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魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第三章 マゼル学園入学編

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第408話 魔力0の大賢者、客足が遠のいた理由を知る

「美味しいぃぃぃぃいッ!」


 テーブルに運ばれてきた料理を真っ先に口にしたのはリミットだった。リミットは料理を一口くちに含んだ瞬間には目を輝かせて歓喜の声を上げていたよ。


「うん! やっぱり噂通りの素晴らしい味ですね!」

「ビロスもこの味好き~」

「この味、王都でも通じますありえます!」

「ちゅ~♪」


 運ばれてきた料理を皆が大絶賛だ。僕は以前も味わっているけど、前に食べたときよりも更に味が洗練されてるよ。


「ハハッ、そんなに喜んで貰えると料理人冥利に尽きるな」


 皆の反応を見てラシルも嬉しそうに笑っているよ。うん、確かに美味しいし、この味なら人気が出てもおかしくない気がするんだけどね。


「マジでウメェな。これは評判だってのにも頷けるぜ」

「本当にそう! はぁ、シアンちゃんとメイちゃんも一緒に来ればよかったのに~」


 料理を味わいながらも残念そうな顔を見せるリミット。メイリアとシアンにも今日のことは話したのだけど、メイリアはゲシュタル教授の部屋の掃除が必要だと張り切っていて断られたし、シアンも休日に外に出るのには躊躇いがあるみたいなんだよね。


「この料理、持ち帰りは出来るのかな?」

「あぁ。それなら持ち帰り用のも作るぜ」


 メドーサの問いかけに気持ちよくラシルが答えてくれた。


「じゃあシアンとメイリアにお土産を持って帰れるね」

「は、はい。とっても喜ぶと思います! シグルやメーテルも喜ぶぐらい美味しいのですから!」

「ガウ!」

「ピィ~♪」


 ラシルは皆とは別にシグルとメーテルの分の食事も作ってくれたんだよね。それぞれの特徴に合った料理を作ってくれたみたいでその気づかいも嬉しいよ。


「手伝っていた時から美味しいだろうなと思っていたけど、実際食べると想像以上だよ。これはきっと、あの香辛料であとは――」

「ハニーさんは勉強熱心なんですね。す、素敵だと思います!」


 考えながらメモを取るハニーの横顔を見ながらドクトルが言った。ただ、メモをとっている時のハニーは完全に集中していて聞こえてないかも……が、頑張ってドクトル!


「この味ならなんぼでも食べられるね」

「それならこれはサービスだ。食べてくれ」


 ガロンもいい食べっぷりだね。その様子を見ていたラシルがテーブルの上に唐揚げの乗った大皿を置いた。リミットの目の輝きが増したよ。


「いいんですか?」

「かまわないさ。どうせこのままじゃ余っちまうんだからな。それなら食べて喜んで貰ったほうが食材も幸せってもんだ」


 僕が聞くと笑ってラシルが答えた。それはどこか寂しさの感じられる笑顔だった。


「本当に美味しいです。だからこそ不思議でなりません。もっとお客様がいらしても良いと思うのですが」

「うむ。私も姫様に同意見だ」


 イスナやクイスも味が気に入ったようだけど、だからこそ他にお客さんがいないことが気になったようだね。


「私もそう思う。以前も味見させてもらったけど、その時より美味しくなっているのに」

「おう! この味ならもっと人気が出てもおかしくないぜ!」

「確かにそうですね。何が事情があるのですか?」


 アイラ、モブマン、それにネガメは僕が泊まっていた時に料理を食べている。その時から腕がいいのは知っているし、だから気になるのかもね。それは僕も一緒だ。


「最近近くにレストランが出来たのさ。『円卓騎士の宴亭』という名前でね。他の町でも評判だったらしくて、ここで三店舗目みたいなんだけどね、そっちに随分と客がとられちゃったのさ」


 僕たちの疑問に答えるようにジリスが言った。新しいレストラン――この宿にとってはライバル店ってことか。


「そんなに美味しいのですか?」

「俺は食べてないが、何でも一度食べると忘れられない味らしくてな。何度でも通ってしまうような店なんだそうだ」

「そ、そんなに美味しいの?」

 

 リミットが生唾を飲んだ。凄く興味がありそうだよ。


「あんたねぇ。今食べたばかりなのにまだ食べる気なの?」

「えぇ、でも気になるよねぇ」

「確かに気になるけど、店主さんはまだ行ってないのですよね?」

「そうなんだよ。こっちは客取られているんだし、偵察がてら行こうって行ったんだけどね」


 ジリスが愚痴るように零した。確かに相手を知るのは大事だし、それはラシルが一番わかってそうだけどね。


「なぁ、なんでいかないんだ? 時間はあるんだろう?」


 アズールが問いかけた。するとラシルが弱ったように頬を掻き。


「どうも行く気が起きないんだ。なんといっていいかわからないんだが、どうしても心が引かれないんだよ」


 ラシルの答えを聞いても皆はピンっと来てない様子だ。確かに漠然としている気はするよ。


「まぁ、実際あそこの店主は私も好きになれないけどね」

「店主と面識が?」

「店をオープンするからと挨拶に来たんだよ。だけど、古臭い店やら田舎臭いやら散々ないいようだったからね」


 答えたジリスが渋い顔を見せた。う~ん第一印象はあまり良くなかったみたいだね。


「――…………」


 僕たちが話をしていると、食堂に一人の男性客が無言で入ってきた。そのまま一言も喋らず席につく。


「お客さんだ。おしゃべりはここまでだな」

「わかってるさね」


 ラシルに言われジリスが男性客に注文を聞きにいったよ。


「ご注文は?」

「どれだ、どれがこの店の一番だ」

「え? ま、まぁそうね。この時間ならランチ用の特製セットが人気だよ」

「ならそれを寄越せ」

「――それなら特製セットでいいかい?」

「いいと言ってるだろう! さっさともってこい!」


 席についた男性は注文するとジリスを怒鳴りつけた。その勢いにジリスはたじろぎながらも厨房へと戻っていった。


「何あれ? 感じ悪い」

「リミット、しっ」


 リミットが男性客の態度に文句を言ったけど、ドクトルに窘められた。確かにあまり良い態度とは言えないかもだけどね――


「でも、あんな怒鳴ること無いわよね」

「む、虫の居所がわるかったのかな?」

「だとしても店員にあたるのは頂けないですね」

「うむ。もし姫様にあのような態度を取られたら問答無用でたたっ斬るところだぞ」

「アハハッ、クイスってば過激だよね」


 イスナとクイスのやり取りを見ながらアダムが笑った。そしてアダムの視線が僕に移る。



「だけど、注意しておいた方がいいかもね。どう思うマゼル?」

「え? うん。確かにちょっと気になってはいるんだけどね」


 アダムに問われ答えたけど、アダムも同じように思っていたのか。あの男性客、目の焦点もあっていないし、さっきから落ち着きも足りてない。たまに爪を噛んだり膝を揺らしたり、何かをブツブツと呟いてみたり、情緒が不安定なのが見て取れる。


「おまたせ。うちの自慢の特製ランチだよ」


 そう言ってジリスがテーブルに食事を並べたのだけど、途端に男が料理に手を伸ばした。しかも素手で、何かに急かされるように手づかみで食事を貪っている。


「ちょっとお客さん。フォークとナイフがあるんだけど……」

 

 ジリスが注意するも全く聞く耳を持っていない様子だ。


「何だあれ?」

「そ、そんなにお腹をすかせていたのかな?」 


 怪訝な顔を見せるアズールと不思議そうな顔を見せるドクトル。その様子に食堂内は異様な空気に包まれていった――

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