ!」


 振り返った先生の声が通路に響く。拒絶がはっきりとした一言だった。


「……でも、僕は先生が心配なんです。また同じようなことが起きるかもしれない」

「心配? はっ――」


 先生は鼻で笑い、視線をわずかに落とした。


「アイツの件で俺がどうなろうと、それは俺のツケだ。俺が――俺だけが背負う話だ」

「どうして先生がそこまで?」

「……アイツを見捨てたのが、この俺だからだよ」


 虚空を睨むような横顔。悔恨と自嘲がないまぜになった色が、かすかに滲んでいた。


「――俺はそういう男だ。だから、お前らも俺に期待なんかすんなよ。迷惑だ」


 その言葉を残し、先生は踵を返す。足取りはいつもの無愛想な歩幅だったけど、背中だけがどこか遠かった。


 首を突っ込むな――そう言われても、本当にそれでいいのか。胸の奥で何かが引っ掛かったまま、僕はみんなの待つ通りへ戻った。





◆◇◆


「ったく、遅ぇぞマゼル!」


 路地を抜けると、腕を組んだアズールが仁王立ちで出迎えた。ほかの皆も揃っていて、僕を待っていてくれたらしい。


「ご、ごめん。待たせちゃったね」

「うぅ~……お腹と背中がくっつきそうだよ~」

「いや、リミットは屋台でずいぶんつまんでたよね?」

「あれは別腹だから!」


 リミットが子犬みたいに腹を押さえて訴え、ドクトルが引き攣った笑みを浮かべていた。思わず笑ってしまったよ。


「待たせてごめんね、リミット」

「いいよいいよ。みんなで食べた方が美味しいもんね♪」


 リミットがにこりと笑い、場が和む。


「気にすんな。俺たちも今さっき合流したとこだ」


 言ってガロンが肩をすくめる。その横でアニマが明るい顔を見せる。


「そ、そうだ、迷子の犬も無事に飼い主が見つかったんだよ!」

「ガウッ!」


 シグルが尻尾を振り、肩に乗ったメーテルが「ピィ♪」と鳴く。みんなの顔には安堵が広がっていた。


「結局イロリ先生の行き先、わからなかったわね」

「そういえばそうだな。ま、もういいか」


 アズールとメドーサの話し声も聞こえてきた。最初は先生の尾行から始まったもんね。


 でも今は、続けてなくて良かったと思えるね。そう考えると、先生は皆に危害が及ばないよう動いてくれていたのかもしれない。


「――よし、全員揃ったね。それでは昼食にしようじゃないか」


 ゲシュタル教授が満足げに手を叩く。僕たちはうなずき合い、学園都市の大通りへ歩き出した。


 イロリ先生の背中はまだ頭の隅で揺れている。でも――今はまず、仲間とテーブルを囲もう。先生のことは、きっとまた考える機会が来るはずだから。


 そう自分に言い聞かせ、香ばしい肉の匂いに誘われるまま、皆の後を追った――。

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