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第156話 魔力0の大賢者、宿に入る

「いらっしゃい……」


 宿に入ると30代半ばぐらいの女性が声を掛けてくれた。受付の担当みたいだね。ボサボサとした茶色い髪、全体的に痩せ気味な女性だ。顔は面長でアイシャドウを含め化粧が濃い目かな。


「あんた一人かい?」

「あ、はい。白銀の馬車という宿から紹介をうけたのですが」

「白銀の……あぁ、ならあんたがマゼルかい。はいはい聞いているよ」


 あぁ良かった。どうやらしっかり話はついているようだね。


「こっちだよ。ついてきな」

「あ、はい」

 

 女の人が僕を促した。一緒についていくことにする。向かって左側には食堂が見えた。奥の厨房では口ひげの生えたがっちり体型の男性が野菜を切っていた。仕込みの途中かな? 一瞬僕に目を向けたけどすぐに作業に戻っていたよ。


 受付カウンターの斜め後ろに階段があった。案内に従ってそれを上る。3階建ての建物で、僕の部屋は2階のようだね。


「ここがあんたの部屋だよ」

「はい。ありがとうございます」


 2階の一番奥が僕の部屋だった。


「そしてこれが鍵だよ」

「はい。あれ? 木製の鍵なんですね」


 わたされたのは一枚の板だ。これをドアに嵌めることで鍵がかかるという旧式のものだね。


「……うちは白銀の馬車みたいな高級宿(ホテル)とは違うのさ。だからうちで扱っているのは昔ながらのもので魔道具なんて洒落たものは一切使ってないよ。貴重品があるなら自己管理でやることだね」


 そう受付の人が教えてくれた。それじゃあ、ここには魔道具がないってことなんだね!


「はい! わかりました! 気をつけます!」

「え? あ、あぁ。それにしても何であんた嬉しそうなんだい? 変わった客だねぇ」


 何か訝しげな目で見られたけど、僕は魔力がないから、魔力で起動するタイプの魔道具は普通には使えないんだ。


 だから扱うには色々と工夫する必要がある。物理的に魔道具を使っているようにみせないといけないからね。


 でもやっぱり壊したら不味いから気を遣うし、可能ならこういう魔道具とは関係ない仕組みの方がありがたいってわけ。


「ちなみに、高級宿と違って個室トイレはないし風呂も……無いからね」


 うん? 何か一瞬間があったような……


「とにかく、そのあたりは自分で何とかしておくれよ。食事は下の食堂で夕食と朝食が出るよ。それじゃあね」

「あ、お名前をお聞きしても?」

「……ジリスだよ。下にいたのは旦那のラシルだ。この宿は夫婦二人だけで経営している宿で従業員もいないからね。面倒は起こさないでおくれよ」


 釘を刺すように言い残してジリスさんが戻っていった。


 さてと、ドアを押すけど、ガタガタとだいぶ立て付けが悪いね。力入れすぎて壊れると不味いから気をつけて開き部屋に入る。


 う~ん――カビ臭い! とりあえず窓を開けよう。窓はガラス張りではなくて木製の跳ね上げ式のだった。ストッパーで固定してと。


 これは蜘蛛の巣も張り放題だね。ベッドも埃が凄いや。


 う~ん――よし!





 うん! こんなものかな。とりあえず部屋の掃除をした。見違えるようにピカピカになったよ。やっぱり部屋が綺麗だとスッキリするね。


 さてと、皆と合流する約束だしそろそろいこうかな。


――トントン。


 あれ? ノックされたね。誰か来たのかな。


「はい、どうぞ~」

「……あんた、苦手な食べ物とかは――」


 扉を開けて入ってきたのは下の厨房にいた男性だった。確かラシルさんだよね。


「――こりゃ、見違えるようじゃないか。あんたがやったのか?」


 ラシルさんが部屋を見るなり目を丸くして問いかけてきた。


「はい。ちょっと掃除をしたのですが、あ、もしかして不味かったですか?」

「いや、全然そんなことはないしむしろ助かるぐらいだが……さっきあんたが来てから全然時間経ってないような」

「あぁ~その、僕掃除が得意で速いんです」

「……速すぎる気もするが、まぁいいか。それで食べ物で好き嫌いはあるかい?」

「いえ、特に嫌いなものはないですが、あ、そうだ!」


 僕は空間を割って閉まっておいた米袋を取り出して手渡した。


「……これは、てか今一体どこから……?」

「あ、はは。それは米です。何でも食べますが、もし良かったらこれを使って料理出来ますか?」

「米、確かに米だな。うちは基本はパンだが、米も扱ったことはある。わかった、ただこれだと多いぞ」

「あ、それは差し上げますので余ったら他のお客様にもどうぞ使ってください」

「……いいのか?」

「はい!」

「なら遠慮なく――ありがとうな」


 一言お礼を言ってラシルさんが戻っていった。体も大きくて強面の顔をしていたけど、わざわざ好き嫌いを聞きに来るなんていい人だよね。


 さてと、今度こそ僕は宿を出てホテル近くの広場に向かうことにした。


 この宿からはちょっと距離があるんだけどね。それにしてもこの辺りは表通りからちょっと外れているからか、人通りも少ないね。魔法都市にもこういうところがあるんだなぁ。


「無礼者! 貴様ら一体何をしているのかわかっているのか!」

「おいおい、そんな大声出すなって。俺らまだ何もやってないじゃ~ん」

「そうそう。まだね、まだ」

「へへ、あんたも可愛いけど、俺見たんだぜ。そっちのフードを深く被ってる方も女の子だろ?」

「しかもかなり上玉のな。ヘヘッ」


 待ち合わせ場所に向かおうと移動していたら、何やら不穏な会話が聞こえてきた。


 場所はあそこの路地か――


「貴様ら! いい加減にしておかないとただではおかんぞ!」

「ただではおかないぞだってきゃわいい~」

「してして~ただではない気持ちいいことをさぁ」

「へへ、いいから一緒に来いって。そうすれば手荒い真似は――」

「何してるの?」


 路地を覗き込むと、数人の男が女の子に無理矢理言いよっているのが見えた。言い寄られている方は2人ともフードを被っていて1人は後ろの子を庇うように男たちと対峙していた。


 後ろの子は目深にフードを被っているけど女の子なのはわかる。2人がどうみても嫌がっているのもね。


「あん? 何だテメェは!」

「たまたま通りがかったんだけど、その子たち明らかに嫌がってるし、あまり強引なのも男としてどうかと思うよ」

「何だこいつ?」

「ギャハハハ! もしかして困ってる女の子を助けてナイト気取りでもしようってのか?」


 ふぅ、魔法都市ってもっと治安がいいのかと思ったけど、こういう手合はやっぱりどこにでもいるんだな。


「一応確認だけど、大人しく引き下がるつもりはない?」

「大人しく? 俺達が? お前、俺達の人数見えてる?」

「たった一人で何が出来ると思ってんだか」

「まぁいいや。君たちちょっと待っててね。今すぐこいつぶっとばしていいところに連れて行ってやるから」

「まぁまて。こんな奴俺1人でやってやるよ」


 そしてその中で一番体格のいい男が僕の前までやってきて見下ろしてきた。拳をポキポキと鳴らしている。


「ぶっ飛ばされないうちに消えるなら今のうちだぞ?」

「悪いけど、困っている子は放ってはおけないよ」

「そうかよ! だったら死ね!」


 体格のいい男が拳を振り上げたけど、足がお留守だったから軽く蹴り足で刈りとってやった。


「グベェ!」


 男は前のめりに倒れて地面にしこたま顔を打ち付ける。体は大きいけど、動きがなってないね。


「な、何だおい、なんであいつコケてんだよ!」

「ま、まて、こいつまさかスリップの魔法を!」

「は? ばかいえ。摩擦係数を無くす高等魔法じゃねぇか!」


 すると残った男たちが騒ぎ出したけど、魔法って足を出しただけなんだけどなぁ。


「いやいや、そんな魔法じゃ」

「チッ、だがなめるな! 我が手に宿れ灼熱――フレイムボール!」


 あ、魔法を使ってきた。さすが魔法都市、普通に魔法を使ってくるね。そして目の前で火球が弾けた。


「はは、どうだ! 魔法学園を退学になった俺の魔法は!」

「それって威張れること?」

「なぁああぁああぁああ!?」


 僕が言い返すと、魔法を撃った男が両目を見開いて驚いた。う~ん、それにしても退学させられたからなのか、全く大したことなかったね。


「ウィンドストライク!」

「アースジャベリン!」


 更に仲間も魔法を撃ってきたから全部手で跳ね返してやった。


「「「ギャンっ」」」


 そしたら自分が撃った魔法にやられて倒れたよ。残った1人はあたふたしている。


「まだやる?」

「う、うぅ、覚えてろよーーーー!」


 あぁ、逃げていったよ。いや、忘れるかな……それにしても仲間は置いて行っちゃうんだね。薄情なやつだ。


 さてと、これで危険は去ったかな。


「あの、大丈夫だったかな?」

「あ、あぁ。済まなかった。助かったよ」

 

 後ろの子を庇うように立っていた少女がお礼を言ってくれた。目つきが鋭いけど美人さんだね。


「しかし……今のはリフレクトか。しかも詠唱なしとは大した腕だな」

「あ、あはは――」


 また勘違いされてしまったよ。手で跳ね返しただけだからただの物理なんだけどなぁ。


「あ、あの! ありがとうございます!」

 

 すると、彼女の後ろで庇われていた子が前に出てお礼を言ってくれた。その拍子でパラリとフードが捲れたんだけど――


「あれ? その耳、エルフ?」

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