第415話 魔力0の大賢者、料理の異変に気がつく
「貴様! この俺の料理にケチをつけるとはどういう了見だ!」
額に青筋を浮かべた店主が僕に対して文句を言ってきた。手には包丁が握られていて返答次第では何をしてくるかわからない。そんな雰囲気があった。
「匂いがするんです」
「は? 匂いだと?」
僕が答えると店主が目を丸くさせたよ。
「まさか、腐ったもんでも入ってるのか?」
「うむ、俺も鼻には自信があるが、腐った匂いはしないぞ?」
そう言ってアズールとガロンは鼻を近づけて匂いを嗅いでみせた。
「でも、甘い匂いはしてるよね?」
「ムッ、言われてみれば確かに、ごく僅かだが甘いような匂いはするな」
僕の問いかけにガロンが答えた。鼻が良いと言っていたから腐った匂いはしなくても甘い匂いというのはわかったんだね。
「この匂いがどうかしたの?」
「うぅ、料理が目の前にあるのにお預けなんてぇええ」
メドーサが不思議がっていた。リミットに関しては料理を食べたくて仕方ないって表情だ。
「ごめんね。でもこれには手を付けない方がいいんだ。だってこの料理から感じた匂いは、さっきの店で暴れてた人から感じたのと一緒だからね」
僕が答えると皆がギョッとした顔を見せた。それはそうだよね。だって僕の考えている通りならこの料理には――
「つまり、マゼルはこの料理にあの薬が入ってるといいたいわけね」
「そうなんだアイラ」
「ま、マジかよ」
「これは大変なことになってきましたね」
アイラに答えると、モブマンとネガメも驚いていたよ。
「――バカバカしい」
店主が真顔で言い捨てた。ただ店内はザワついている。
「甘い匂いがしただけで違法魔法薬が入ってるだと? この程度の匂いは香料などでいくらでもつく。素人がそんな曖昧な理由でケチをつけやがって。間違いだったらどう責任をとるつもりだ?」
店主が僕に詰め寄ってき。何だか圧を感じるね。強く言えば僕が折れると思っているんだろうか。
「甘いと言ってもかなり独特の匂いだ。この匂いは香料でどうにか出来るものではないと思うけど」
「だったら証明できるのか? この料理にそんな薬が入ってると」
「それは――」
「なかなか興味深い話であるな」
僕が応えようとするとフェング先生が会話に割り込んできた。立ち上がり店主の前まで歩み寄る。
「マゼルの意見には僕も関心がある。何せこの料理からは陰の気を大きく感じるのでな。それも邪気に近いものであるぞ」
口では笑みを浮かべているけど、その目には鋭い光が宿っていた。フェング先生の視線の先にいる店主は気後れした様子を見せる。
「クッ、そろいもそろって何なんだ。俺の料理に文句があるならとっと帰れ!」
「そうはいかないであるな。少しでも疑惑があるなら調べる必要があるのである」
「だから何の権限があってそんなこと言ってるんだと――」
「権限ならあるぞ。何せ僕は魔導師団に所属しているのだからな」
店主の言葉を遮るようにフェング先生が言葉を重ねた。店主の顔色が変わったね。
「魔導師団、だと? 貴様が?」
「そうである。そういえばそなた――グルラス殿も元は魔導師団所属であったな。魔導騎士の称号も持っていたと聞く。一応は僕の先輩にあたるか」
そう言ってフェング先生が微笑んだ。グルラス、それがこの店主の名前なようだね。それにしてもまさかこの人が魔導師団に所属していたなんて思わなかったよ。
「――まさか、最初から調査が目的だったのか?」
「ふむ。確かに他の店から奇妙な噂話が聞こえてきたのも確かであるな。よもや料理全般に仕込んであるとは思わなかったが」
「だ、だから知らないと!」
「まぁ、そこはこれから魔導師団で調べればわかることであるからな。潔白だと思うのであればドンッと構えておけばよかろう」
「――フッ、はは、ハハハハハハハハハッ!」
フェング先生とのやり取りの後、グルラスが大口を開けて笑い出した。余裕の笑い、なんかではなさそうだね。
「お前ら! 今すぐ出入り口を塞げ!」
グルラスが叫ぶとどこからともなく現れた男たちが出入り口の前に並び塞いでしまった。これは、もう間違いないと思っていいのかもね――




