第174話 魔力0の大賢者、アダムの試合を見る
ビロスが試合場に向かう。そして姿を見せたのはビロスが見上げる程巨大なゴーレムだった。
「お、おいおい、あれはヤバそうじゃないか？」
「いかにも強そうだ。あの可愛子ちゃん――死ぬぞ！」
クワッ！ と真顔で言ってる受験生がいたけど、試験だから死ぬことはないと思うよ！
「いっくよ～ハニーボール！」
「ゴー！」
そしてビロスが元気一杯に魔法でトロットロの蜜を生み出した。一方ゴーレムは両手を上げて張り切っている。
「えい！ えい！」
「ゴッ！ ゴーーーー！」
それからの試合は、ビロスがひたすら蜜の玉を投げつけて、ゴーレムがビロスを追いかけるって構図になったんだ。
「ほう。あの娘上手いな」
「わかるのかお前！」
「あぁ。あの子は最初からゴーレムには勝てないと判断し、例え効かなくても少しでも魔法を当てることでどこかから見ている審査員の印象を良くしようと思ったんだな」
「なるほど。一見消極的に見えるが、無難で正しい選択というわけだな！」
と、見ている受験生達が言っているけど、恐らくだけどビロスは倒す気満々だね。
「……ビロス上手い」
「はい。あの蜜の効果で明らかにゴーレムの動きが鈍くなってますからね」
アイラとネガメにはどうやらビロスの狙いが掴めたようだね。そして――
「スーパーハニーボール！」
ビロスがより大きな蜜の玉を生み出してゴーレムにぶつけた。
「ゴッ……ゴッ――」
すると遂にゴーレムの動きがピタリと止まった。
ビロスの蜜が固まったんだ。しかも可動域にまで蜜が浸透しているからこれでもう動けない。ビロスは最初からこれを狙っていたんだね。
「――ゴーレム戦闘不能によりビロスの勝利だ。この試験では初の勝利者だな」
「「「「「「「「うおおぉおぉぉぉぉおおおお！」」」」」」」」
ゲズルがビロスの勝利を告げると、見ていた他の受験生からどよめきが起きた。それにしてもビロスは見事な勝利だったね。
「マゼル～やったよ～て、またぁ！」
試合に勝利したビロスが駆け足でやってきたけど、アイラが立ちふさがった。ビロスが腕をぶんぶんと上下させてるよ。
「……丁度いい。次の試合はアイラ、君だ」
「――わかった」
眼鏡を直しながらゲズルがアイラに伝える。アイラは凛とした様子で試合場に向かったよ。
「おお、あの子も美人だよなぁ」
「ビロスちゃんとはまた違う色気を感じるぞ」
「だけど、あの子も何かあのマゼルってのと仲良さそうだったんだぜ？」
「「「「「「「「おのれ魔力ゼロめぇええぇええぇええ」」」」」」」」
また何か数多の殺気を感じるよ……ふぅ、とにかく、アイラの試合に集中しないと。
そして奥の門が開き今度は鋼で出来た鎧姿のゴーレムが姿を見せた。
「ふむ、あれはかなり手強いゴーレムだな。さてどこまでやれるか」
ゲズルの値踏みするような声が聞こえてきたけど……いや、これはもう勝負は決まったようなものだね。
「ゴッ――ゴッ……」
「な、何だとぉおぉぉおおお！」
試合はあっという間に終わった。アイラの目の前でゴーレムは四角く変形し顔だけが出ている状態でもう身動きが取れない。
「相手は鋼鉄のゴーレム。一方でアイラのは錬金魔法。金属を相手するのは得意中の得意、相性がぴったり嵌った形ですね」
「だからってあそこまで圧倒するかよ。すげーな本当」
ネガメが眼鏡をクイッとさせながら解説していた。モブマンも感嘆の声を上げている。
うん、だから勝負はすぐに決まると思っていた。アイラのレベルならあのぐらいのゴーレムは錬金魔法にとっていい加工材料だからね。
「……勝った。後はマゼルだけ」
「はは、僕も頑張らないとね」
「マゼルが負けるわけないよ！」
ビロスはそう言ってくれたけど、ゴーレムとの相性もあるしね。
さて、それから試験は進んでいよいよ残ったのは僕と――あのアダムという少年だけだ。
「次はアダムだ」
「あ、僕の番だねマゼルよく見ててね」
そう言って、無邪気な笑顔でアダムが試合に挑んだ。
出てきたゴーレムはかなり巨大でしかも双頭のゴーレムだったわけだけど――
「確かこうだったかな？ 錬金魔法！」
「……私の魔法を――」
そう。アダムは先ずアイラの錬金魔法を使用した。金属の槍が何本もゴーレムに刺さる。
「あはは、色々と勉強させてもらったからね。蜜魔法！」
「あぁ！ 私の魔法だーーーー！」
ビロスが叫んだ。そう、あれは確かにビロスの魔法だ。巨大な蜜の玉がゴーレムを包み込み、動きが鈍くなった。
「そして、次はこれだね！ ゴッドサンダーーーー！」
放たれた電撃がゴーレムを貫き、そして轟音と共に破壊された。炭化したゴーレムがボロボロになって崩れ落ちる。
「……まさか、マゼルの魔法を？」
「な！ い、一体何なんだ今年の受験生は！」
アイラが怪訝そうに発しゲズルが驚愕していた。でも、驚いたよ。当然僕と違って物理じゃないけど魔法で再現したようだね。
「――あれ～？」
だけど、試合に勝ったアダムは首を傾げて納得いってなさそうだよ――
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