第30話 魔力0の大賢者、流通問題に取り組む
前回のあらすじ
飛竜盗賊団をやっつけた。
「流石大賢者マゼルだ! あれだけの竜巻まで発生させて盗賊を一網打尽にさせるとは!」
父様がまた随分と大げさに喜んでいた。もうこの扱いにも慣れてきた僕が怖い。
「うぅ、畜生~」
「誰だよ、所詮大賢者といっても子どもなら大したことないなんて言ったのよ~」
「竜巻を魔法でつくるなんて常識外れもいいところだろ!」
そして縛り上げた盗賊たちが恨みがましい目で僕を見ながら悪態を着いてきた。全く逆ギレもいいところだよね。
「お兄様相手にたかが盗賊がなんとかなると思っているのがおかしいのです。お兄様はその気になれば天変地異ぐらい瞬きするぐらいの感覚で起こせるのですから」
「「「「「「悪魔かそいつは!」」」」」」
酷い言われようだよね。ただ、妹のラーサはちょっと誇張していい過ぎかな。いくら僕でもそこまで大それたことは出来ないよ。
「しかし、あの竜巻のおかげで殆ど傷つけずにワイバーンを倒してしまうのですから素晴らしいですね」
「うむ、ワイバーンの素材は貴重だしな。これだけ傷みが少なければいい値がつく。彼女たちも大喜びだろう」
う~ん、いい値と言っても所詮ワイバーンだからなぁ。銀貨5、6枚ぐらいかなと思うんだけど。
とは言え、正直言えば前世では素材の買い取りに関してはナイスに任せてることが多かったからそんなに詳しくはないんだけどね。
でも、この程度の魔物にそこまでの価値はないだろうし。
「ローラン卿、もし宜しければこのワイバーンの素材はうちで買い取らせて頂いても? まさかこんなところにワイバーンに乗った盗賊が出るとは思いもよらなかったので」
ヒーゲ男爵によると、そもそもワイバーンが出ること自体初めてらしいね。なるほど、そんなに出ない魔物なら記念代わりに引き取りたいという気持ちもわかるかな。それならもしかしたらもう少し色がつくかもしれない。銀貨7、8枚ぐらいになるかな?
「そうですね。それはうちの冒険者と、あと騎士様にもお聞きしないと」
「いえいえ、我らについてはお気遣いなく。何より殆ど大賢者マゼル様の手で片がついたようなものですからな」
「うむ、我らは守ってもらえただけで十分である」
姫様と騎士達は素材の受け取りは辞退するようだ。本当なら自分たちだけでもなんとかなったのだろうけど、もしかしたら冒険者である破角の牝牛を労って譲ってくれたのかもね。
で、結局素材の権利は姉御さんたちに回ったのだけど。
「本当にいいのか?」
「殆ど大賢者マゼル様がやっつけたようなものだしね」
「ちょっと心苦しいかなぁ」
「むしろあれだけの魔法を間近で見せてもらっているのだからお金を払うべきなんじゃ?」
「いやいや! そんな気遣い不要だから! 素材は皆で上手く分けてよ」
「うぅ、流石大賢者様、心が広い!」
何か凄い感謝されて背中がむず痒くなる。
そして素材の買い取りはヒーゲ男爵の町にあるギルドでも問題ないという話になった。
「そうだ。せっかくですし今夜は是非、私の暮らす町でお休みください。当屋敷で宿泊の準備をさせていただきますし、今宵は更にご馳走を用意いたしますので」
「宿泊については願ったり叶ったりなのですが、お屋敷にまで宜しいのですか?」
「勿論です。オムス殿下も宜しければ是非」
「うむ、好意に甘えるとするとしよう」
そして僕たちはヒーゲ男爵のカッター領地に立ち寄ることになった。
町はカイゼルという名前で僕たちの暮らす領地の町と大きな差は無かった。人口も町だけなら若干うちより少ないかなぐらいだったし。
ただ領地全体としては山と森の比率が高い。出現する魔物の脅威度はそこまで高くないし、それはそれで薬草関係は豊富な方らしく、薬の町としてアピールしていたりもするんだとか。
冒険者ギルドには50名程所属しており数だけなら……マゼルの町、あまり自分で言うのは恥ずかしいんだけど、その冒険者ギルドよりも多い。
ただ、薬草採取を生業としている冒険者が多く、危険度の少ない依頼を求めがちなのでランクの高い冒険者が少ないのが悩みらしい。
ただ、高ランクの冒険者にとってもこれといった依頼も少なく、大体は別の町に移動する旅人や商人の護衛でもって食べているような状態とか。
護衛の依頼は多いみたいだけどその理由は山道に現れる魔物の多さにあって、あとはちょっと前まで幅を利かせていた山賊のススメの被害もあったようだからね。
う~ん、でもこれは今後ローラン領が米を運ぶ際にはネックとなる部分でもあるんだよね。
町についてからは破角の牝牛がギルドで素材なんかを買い取ってもらい、盗賊の討伐報酬も貰ってしまったし分けたいとも言ってきたけど僕と父様で相談してそれも彼女たちに譲ることにした。
すると涙を流して喜んでいたね。大げさだなぁ。でも随分と喜んでいたし盗賊の報酬と合わせてもしかして金貨5、6枚ぐらいにはなったのかな?
ちなみにワイバーンの肉は一部ヒーゲ男爵に譲ったようだね。それに気を良くしたみたいで屋敷には彼女たちも招待されることになったよ。
「ここカッター領では野生の猪もよく取れます。野草やキノコの類も豊富ですのでどうぞご賞味ください。それと当家にお譲りいただいたワイバーンの肉を使った料理もご用意しております」
前もって聞いていたとおり、ヒーゲ男爵はカッター領自慢の食材を惜しげなく使用し、様々な料理や飲み物、お酒を振る舞ってくれた。
出された料理の数はお城で食べたのとはまた違って、全体的には家庭料理的な物が多かったけど、その分安心できる味だった
妹のラーサも楽しんでいたし、何よりヒーゲ男爵は子沢山で、大きな子から小さな子まで合計12人も子どもがいた。
一番下の方はまだ赤ん坊だったり1才児や3歳児だったりしてとにかく可愛い。ラーサも随分と楽しんでいたみたいだ。
破角の牝牛の皆も飲めや歌えの大騒ぎだったね。
「ですが、山道の件は考えなければいけませんねぇ」
「山道専門の警備隊を常駐させるのは如何かな?」
「しかし、範囲が相当広くなるのが難点ですな」
「魔物よけの魔道具など」
「あれも万能ではないので、全てに対応するとなると」
「結界魔法という手も」
「それも考えましたが、持続時間をどうするかが……」
「いっそ砦を――」
そして例の問題についても父様と男爵が話し合っていた。様々な意見を父様とヒーゲ男爵が出し合い、途中から何故かタルトさんまで加わっていた。意見を出す人数は多いほうがいいんだろうけど、やっぱりなかなか難しい問題みたいでこれといった案がでないみたいだね。
「う~ん、本当は別に安全なルートがあればいいのでしょうが」
「このあたりは険しい山が多いですので……」
「ふむ、地図で見る分にはこことここを一直線で結べれば近いのですけどね」
「はは、流石にそれは……トンネルでも掘れればいいのでしょうが、流石にこの距離は難しいですよ」
う~ん、確かに僕もチラッと地図をのぞき見たけど、そこが通ればかなり楽だろうね。
ふむ、そうかトンネルか――
ヒーゲ男爵のもてなしも、ある程度日が落ちたところでお開きとなり、次の日に備えて皆就寝したのだけど、僕は皆が寝静まったのを見て、こっそりとまた町を抜け出した。
夜は魔物が多くなる時間だ。ご多分に漏れず僕を見つけた魔物が襲ってきたけど、今回は狩りが目的じゃないから気絶させたり威嚇で逃亡させたりして済ました。
そして僕は地図で見た場所に到着。さて、ここからちょうどいいのは――
「うん、ここなんか良さそうだね」
前世で培った感知能力をフル活用して抜くのに丁度いい場所を選んだ。
そして、山肌に手を付け、深呼吸する。意識を集中させ、全身に氣を巡らせた。氣の扱い方は前世で師匠に徹底的に教え込まれた。だから肉体だけでなく精神的にもすり込まれていた。
転生した僕は、当然本来なら肉体的にもやり直しになるはずだった。前世でいくら鍛えていても、転生した後は当然鍛えた分まで引き継げない。
そう、本来なら――でも、精神的にすり込まれた氣の扱い方は、転生後もしっかり引き継がれていて、その結果、氣を全身に巡らすことで、前世の細胞の記憶も蘇り、結果的に3歳の頃にはかなりのパワーを引き出せるようになっていたってわけ。
そんなわけで、これから僕は師匠から伝授された技、その中でも氣を利用した技を試す。
肉体と氣を一体化させ、体と氣で同時に螺旋運動を行い、そして氣で目標を打ち込むイメージで――放つ!
「――一気螺貫!」
――ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォオォォオオオン!
僕の氣を帯びた拳によって、山肌が抉られ、爆発のごとく衝撃とともに、反対側まで一気に貫かれた。
「――ふぅ……」
一呼吸おき、改めて正面を見やる。そこには馬車が3台横並びになっても十分余裕のある幅と、小柄な地竜程度なら余裕で入れるほどの高さを備えた穴が出来上がっていた。うん、わりとよく出来た方かな。
よし、と独り言ち、僕は穴の中を進んでいく。確認だから急ぎ足で、サクッと往復した。うん、間違いなく反対側までトンネルが穿たれているね。
これなら十分街道として使えるはずだ。この技は氣を利用しているから自然と外側に圧が掛かって十分推し固まる。だから崩落の心配もない。
一応確認したけど、これなら巨人に殴られても崩れる心配はなさそうだ。
うん、よし! これでかなり便利になった筈。米を流通する問題も解決だね!
トンネル掘っちゃいました。




