第401話 魔力0の大賢者、アズールとライジの試合を見る
「俺の地雷は既に仕込み終わっている。お前は俺に近づくことすら出来ないぜ」
ライジがニヤニヤ笑いながら言った。その態度にアズールの表情が歪む。
「だったら近づかないまま狙ってやるよ! 赤の欠片、指先の火種、赤熱の礫――ファイヤー」
アズールが詠唱を終え魔法を行使しようとしたその瞬間、アズールの足元が爆ぜてアズールがリングを転がった。
「床に仕込んだ俺の地雷は俺の意思でも爆破出来るんだよバ~カ」
舌を出してアズールをコケにするライジ。あの言動は正直頂けないと思うけど、実力は高いね。地雷魔法を使いこなしている。
「クソが!」
アズールがキョロキョロと周囲を見回した。地雷を警戒しているんだと思う。
「ちょっと不味くない? アズールのダメージも大きいし」
「そうだね。アズールは負けず嫌いだから諦めないと思うけど、このままダメージを受け続けると保険魔法が発動しちゃうかも」
そう。僕以外はムスケル先輩の保険魔法に加入している。事前に説明があったけど保険魔法が発動するとその時点で負けとなってしまう。
「なんだビビってんのか? お前、しょっちゅう体燃やしてんだからこれぐらいどうってことないだろう? それともその顔でひ弱ちゃんなんでちゅか~?」
「この野郎! 調子に乗るんじゃねぇ!」
アズールが地面を蹴って大きく跳躍した。そうか空中なら――
「考えたな! 上なら地雷魔法というのも意味がない!」
ガロンも僕と同じ考え手をもったようだね。ただ着地した時は注意が必要だろうけど。
「放て、燃え上がる槍を――フレイムランス!」
だけど、ライジはアズールの策を嘲笑うように炎の槍を放った。空中のアズールはこれを避けられず見事に命中した。
「グハッ!」
地面に落ちると同時に地雷が爆発。アズールは更にダメージを重ねることになった。
「残念だったなぁ。俺が地雷魔法だけだと思ったか? 俺は火魔法だって使えるんだよ」
得意げに語るライジ。僕もうっかりしていたよ。確かに地雷魔法を扱うからといって扱える魔法がそれだけとは限らない。
「不味いよ。流石にダメージを受けすぎだ。これ以上魔法を貰うと保険魔法が――」
ドクトルが不安そうに呟いた。地雷の爆破と炎の槍でアズールへのダメージも蓄積されている。
「畜生が……」
「ハハハッ。いい格好だな。お前はやっぱり燃えてるのが似合ってるぜ。そうだ、お前これからアズールじゃなくてアツガールに改名しろよ。お前にピッタリだろう? ギャハハハハハッ!」
「テメェェエエェエエ!」
「いけないアズール!」
ライジがアズールを嘲笑し、それを聞いたアズールが怒りに任せて叫んだ。これは不味い。アズールの感情が高まると――
「あ、熱ィイィイイイイイ!」
「まずい発火したぞ!」
アズールの体が発火した。その熱さから悲鳴が漏れた。それに合わせてアズールの体が爆発した。
「ハッ? え? 何? なんで爆発してるのよ!」
メドーサが目を剥いて叫んだ。皆も何がおきたかわかっていないようだった。
「ハハッ、掛かったな。お前は踏んだんだよ地雷ワードをな。俺の地雷魔法は地面だけじゃない。特定のワードにも仕込めるのさ」
ライジが勝ち誇ったような顔で言い放った。地雷ワード――つまりアズールが口にした言葉の中に地雷が仕込まれていたってことか。しかもこの流れで言えば仕込んだワードは一つしかない。
「ハァ、ハァ、ワードに地雷だと? どこまでもふざけた魔法だ」
アズールが立ち上がった。肩で息をし、満身創痍と言った様相。
「お前、しぶといな。もうさっさと負けを認めろよ。その方が楽になれるぞ?」
「――認めるかよ。俺は負けず嫌いだからな。それに、俺はいずれゼロの大賢者を超える男だ! こんなところで躓いてられるかよ!」
アズールの声には決意が込められていた。大賢者を超える、そういえば最初に会った時からアズールはそう言い続けていたね。
「ハッ、お伽噺の大賢者を信じてるってか? 子どもかよ」
「俺が目標としている大賢者をテメェごときがバカにしてんじゃねぇ!」
言ってアズールが一歩足を踏み出した瞬間、アズールの足元が爆ぜた。ライジの口角が吊り上がる。だけど、アズールは爆発と同時に跳躍していた。
「これでテメェまで一直線だぁあぁあ!」
きっとアズールは自ら地雷を踏んだんだ。爆発の衝撃を逆に利用するために。自分の跳躍に爆発の勢いが乗れば、更に加速する。そして、ライジに肉薄した。
「な! お前、何をして!」
「そんなに俺が燃える姿が好きなら特等席で見せてやるよ!」
アズールがライジに抱きついた瞬間、その身が発火した。そして――
「お前の好きなワードをたっぷり聞かしてやるよ! 熱ッちぃぃぃぃぃぃいいいいいいいッ!」
アズールが叫んだその瞬間ライジごと爆発した。アズールとライジが二人揃って宙を舞いリングに落ちたのだけど――その直後、二人の体が淡く光り同時に保険魔法が発動した。
「これはそろって保険魔法発動ってことで」
「あぁ、この勝負引き分けとする!」
こうしてゲシュタル教授とDクラスの担任の双方が認めたことで中堅戦は引き分けで決着がついたのだった――




