第380話 魔力0の大賢者、先生に助けられる?
レッド先生の判定は正直言って理不尽だった。その上いま僕は退場の危機に陥っていたのだけど、そこで声をあげてくれたのがイロリ先生だった。
「意義ありだと?」
イロリ先生の介入でレッド先生が顔を顰めた。明らかに不快そうな顔つきだ。
「今更なんだ。まさか貴様、自分のクラスだからと暴力を振るったこいつを庇うつもりか!」
「僕はやってません。先生信じてください」
「黙れ。見ろ! こんなに顔を腫らして涙さえ流しているのだぞ!」
レッド先生が、僕を睨んでいる女生徒を指さして怒鳴った。だけど僕には身に覚えのない話だ。
「さっきからわざとらしいわね。大体ケガなら保険で治しなさいよ」
「貴様らがさっきやらかしたせいで保険の効果がきれてるんだろうが!」
メドーサの言葉にレッド先生が声を張り上げた。そ、それは確かにリミットの魔法で随分と吹っ飛んでいたんだけどね――
「とにかくだイロリ! お前がなんと言おうとこいつの退場は覆らんぞ!」
「――まぁそうだな。マゼルが実際にその生徒を殴ったと言うなら退場も仕方ねぇだろうさ」
「ちょ、待てよ! マゼルはやってねぇと言ってるだろうが!」
アズールが声を大にして僕の反則を否定してくれていた。ガロンやアニマも納得できないと言った顔を見せているよ。それは勿論僕も同じだ。
「そうだな確かにマゼルはやってないと言っている。だがレッドはこっちの生徒が殴られたと言ってる。だったら――第三者に聞いたほうが早いだろう。メイリア!」
イロリ先生が呼ぶとメイリアがその隣に並んだ。
「なんだ? そんな女を呼んでどういうつもりだ?」
「――答えろメイリア。さっきのプレイでマゼルはその女を殴ったのか?」
「……先程のプレイにおいてマゼルが女生徒を殴ったという事実はありませんでした、とお答えします」
「は、ふ、ふざけないで! 見てよこの頬! ここを殴られたのよ!」
「その頬はすれ違った際に貴方自身でつけたものとお伝えします。魔法によってごまかしたつもりのようですが私の目はごまかせませんとお答えします」
イロリ先生に問われてメイリアが答えた。問題のプレイをメイリアはしっかり見ていてくれたようだ。そういえばさっきイロリ先生がメイリアに話しかけていたようだけど、まさかこれを見越して?
「だそうだぞレッド。どうやらその生徒の自作自演だったようだな」
「ふ、ふざけるな! その女はそこのマゼルと同じZクラスだろうが! 同じクラスなら有利に働くようなんとでも言える!」
「おいおいレッド。お前、まさか忘れたわけじゃねぇよな? 確かにメイリアはZクラスの生徒だが――その正体はゲシュタルが作ったゴーレムだ」
レッド先生が反論するけどイロリ先生はその答えを想定していたかのように悠々と答えた。レッド先生の表情に動揺が走った。
「お、おいマジかよ。つまりあの子はあのゲシュタル教授のゴーレム?」
「なんでそんなのがZクラスにいるのよ!」
「可愛いと思っていたのにショックだ~」
「いや寧ろそこがいい!」
Cクラスの生徒がざわめいているよ。どうやらメイリアのことは知らなかったみたいだね。
「レッド、ここまで言えばお前でもわかるだろう? ゴーレムは嘘を付けない。だからメイリアは見たままを話している。そこに間違いはねぇんだよ」
「ぐっ、ぐぬぬぅ――」
レッド先生が悔しそうに唸り声を上げた。そしてメイリアを睨んでいる。
「納得できるか! 確かにゴーレムは嘘は言わんだろう。だがこれまでも色々と卑怯な真似をしたマゼルのことだ! 何かしらの手でごまかしたに違いない!」
「いや、何かしらの手って……」
「それが何か答えんと話にならんだろう」
「わ、私もそう思います!」
「ピィ!」
「ガルゥ!」
レッド先生の反論に皆が不満を漏らした。確かにそこをハッキリしてもらわないと僕としても納得ができないよね。
「だ、だまれ! だったらお前らはマゼルが何もしてないと証明できるのか? 出来ないだろうが!」
「お前、無茶苦茶だな」
イロリ先生が呆れた顔で言った。確かにそうなんだけどね。
「いつも無茶苦茶なイロリ先生にまで言われちゃおしまいよね」
「メドーサ、そこはもっと言いようが……」
メドーサのセリフにドクトルが困ったような顔を見せていた。メドーサは思ったことを口にしちゃうところがあるみたいだからね。
「何やら面白いことになってるみたいだね」
「何? 誰だ今度はって、ゲゲェ!」
乱入した声の主を見てレッド先生が目玉が飛び出んばかりに驚いていたよ。何せそこに立っていたのはまさに今話題になっていたゲシュタル先生だったのだからね。
「お前、よく顔を見せるな。何だ暇なのか?」
「失敬だなぁイロりんは」
「イロりん言うな」
ゲシュタル先生が笑顔でイロりん、じゃなくてイロリ先生に返事し近づいて来たよ。
「メイリアが対抗戦でここに来るというのは知っていたからね。だから時間を作って見に来るつもりは元々あったんだよ。で、来てみたら随分と賑やかなことになってるよねぇ」
そう答えた後、ゲシュタル教授がレッド先生に近づいていく。
「君は随分とマゼルの事を疑っているみたいだけど、メイリアが見たもの聞いたものはしっかりコードとして記録されているんだよ。それを解析すれば映像化だって可能だ。それでも疑うと言うなら10分以内に見せてあげてもいいけど――どうする?」
「ングッ――」
笑顔で問いかえる先生。だけど発せられる重圧が凄いね。レッド先生も言葉に詰まってるよ。
「わ、わかった――マゼルに反則はなかった。それで試合続行だ……」
そして遂にレッド先生が反則がなかったと認めてくれた。良かったこれで僕の疑いは晴れて退場はなくなったよ――




