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第117話 魔力0の大賢者、メイドにたじたじ?

「大賢者もそういうのに興味を持つ年頃なのかしら?」

「だ、だから違うってば! これは、たまたまで、問題は、ファンファンだよ!」

「ファンファン?」

「ちゅっ!」


 僕がファンファンに目を向けながら言い放つと、メイドさんは小首をかしげた。とぼけても駄目だよ、ファンファンだって鳴き声を上げて、そうだちゅ! とでも言ってるように追随してくれている。


「あら、確かによく見ると肩のその子はファンファンね。そう、流石大賢者様、部屋の棚に紛れ込んだその子を見つけてくれたのね」


 そう来たね。なんとなくそんなことを言ってくるんじゃないかとは思ったけど。


「どうして棚に紛れ込んだと思ったの?」

「え? それは今たしかに」

「お姉さんが入ってきた時にはファンファンは僕の肩に乗っていたんだよ。それに僕が口にするまで貴方は気づいてない様子だった。それなのに部屋にいたと言うならともかく棚の中にいたと断言するのはおかしくないかな?」

「……そんなことはないわ。だって貴方頭の中に私のショーツを乗せていたじゃない」

「う、いやそれは……」


 ま、またそんなこと蒸し返して、せ、精神攻撃のつもりなら無駄だよ!


「もしそれが下着を漁っていたわけじゃないのなら、棚にいたファンファンを見つけようとしたんだって、そう考えてもおかしくないんじゃない?」


 そういうことか。つまりあくまで推理しただけだといいたかったわけだね。


「でも、そうだとしてもファンファンは姫様の元を離れようとはしない。そう考えたらここに入れられていたのはおかしいよね。貴方だってさっきそう言っていたのだし」

「確かに言ったけれど、それだって絶対ではないわ。でも、何か事情があるかも知れないし、ファンファンが何かの手がかりになるかもしれない。だから私に渡してもらえるかしら?」


 そう言って近づいてくるけど当然僕は渡す気はないし警戒もしている。


「ふぅ、でもここ暑いわね」

「え?」


 すると、メイドさんが急に上着のボタンを外し左手で前を開けさせた。大きな双丘と谷間が視界に入って、な、何してるの突然!


「な、何のつもり、な、なのかな?」

「あらあら、赤くなっちゃって可愛い。やっぱりこういうことに興味があるのね?」

「ち、違うそうじゃ……」

「ちゅ~……」

「いや、だから違うんだってば!」


 ファンファンの視線が冷たい気がするよ! 


「と、とにかく近づかないで!」

「あら、どうして? 大賢者様さえ良ければ、別にいいのよ?」


 いいのよって何が!? いや、駄目だ、こんな色仕掛けに……。


「ふふ、そんな警戒しなくても大丈夫。何か誤解をしているみたいだけど、ほら、手にもなにもないでしょう?」


 そう言ってメイドさんは右手を広げ、何も持ってないし敵意もないとアピールしてきた。左手は胸に添えて目と鼻の先までやってきて。


「良かったらお姉さんが愉しませて、あ・げ――」

「無駄だよ」

「――ッ!?」


 メイドさんの瞳が驚愕に染まる。そして僕の手は、ナイフの握られた彼女の手を掴んで振り上げていた。


「どうして、右手だってなにもないって見せてあげたのに……」

「だから、怪しまれないと思ったの? でも、僕にはわかってたよ。お姉さんが左利きだって」

「な!」


 お姉さんが絶句した。きっとメイドさんは右手に注目させて何もなければ怪しまれないと思ったんだろうね。左手は胸に添えられていたし、まさか谷間に隠していたナイフを左手で取り出して刺すなんて思わないと考えたのだろう。確かに利き腕は圧倒的に右利きって人が多いからわからないでもないけど、でもね。


「僕は鼻が利くんだ。だからファンファンを掴んだのがお姉さんだというのもわかっているしその時の手が左手だというのもわかってる。もっと言えばドアノブを回したのも左手だし、引き出しも左側の取っ手のほうが強めに握られていた」

「あ、ぐ……まさか鼻をそこまで魔法で強化するなんて……」


 いや、ただの嗅覚なんだけどな……。


「それと、そのナイフには毒が塗ってあるよね」

「そ、そんなことまで!」

「お姉さんは色々と甘いよ。殺気だって隠しきれていなかったもの

「チュッ! チュ~!」


 ファンファンが何かバンザイするようなポーズを見せながら鳴いたね。褒められたみたいでちょっと照れくさい。


 う~ん、でもきっとメイドさんの力でも毒があればなんとかなると思ったのかもだけど、この程度の毒だと僕にはどのみち効かないね。


「でも、このナイフはちょっと物騒だね。フッ!」

「ファッ!?」

「ちゅーー!」


 こんなナイフを残していても危ないからね。だから一息で破壊して消し去ったらメイドさんとファンファンに随分と驚かれたよ。


 でもこれの素材はただの鉄だしね。そういえば前世の修行時代、師匠に、まさか息を使って原子レベルで鋼鉄を破壊するとはな、とか言われたっけ。師匠は厳しかったから息を使ってその程度かって呆れられたのかも知れないね。

 

「こ、これが大賢者の魔法か、化け物め!」


 え~と魔法ではないんだけど、まぁそれは今はいいか。


「もう、言い訳のしようもないと思うけど、どうしてこんなことしたの? メイドさんアリエルのお世話をしてきたんだよね?」

「……ふふ、そうね。確かになんならヘンリーの身の回りの世話もしてきたわ。そしてだからこそ、憎んだ! 魔力が高いと言うだけで、魔法が使えると言うだけでただそれだけで敬われ慕われる連中のことが! この世界は魔力が、そして魔法が全て、だけど、そんなのは間違っている! それを魔狩教団は教えてくれた。そして私に救いの手を差し伸べ、この世界から魔法をなくしてみせると誓ってくれた――」


 魔狩教団? 何か名前からして胡散臭そうな気がするけど、今回の件にその教団が絡んでいるということか。


「だからって、こんな真似してはいけないって思わなかったの?」

「ふん! 所詮大賢者だなんて呼ばれて調子に乗ってる餓鬼には魔力が少なく魔法も使えない人間の気持ちなんてわからないわよ!」

「……確かにお姉さんの気持ちをわかるなんていい加減なことは言えないよ。でも、例え魔力がなくても、魔法が使えなくても、他にいくらでも方法はあったんじゃないかな? こんなやり方をしても誰も幸せになんてなれないよ」

「……あんたみたいな恵まれた人間とは、一生わかりあえないよ」


 お姉さんに何があったかは知らないし、確かに転生してからの僕は恵まれているんだと思う。

 まぁ過去には僕も魔力がないからと蔑まれて捨てられた時もあったんだけど、それはそれとして、でも、やっぱり間違っているものは間違っているよ。


「お姉さん、それでアリエルはどこにいるの? その魔狩教団に捕まっているんだよね?」

「……教えるわけ無いだろう。何をされたって絶対に言わないさ。はは、ざまぁないね。大賢者のあんたでも、それがわからなければ何も出来やしないんだ」

「いや、出来ればお姉さんの口から聞きたいと思ったんだけど、教えてくれないなら仕方ないね。僕の力で探しに行くよ」

「は? あ――」


 僕はちょっとした威圧でメイドさんを気絶させてベッドのシーツを使ってぐるぐる巻きにして置いてきた。後は――


『陛下、不躾に申し訳ありません』

「は!? え? な、なんだこれは? この声は、大賢者マゼルか? 一体どこに?」

『少し離れた場所から声だけ届けています』

「な、なんと、これが大賢者の念話の魔法か……」


 いや、本当に声だけ届けていて、そして陛下の声を拾ってるだけなんだけど……念話とも少し違うかな。氣を使えば思念を送るのも可能ではあるけどね。


『そこでお伝えしたいことがありまして』

 

 そして僕はファンファンがメイドさんに捕らえられていたこと。今回の件にメイドさんも関与していることを伝えた。部屋で捕縛して眠らせていることもね。陛下は随分と驚いていたけど、とにかく僕はこのままアリエルの行方を追うと伝えた。


「そうかわかった。やはり魔狩教団が絡んでいたのか……苦労をかけてしまうが、恐らくあの子をヘンリーや他の騎士も追ってるのだと思う。大賢者マゼル、どうか皆を救ってあげてくれ」


 陛下が僕にここまで言うなんて。声からも消沈しているのがわかったよ。


 これは絶対に助けないといけないね。


「ちゅっ! ちゅ~!」

「ここでアリエルが捕まったの?」

「ちゅっ!」


 ファンファンの案内でアリエルが連れて行かれた場所がわかったよ。そしてジェスチャーでやっぱりヘンリーたちもその後を追ったんだということも理解した。


 ただここから先はわからないみたいで、ファンファンもしょぼんとしていたけど。


「大丈夫。ここまでくれば、あとはなんとかなりそうだよ」

「ちゅ! ちゅ~!」


 ファンファンが安堵しているようだった。さて、ヘンリーや騎士たちの気配も残っているしこれなら問題ないね。待っててよ皆!

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