表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力0で最強の大賢者~それは魔法ではない、物理だ!~  作者: 空地 大乃
第一章 幼年編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/500

第40話 魔力0の大賢者、予感する

前回のあらすじ

ダンジョンのボスを倒した後領地へ戻った。


「兄貴! 姫様のことはしっかり俺たちに任せておいてください!」

「あ、うん。頑張ってね」


 ダンジョンを見つけてから、ヒーゲ男爵の領地では更に人の出入りが激しくなった。トンネルのこともあり、商人にとっても便利になったのも大きいけど、ダンジョンから手に入るお宝や銀脈を引き当てたのも大きかったんだろうね。

 

 そのためか、彼、元々は怒り心頭で僕に文句をつけてきていたムスタッシュもすっかり心を入れ替えた、といっていいのかな? とにかくダンジョンの仕事にありつけたのもあって僕に文句を言ってくることはなくなった。


 それどころか兄貴なんていい出して、よく町にも顔をだすようになってしまった。

 ほとんどの皆は僕を大賢者様と呼ぶから兄貴呼びは新鮮味を感じないこともないけど、相手が強面のムスタッシュだからちょっと微妙でもある。


 そしてあれから5日たち、姫様たちもいよいよ国へと帰ることになった。本人は一ヶ月でも二ヶ月でもいたかったそうだけど流石にそうもいかないからね。


 この5日間で姫様はすっかり米を気に入ってくれたようだった。お土産に米も50kg程度用意したがすごく喜んでくれた。


 そして最後に見送りにきたわけだけど、護衛を引き受けたのが彼らムスタッシュのパーティーだったんだよね。


「お前たちで本当に大丈夫であるか?」

「大船に乗った気でいてください姫様! 俺たち! ヒゲ男ズが命に変えてもお守りします!」


 ヒゲ男ズはムスタッシュを中心に集まった冒険者パーティーなようだね。男だけの組み合わせで全員漏れなく髭をはやしている。ムスタッシュはもさっとした口ひげ、チョビという冒険者はチョビ髭、ドジョウは左右に一本ずつピンっと伸びた髭。ビアードは豊かな顎髭だ。

 

 ちなみにこの中でビアードは唯一の魔術師で髭操作魔法が使えるらしい。何それ凄い気になる。


 あとドジョウは元盗賊らしいけど髭強化魔法が使えるらしい。チョビは髭飛ばし魔法が使えるんだとか。ムスタッシュに関しては髭縛りが可能らしい。意外な才能?


「「「「俺たちヒゲ男ズに任せてもらえれば超安心!」」」」

  

 全員でヒゲを使ったアピールしてきた。うん、なんだろうこの頼りがいあるんだかないんだか微妙な感覚。


「最近は大賢者のトンネルのおかげで危険度は減ったようだし、我々もいれば護衛は十分とも思えたが念の為というのもあるしな。しかし、大賢者様のお側に居れたのは有意義でした」


 タルトさんと握手を交わす。トンネルの名前は最初勝手にマゼルトンネルに決まりそうだったのを必死に食い止めて今の大賢者トンネルという形に落ち着いた。これでもまだ抵抗あるけど、名前がそのままトンネルになるよりはずっとマシだ。地図にも載るみたいだし。


 それにしてもここまで言ってもらえるなんて……僕なんかで役に立てたならこんな光栄なことはないかな。


 他の騎士は父様へ涙ながらにお礼している。滞在期間中はずっと父様から手解きを受けていたようで剣の腕もかなり上達していたとタルトさんも喜んでいた。


 やっぱり騎士としての父様の腕は確かなんだね。息子として誇りに思うよ。


「うむ、大賢者マゼルには本当に世話になった。妹のラーサにもな。少々寂しくもあるが……どうしても戻らなくてはいけなくなったのでな」


 姫様が眉を落とす。ラーサも寂しそうにしてるね。この2人も本当の姉妹かと思えるぐらいに仲良くなってたし。


「はは、確かに一旦お別れですが。また気が向いたらいつでも遊びに来てください」


 とは言え、トンネルのおかげでオムス公国までの距離はだいぶ縮まった。立場もあるから気軽にとはいかないかもだけど、また来てくれたら嬉しいかな。


「ふむ、言われてみれば距離もぐっと近くなったしな。そうだなちょくちょく遊びに来るとするか」

「え~と距離が近くなったというのは物理的にですよね?」

「ふふふ、さてどうかのう」


 ラーサが妙な質問をした。それ以外に何かあるのかな? 何故か姫様も小悪魔っぽく返してるし。


「それではまたいずれ会おう! 大賢者マゼルよ!」

「兄貴! 護衛任務無事終わったら酒でも呑みましょう!」

「はは、呑めないし……」


 僕はまだ未成年だしね。

 さて、こうして姫様は自分の国へと戻っていった。トンネルもあるし危険もない……筈なんだけど、なんだろ? どうも妙な胸騒ぎがする気がするんだよね。ヒゲ男ズ大丈夫かな?






◇◆◇

sideミラノ姫

 公国との国境まではヒゲ男ズという冒険者パーティーが護衛を務める事となった。それにしても奇妙なものだ。ヒゲ男ズのリーダーは元々はマゼルに敵愾心をもってマゼルの町まで乗り込んできた男だった。

 

 しかも冒険者ギルドに案内してくれたマゼルに剣を抜こうとした愚か者でもあった。そんなことをしでかしたら比較的温厚な我が国でさえ、ギロチンに掛けられても仕方のない愚行だ。


 だが、マゼルは男に剣を抜かせないという奇策でその場をうまく収めてみせた。そしてその後は男の事情をしっかり汲み取り、解決に導いた。


 その結果、あれだけマゼルに文句を言っていた男がすっかり心を入れ替え、あやつを兄貴と慕うまでになった。


 聞いたところによるとリーダーのムスタッシュは元々喧嘩っ早いところがあり、ギルドでも時折問題を起こしていたそうだが、マゼルの寛容さと大賢者に相応しい賢豪ぶりに感銘を受けてからは随分と丸くなり仕事もより好みせず真面目に取り組むようになったんだとか。


 全くあのマゼルという男は、ただ己が凄いというだけではなく周りさえも変えてしまう力を持っている。


 護衛騎士であるタルトにしてもそうだ。大賢者マゼルとダンジョンに挑んでからというもの、より一層剣の腕に磨きが掛かっているようであった。


 本当に不思議な男だ。まだ子どもだと言うのに、妙に大人びた魅力も兼ね備えておるしな。


 前は私の前にマゼルと妹のラーサがいたが、帰りはいない。当然であるが、そのことが少しさみしくもあるな。


「殿下、カイゼルに到着いたしましたので」

「うむ」


 しかし、このトンネルは本当に便利で早いな。もうカイゼルに着いてしまった。すでに何度か来ているが、今宵も男爵家にて部屋を用意してもらうことになった。

 

 そして明朝町を立つ。夜は手厚い歓迎を受け、次の日に備えて早めに寝た。

 

 夜中、ふと目が覚めた。妙な胸騒ぎがした。視界の中に銀色の刃が飛び込んできた。


「ヒッ!」


 ゴロゴロと転がり、ベッドから落ちた。ぶすりとナイフが刺さる音がした。あと一歩遅ければシーツが真っ赤に染まったことだろう。


「チッ、目覚メタカ――」

 

 紫掛かったローブに身を包まれた誰かだった。目深にフードを被っており顔までは確認できない。

 声も無機質な不気味なものだった。


 こんな奴に部屋まで侵入されるなんて……護衛は一体何をしているのか!


 私は急いで部屋を出た。ふと見ると護衛の騎士が壁にもたれかかるようにして倒れていた。一瞬死んでいるのかと焦ったが、どうやら眠っているだけのようだ。


 こんな時に居眠り? いや、そんな筈はない。私の護衛を務める騎士がそのような失態をおかすわけもない。


 とにかく誰かを! 屋敷の中を駆ける。別の護衛騎士を頼るつもりだった。だが、角を曲がった先にいたのはやはり眠りこけた護衛騎士。


 いや、違う。ここまでくれば判る。護衛の騎士は居眠りしているわけではない。眠らされているのだ。それはきっと屋敷全体がそうなのだろう。


 何せさっきから、誰かおらんか! と声を掛けるも誰も出てこようとしない。


 とにかく逃げねば。あれに追いつかれる前に。そう思った矢先、向こう側にローブを来た何者かが姿を見せた。先回りされたのか? 構造的にそれは無理な気もするがとにかく引き返そうと踵を返すと、そちら側からもローブ姿のソレが。

 

 どうやら相手は一人ではないらしい。前後を挟まれてしまった。万事休す……抵抗しようにも慌てて部屋を出たため武器など持ち合わせていない。


「終ワリ、ダ――」


 無機質な声のローブが、ナイフを片手に迫ってくる。


「殿下に何をする!」


 だが、前から来ていたソレがぐらりと倒れ、後ろにタルトの姿があった。

 私は急いでタルトに駆け寄った。


「タルト! お前、無事だったか!」

「は、はい。情けないことに一度は睡魔に襲われましたが、なんとか意識を保たせました」


 見ると膝から血が滲み出ていた。恐らくは刃物で自ら刺し、眠気から逃れたのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ