第37話 魔力0の大賢者、回復する
前回のあらすじ
皆でオルトロスを倒した
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「これ、本当にあたいらが倒したのか?」
「みたい。でも、多分大賢者様の魔法のおかげ……」
「いやいやそんなことはないですよ。皆さんの実力ですって」
うん、無事倒せてよかったけど、何かみんな結構つかれてしまってるみたいだね。
「最初からいきなりオルトロスとか……」
「もうこれ、体力的に……」
前衛で戦っていたメンバーには傷も目立つね。
「ふむ、やはり回復可能な治療師は必要だったかも知れません」
タルトが意見する。治療魔法が使える治療師は基本的に教会に属している。そして教会は治療師が冒険者ギルドに登録するのを禁じていないので教会に属しながら冒険者もやっているというタイプも少なくない。
だから長旅になる場合やこういったダンジョン攻略になると治療師を連れてきたりするのが定番、なんだけど今回は急だったしね。
う~ん、これはあまりしたくなかったけど仕方ないか。
「なら、とりあえず回復しようか」
「え? 回復?」
「あ、もしかしてポーションを持ってきてくれてるとか?」
カイゼルは薬の町と言われてたみたいだし、そう言われてみれば買っておいてもよかったかなと思えなくないけど。
「薬がなくても、はい!」
「え~と、なんだこれキラキラ光ってるけど?」
「綺麗……」
霧雨状になったソレは確かにキラキラと光っているように見える。そしてそれが皆に降り注いだわけだけど。
「え? お、おい! あたいの傷が治ったし、何か体力も回復してきたぜ!」
「これは驚いた私もだ!」
「うっそ、信じられない?」
「どうなってるの?」
「わ、判った! これは大賢者様の伝説の治療魔法! ディアグランドよ! あらゆる傷を治療し、体力さえも完全に回復してしまう超絶魔法よ!」
「治療魔法も使いこなせるとは……恐れ入ったぞ」
「はい。もちろん大賢者たるお兄様であれば、本来教会に属さなければ伝授されない治療魔法であっても朝飯前です!」
「……あ、はい」
今回、僕は敢えて否定しなかった。うん、だっていえないよ。言えるわけないよ。
皆の回復に使ったのが、ただの僕の汗だなんてことはね!
『師匠! 腕が切れてるよ!』
『おっとついうっかり、だが安心せい。これぐらいつばをつけとけば』
『わ! また腕がひっついちゃった! 不思議~』
『はは、なんてことはない。人間鍛えさえすれば、ツバがエリクサー以上の液体に変化するものだぞ』
ということがあり、僕も鍛えに鍛えた結果、体中の体液に超回復と再生力向上の効果がつくようになった。そしてこの液体は自分だけでなく第三者にも効果を及ぼす。
だから僕は汗を霧雨状にして撒いたんだ。それで回復した。これは、前世でもやっぱり似たようなことをしてあげたら感謝されたんだけどね。しかも僕の汗って妙にキラキラするから、見ていた人が奇跡だって騒ぎ始めて当時は大変だったよ。
しかもそんな風に騒がれると僕も言いにくくなるしね。
だから、結局自分からは真相は話さずにいた。今回もそんな感じだね。
だって、皆に掛かったそれ、実は汗ですよ、なんて言えるわけ無いじゃん!
「はぁ、お兄様の奇跡の魔法……心なしかいい匂いさえ漂ってきました」
ごめん、それ汗の匂い。
「うむ、体力は勿論だが、爽やかな気持ちにもなってきたぞ」
汗です。そんな爽やかなものじゃないです。
「でもこれ何かしょっぱくない?」
そのとおり、汗ですから。
「アッシュ、それはきっと足りない塩分を補給してくれてるのですよ。大賢者様の魔法ならそんなことまで可能に!」
違います、汗だからです!
「それにしても、オルトロスを倒したのはいいけど、折角の素材を持ち帰る手段がないな」
「私たちまだ魔法の袋や鞄をもってないもんね……」
あぁそっか~確かにあれがあればこれぐらいのサイズの魔物でも楽勝で持ち運べるものね。
「とりあえず魔石だけで済ますか。もったいないけど」
「いや、それは確かにもったいないですし、ここは全部持っていこう」
「え? でもどうやって」
「うん、こうしちゃう」
僕はパンチで次元を破壊してその中にオルトロスをまるごと放り込んだ。
「「「「「「えええええぇえええええぇええ!?」」」」」」
「うわ、びっくりした!」
「いやいや、それはあたいたちのセリフだよ! 何したの今!?」
「は、そうだ! そうよ冷静に考えてみたら大賢者様ともあろうかたが時空魔法を使えないはずがないんだわ!」
「確かに、言われてみれば……しかし時空魔法をこの目にできる日がくるとは……」
「一応大魔導師クラスならかつて大賢者マゼルの使用したという伝説の時空魔法の一部を解析し、素材と組み合わせることで魔法の袋や魔法の鞄を作成することに成功したと聞いたことがあったが……」
「素材もなしに魔法を実際に使うだなんて本当凄まじいな」
「しかもこのサイズを一瞬にして時空に収納したということはお兄様が行使した魔法はまさに伝説とも称されるクラウドルーム! あぁ、敬愛するお兄様が凄すぎて卒倒してしまいそうです」
「え? え? で、でもこれぐらい魔法さえ使えれば誰でも出来るよね?」
「「「「「「「「そんな筈ない!」」」」」」」」
総ツッコミを受けてしまったよ。あれ~? あ、でも魔法には合う合わないがあるらしいし、もしかしたら今いる皆は時空を操りにくいタイプなのかもね。なぜかこれまたルーツが僕にあるみたいな扱いが気になるとこだけど。
大体僕のやり方で次元に穴を開けて放り込んだ場合その場所もしっかり記憶しておかないといけないからわりと手間なんだよね。それが魔法だったら自動で出来るだろうし、やっぱ物理で出来て魔法で簡単に出来ない理由がないね。
「……とにかく大賢者様のおかげで素材の確保と回復ができたのは確かだ。最初こそオルトロスなどというとんでもない魔獣が出たが、ここまで来て引き下がるのももったいない」
う~ん、オルトロスってそんなとんでもない魔獣でもないと思うんだけどね。
「そうだな。こうなったらいけるところまで行ってやろうぜ!」
「まぁ最初にオルトロスなんかが出ちゃえばね」
何か皆やたらオルトロスを持ち上げてるなぁ~あれ~? もしかして昔と今じゃ強さがことなるのかな? それとも魔力を温存しているのかな?
まぁとにかく、問題は解決できたし更に先へ進んだんだけど。
「グォ、ゴガァ!」
あっと、今度こそお手軽の相手だね。体長が5mほどのお手軽な魔物の登場だよ。再生能力が高いっていうのがちょっと面倒なところだけど、自己強化して殴るしか能がない相手だし。
「と、トロルだぁああああ!」
「なんなのここ! なんでオルトロスの後にトロルなのよ!」
「もうこれわけわかんねぇ~」
「第一層だよな? ここ第一層だよな?」
「皆どうしたんですか? 今度こそお手軽な相手ですよ?」
「「「「「「どこが!?」」」」」」
また突っ込まれた。え~? でもトロルだし動き遅いし頭もそんな良くないんだよ?
「皆の方が動きは早いはずですよ。大丈夫ですって」
「……何かそんな軽いノリで言われると行ける気がしてきた」
「そうだな。本来精鋭騎士を含めた中隊規模で挑まないと厳しい相手なはずだが、イケる気がしてきた」
「よっしゃ一丁やったるか!」
うんうん、そうそう。とにかくやってみないとね。
そして姉御さんとタルトさんが先頭を切り、その後にアローさんとアッシュさんが続いた。後ろではフレイさんが詠唱しているし、いざというときのために姫様とラーサがスタンバイしている。
すると、トロルが手持ちの棍棒を地面に叩きつけた。トロルはあれで魔力は結構あるらしくて自己強化で殴るとそれなりの衝撃波が発生するけど、まぁ皆なら問題ないよね。
「こんなの無理~!」
「む、無念!」
「近づけね~」
「矢も届く前に破壊されたし!」
うん? あれ? あれでふっ飛んじゃうの?
「皆どうしたの?」
「いや、近づけないんだって!」
「魔法で強化した?」
「限界まで強化してます……」
「強化した矢が届かない……」
う~ん、さっきのだとまだ回復しきれてないのかな? とりあえずこのトロルは僕がぶっ飛ばしたけどね――
エリクサー「汗に負けるなんて!」




