第424話 魔力0の大賢者、対抗戦を続けていく
「お前ら、午後から対抗戦だ。本校舎に行っておけよ」
「だからそういうのは、もっと早く言っておきなさいよ」
「だから午後になる前に言ってるだろう。遅れたら不戦敗だからな」
午前の授業が終わるころ、イロリ先生が教室に顔を出したかと思えば、午後の予定をひとこと告げただけで去っていった。メドーサも呆れたようにため息をついている。
「本当に適当だな……」
「でも、これで今日も本校舎でお昼を食べられるね♪」
頭をかきながら愚痴をこぼすアズールとは対照的に、リミットは頬を緩ませているね。
「まぁ、本校舎に行くのは気分転換にもなるな」
「は、はい。メーテルとシグルを散歩させてあげられるのも嬉しいです」
「ガウガウ♪」
「ピィ~♪」
急な話ではあるけれど、ガロンとアニマは本校舎に向かうのが楽しみらしい。メーテルやシグルも一緒に行けるとあって、喜びの声を上げている。
「学食に行くのは、とてもいいことだと思うよ」
ドクトルもにこやかだ。多分“ハニー”に会えるのが何より楽しみなのだろう。
「午後の授業にもつながるし、メイちゃんとシアンちゃんも一緒に行くよね?」
「授業とあれば致し方なしと、お答えします」
「……うん」
リミットが問いかけると、メイリアとシアンは落ち着いた声で返事をした。リミットはZクラス全員で行動できるのがうれしそうだ。
こうして僕たちは旧校舎を出て、本校舎に併設されている学食へ向かった。
「マゼル。こっち」
学食にはアイラたちの姿もあり、ちょうど席が空いていたので相席させてもらうことに。
「なんだか、ここで昼食をとるメンツはほぼ固定になってきたな」
皆の顔を見回しながらアズールが言う。確かに気心の知れた仲間と一緒だと、自然と同じテーブルになることが多い。
「食事は皆で食べた方が楽しいよ~♪」
「ま、そうね。皆で固まっていれば周りの視線も、あんまり気にならないし」
リミットは上機嫌に声を弾ませる。メドーサはちらりと周囲を見て、少し苦笑した。Zクラスは相変わらず周りから冷たい目で見られているけれど、こうして集まっていると案外気にしなくても済むね。
皆で席に着き、食事を始めたところで、アイラが何かを思い出したように顔を上げる。
「そういえばマゼル。キャンベル先生から“反省文”を書くように言われたって、本当?」
「えっと……うん。僕たちZクラスだけじゃなくて、アイラやビロスたちにも書いてもらうことになったみたいで……ごめんね」
僕は申し訳なさそうに俯く。Zクラスの騒動に巻き込んだ形になってしまったのは事実だし、アイラたちに負担をかけてしまった気がして気が重い。
「ううん。別に気にしてないわよ。キャンベル先生、ああ見えてみんなをよく見てるもの」
「うん! マゼルのせいじゃないよ~」
アイラは僕を気遣うようにふわりと笑ってくれる。ビロスも僕を励ますように声をかけてくれたよ。
「……そ、そうだ。良かった反省文、マゼルと一緒に書いたら、きっと捗ると思うんだけど……」
アイラが、恥ずかしげに視線を伏せながら俯き加減に言った。えっとそれって――
「それならビロスも書きたい! マゼルと一緒~♪」
「ちょ、ビ、ビロス……空気読みなさいよ!」
話に加わってきたビロスの両頬をアイラがむにっと抓る。ビロスは「いたーい」と半泣きでじたばたするが、アイラの方は本気で怒っているわけではなさそうだ。静かな笑みを浮かべながら力を込めているあたり、相当気合いが入っている。
「ふぇぇ……アイラこわいよぅ……」
「あなたがいつもマゼルにベタベタするからでしょ!」
ビロスの抗議じみた声と、アイラの怒気をはらんだ声がテーブル下で小さく響く。
……とはいえ、僕から見れば、ビロスとアイラはいつも仲良くじゃれ合っているようにも見える。今日だって、ほら、二人で頬を抓り合ってるのが微笑ましいし。
「アイラとビロスってほんと仲がいいなぁ」
僕がそう言うと、ビロスは「そうそう!」「ビロスたち仲良し!」と嬉しそうに言い、アイラの方は「……はぁ」とため息をつきつつ顔をそむけた。
どうやら、まったく同じ温度というわけではなさそうだけど、僕には二人が仲良しにしか見えなくて、ほのぼのしてしまう。
「押忍! この間の魔法戦ではお世話になったッス!」
そこで突然、聞き覚えのある声がした。振り返ると、先日の魔法戦で対戦したDクラスのマネリアとガッツが立っている。
「魔法戦でマゼルたちと戦った?」
アイラがガッツの言葉を小首をかしげながら復唱した。
「せやで。めっちゃいい試合やったんや~。マゼルの魔法も凄まじかったんやで!」
「詳しく教えて欲しい!」
「ビロスも知りたい~!」
「その話は、あり得るのです!」
「ちゅ~!」
マネリアの話にアイラ、アリエル、ビロスが食いつく。彼女たちも対抗戦の情報が気になるらしいね。
「あれ、絶対別の意味で解釈してるよな……」
「そこがマゼルってやつだろ」
「マゼルの唯一の弱点とも言えますね」
ドクトル、モブマン、ネガメが仲よさそうに笑い合っている。クラスを超えた交流が増えるのは、学園生活の醍醐味かもしれない。
「マゼルくんは、あれからどうッスか?」
「うん。対抗戦はみんなと協力して頑張れてるよ。実は今日も午後から試合なんだ」
「それは奇遇ッスね! 僕らも午後から魔法戦ッスよ!」
ガッツは楽しそうに教えてくれた。Dクラスも対抗戦を控えているらしい。
「魔法戦か。この前はおまえらの試合、けっこう参考になったぜ。ところで相手はどこなんだ?」
話を聞いていたアズールが興味深そうに尋ねる。魔法戦が大好きな彼らしい質問だ。
「午後からはSクラスとの試合ッス! あそこ一年生の中じゃ最強クラスらしいんで、燃えるッスね!」
ガッツが誇らしげに胸を張る。Sクラスといえば、アダムやイスナ、クイスにラクナ……有力な生徒が集まる強豪だ。前の試合を考えるとDクラスも唯一無二な魔法の使い手が多いし、かなりハイレベルな戦いになりそうだよ。
「いい試合になるといいね。僕も楽しみにしてるよ」
そう言いながら、僕は思いを巡らす。ZクラスやDクラス、そしてSクラス――それぞれの生徒たちが全力を尽くして戦う対抗戦は、まだまだ続いていくんだろう。午後の試合に向けて、僕たちも気合いを入れておかないとね。




