第411話 魔力0の大賢者、ブルームーンについて教わる
「違法魔法薬――こんな学園都市にまで蔓延しているのですか?」
違法魔法薬と聞いてドクトルが不快そうに顔を顰めた。
「ドクトル知っていたのか?」
「はい。これでも父の手伝いで医療の道に携わっていたからね――僕は違法魔法薬に苦しむ人を何人も見てきた」
どこか悔しげに語るドクトル。これまで出会ってきた患者の事を思いだしているのかもしれないよ。
「ドクトルの言うように、違法魔法薬の問題は根深い」
「それって使うとどうなるの?」
メドーサが問いかけた。少し間を置いた後、キャンベル先生が語りだす。
「魔法薬については知っているな?」
「そりゃまぁ。怪我をした時に使用したりするよな」
「後、魔力の回復にもだよね」
アズールとリミットが答えた。確かに魔法薬の主な使用方法はそれだね。
「そうだ。そして違法魔法薬はそれらの効果が意図的に増強されたものだ。違法魔法薬を使用すると通常の魔法薬よりも効果が高く体力の回復は勿論魔力を増幅させる効果も生む」
「それだけ聞いていると、特に悪いものには思えないが」
「とんでもない! 確かに効果は大きい。だけど違法魔法薬には劇毒とされるような魔草も取り入れられている。その結果違法魔法薬は大きな副作用を生むんだ。だから絶対に手を出してはいけないんだよ!」
ドクトルが声を張り上げた。普段は大人しめのドクトルだけにこの豹変には皆も驚きを隠せないようだった。
「ご、ごめんねつい」
「いや、いいけどよ。そんなにヤバい代物なのか?」
「そうだ。確かに違法魔法薬を使用すると一時的には体力や魔力が増強される上、精神も高揚し快楽を覚えやすくなる。だが効果が切れた後は逆に体力が落ち込み、魔力を自力で回復できないなどの弊害も出るのだ。情緒も不安定になり幻覚さえ見るようになる。更にやっかいなのは違法魔法薬は中毒性が高いということだ」
キャンベル先生が淡々と説明してくれた。それが逆に違法魔法薬による影響の深刻さを物語っているようだった。
「中毒者は次第に薬がなければ生活がままならなくなる。薬の効果が切れると禁断症状も現れ始め、それが今回のような暴挙に繋がることもある」
「話を聞いていると確かにこのお客さんにも当てはまりますね」
「確かにな。だがわからねぇ。それならどうして料理を食べに来たんだ? 薬を求めてくるならわかるんだがな」
言ってラシルが後頭部を擦った。確かにそうかもしれない。
「恐らくだが、この男も薬の効果が切れて禁断症状がでたのだろう。だがこの男は薬を手に入れることが出来なかった。その代替手段を求めてやってきたと、勿論これは予想でしか無いが」
私見を述べた上で、そう付け加える。
「でもなんでそれで料理を食べにきたのよ」
「幻覚作用でそう思い込んだのかも知れないね……」
メドーサの疑問にドクトルが答えた。幻覚、か。でもちょっと違和感あるような――
「今回この件をお前たちにも話したのは、この手の違法魔法薬を手にする学生も現れ始めているからだ。薬の売人はあの手この手で接触を試みてくることもある。十分注意して欲しい」
「そんな怪しい薬に頼ってたまるかよ」
「だよな。声かけられても絶対のらないぜ」
「モブマンは騙されそうでちょっと心配なんだけどね」
「酷くね!」
ネガメの指摘にモブマンが突っ込んだ。僕としては皆は大丈夫だと思うけど、注意は必要だよね。
「……この手のを売りつける連中は、違法魔法薬であることを伝えない場合も多いんだ。使用すると一時的に痛みを和らげたりもするから効果の高い薬として紹介してくることもある。病魔で苦しんでいる人程引っかかりやすい。人の弱みにつけ込む卑怯なやり方だ。僕はそれが許せない」
ドクトルがより強く拳を握りしめた。そのやり方は僕もやるせなさを感じてしまう。悪人の食い物にされるような真似、僕は見過ごせないよ。
「さて、私はこの男を連れて行く。改めて魔導師団が事情を聞きに来ると思うが宜しく頼む」
「あぁ、わかったよ」
「やれやれ、面倒な事が増えたねぇ」
そしてキャンベル先生が宿を出た。その後は片付けを僕たちも手伝い、そのことでまたお礼を言われたよ。
「それでは僕たちはこれで」
「あぁ。またいつでも食いに来てくれよ」
「はい勿論です!」
「お料理凄く美味しかったです。出来るだけ多くの人に素晴らしい料理を提供する宿だと広めておきますね」
「ビロスも皆に言って回る!」
「そうね。こんなに美味しいんだもの。出来るだけ多くの人に伝えないと」
皆、ラシルの料理を気に入ってくれたみたいでこの宿の為に出来ることをしたいと思ってくれているようだね。僕も皆と同じ気持ちだよ。
「ありがとうな。そう言って貰えるだけでこの店で頑張っていけるぜ」
「幸い宿泊客としては馴染みの冒険者とかが来てくれているからね。まだまだ潰させやしないよ」
ラシルとジリスが笑顔で答えてくれた。逞しいな。この二人なら宿もきっと大丈夫だと思うよ。
そして僕たちは宿を出た。トラブルはあったけど料理は美味しかったし皆満足してそうだね。
「ねぇ! さっき話に出てた円卓騎士の宴亭に言ってみない?」
宿を出て暫く歩いた後、リミットがそんな提案をしてきた。えっと、いま昼食を食べたばかりなんだけど、でもリミットはまだまだ食べられるみたいだね。
「お前、まだ食うのかよ」
「だって邪魔が入って追加の注文が出来なかったし」
「あれから更に追加するつもりだったのか……」
「あんたの胃袋どうなってるのよ」
アズール、ガロン、メドーサが呆れたように言っていた。食欲旺盛なのは健康の証拠ともいえるかもだけど凄いよね。
「ハニーちゃんも気にならない?」
「う~んそう言われてみると」
リミットがハニーに聞くと、ハニーも気になってる様子を見せたね。
「そ、それなら行きましょうか! 僕もまだちょっとは食べられそうだし」
ハニーの様子を見てドクトルも同調したね。
「俺もまだいけるぜ」
「僕はお腹一杯ですが飲み物ぐらいなら」
「――お腹は十分満たされたけど、あの宿から客を取っていくレベルというのはちょっと気になるかも」
「そうですね。マゼル様、あの宿の為にも、行っておくのもいいと思います」
「姫様は少しでも長くマゼル殿といたいのだ。よろしく頼む」
「ちょ、何言ってるのよクイス!」
「私もこれから食べに行くのありえるのです!」
「ちゅ~」
結局、リミットの熱意もあって皆で円卓騎士の宴亭に行くことになったよ。場所は街の案内図をみたらすぐわかったけど、ここからそんなに離れてないみたいだから徒歩で十分行ける距離だね――




