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第114話 魔力0の大賢者、とは別に動く王子達

sideヘンリー


 僕は4人の騎士を連れて攫われた妹の救出に急いだ。見知らぬ轍を見つけ、その後を追うが、どうやらアリエルを攫っていった連中は途中から石畳に乗り上げたようだね。


「どうしますか? これでは追えないのでは?」

「大丈夫だ問題ない。恋の電撃愛の電気、僕のズキュンに君は――」


 僕が詠唱を開始すると、騎士の2人がポカーンとした顔を見せた。そういえばこの中で僕の魔法を見たことあるのはカレントとヤカライだけか。


 ふむ、僕の華麗な詠唱に驚いているといったところか。でも今はそんなことに反応している場合じゃないぞ。


愛の雷標(ラブスパークアロー)――」


 魔法を行使すると僕の体から細い電気が伸びていき、石畳の残土を追ってくれた。この魔法は対象が残した何かしらの形跡を微弱な電気で感知してくれる。


 だからこの電気の行く先に向かえば妹を攫った連中にも追いつけるはずだ。


「殿下、そのような魔法まで取得していたのですね」

「こんなこともあろうかと思ってね」

「いやはや流石は王国始まって以来の天才と称されるだけはあります」

「全くです。その魔法の腕は大賢者でさえもきっと舌を巻くことでしょう」

「そういうおべっかはいらないかな。美しくないよ」

「ぐ……」

「む……」


 ハイルトンとコマイルが喉をつまらせる。お世辞が悪いとは言わないけど状況を考えたほうがいい。それに大賢者にはとても敵わないのは戦った僕が一番良くわかっている。


 とにかく、僕たちは何者かの形跡を辿り、足を早めた。


「こ、これは王子殿下!」


 門を守る衛兵が私を見るなり王国式の敬礼を行う。しかし、それに応じている暇はない。


「済まないが少し急いでいるんだ。このまま通っても?」

「も、勿論です! どうぞどうぞ!」

 

 門で順番を守っているものには悪いが、普段は衛兵が通るために設けられた別口を通り僕たちは王都に入った。


 そう、形跡を見るにアリエルを攫った馬車はどうやら王都に入ったようなのである。


「流石に人が多いな。これだけ多いと魔法では探しきれない――」


 僕が扱う追跡の魔法もあまりに人や物が溢れている場所では精度が落ちてしまう。なのでここから先は自力でアリエルを見つけなければいけない。


「しかし……攫った連中はまだ王都にいるのでしょうか? もしかしたらもう出ていったのかも……」

「それはありえない。王都に用がなければそもそもここに立ち寄る理由がないからね」

「確かにそうですね」

「ですが、だとして奴らは何故王都に?」


 そう、それが問題だ。ただアリエルを攫いたいだけなら王都に立ち寄る意味がない。そもそも王都には衛兵も人も多い。目立つ行動をしてはすぐ怪しまれるだろう。


 そもそもアリエルを何故攫ったのか……身代金目的か? いや、それならやはり王都に来るのは不自然だ。攫った王国の姫の取引場所に王都を選ぶわけがない。


 理由はもっと他にあるべきと考える必要がある。


「……君たちはここ最近、何か関係ありそうな事件などで心当たりはないか?」

「そう言われても……」

「ふむ、盗賊などは相変わらずどこかしらに出没しているようですが」


 いや、これまでの動きから盗賊の可能性は低い。それは却下だな。


「最近だと……妙な教団の噂は耳にしましたが……」

「妙な教団?」

「はい。魔狩教団という連中で、何でも人が魔法を使うことに反発していて、各地で起きている魔術師殺しにも関与しているとか」

「ふん、そんな話、全く今回のことに関係ないではないか」

「全くだ。そもそも姫様は魔術師ではない」

「いや、待て」


 ヤカライの話に耳をかそうとしないハイルトンとコマイルだが、僕にはどこか引っかかる物があった。


 魔法を使うことに反発、それに魔術師殺し……もし、そんな連中が大賢者のことを耳にしたらどうなるか、まして国が叙勲したなど知ったら――


「そうか……見せしめか――」

「え? みせ、しめ、ですか?」

「そうだ……」


 自分で言っておきながらも不安が強まる。もしこの考えがあっているなら、今この瞬間にも妹の身に危険が迫っていることになる。


 だが、見せしめと言うなら王都に来た理由もわかる。きっと連中は大胆にもこの王都内で見せしめを実行するつもりなのだ。


 だがだとしたらどこに、いや、待てよ――


「お前たち、ここから一番近い地下水路への入り口はわかるか?」

「え? 地下水路ですか?」

「そうだ。急ぐんだ! 早くしないと間に合わないかもしれない」

「それなら、私がわかります。ここからだとこっちです!」


 カレントが道を示し駆け出した。我々もその後に続く。


「し、しかし地下水路には鍵が掛けられていてそう簡単には入れませんが……」

「忘れたのか? 連中は内部から手引されアリエルを攫った可能性が高い。そしてそれが出来るほどのものなら地下水路の鍵について情報を流している可能性も高い」

「……なるほど、姫様を攫った連中は水路の合鍵を予め作っておいたと」

「で、ですが何故わざわざ地下水路に?」

「……正直考えたくないけど、今回攫ったのがその教団だとするなら、アリエルは見せしめに利用する為に攫われた可能性がある。それである以上、連中はその成果を人の目に晒したいと考えるはずだ。そして地下水路であれば……例えば遺体などを流せば川に放流される時に人の目につくことになる」


 断言したくなかったから濁す形で口にしたが、その意味は彼らにも理解できたはずだ。


 とにかく急がないと――


「殿下! 鍵が開いてます!」

「どうやら予想はあたったようだね」


 カレントがこちらを振り向いて叫んだ。地下水路の入り口は南京錠で施錠されていたが、確かに鍵は開いたままだった。


 王都に入る時は商人の振りでもしてくぐり抜けたのだろうが、そこから先は出来るだけ最短ルートを選ぶだろう、という考えだったが的中してよかった。


 我々はその脚で地下水路に入った。この中なら僕の魔法が役立つはずだ。案の定奴らの形跡を魔法で追うことが出来たわけだが。


「誰だ貴様らは?」

「誰でもいい、我々の姿を見た以上、生かしてはおけない」


 形跡を追っていくと、黒ローブを纏い仮面で顔半分を隠した連中に遭遇した。人数は2人だ。剣を抜き物騒なことを口にしている。


「どけぃ!」

「邪魔だこの狼藉者が!」


 するとハイルトンとコマイルが前に出て黒ローブの2人を斬り伏せた。流石に王国騎士団所属の騎士だけあって腕は確かだ。


「ふん、どうやら連中、それほど強くはなさそうです」

「この程度なら恐るるに足らずですな」


 ハイルトンとコマイルが得意げに鼻を鳴らす。

 自信があるのは悪いとは言わない。だけど、それが奢りにつながっては思いがけない失態に繋がることもある。


「油断はしない方がいい。アリエルの命も掛かっている。相手がどんな連中かもこれだけじゃ判別できないのだから」

「勿論わかってますよ」

「ですが、その言葉は後の2人にこそ言ってあげた方がいいかと思われますぞ」


 相変わらずこの2人はカレントとヤカライに対する対抗心が強い。どうにも不安が残るが、僕たちは先を急ぐ。暫く進むと、地下水路の中でも比較的広めの空間が見えた。そしてその先には木製の十字架に磔にされたアリエルの姿――


「アリエル!」

「む! むぐぅううう!」


 妹は猿轡をされ、まともに言葉を発せない状態だ。


 そしてアリエルを囲む黒ローブの連中。全員仮面をしている中、1人だけ他とは違う仮面をしていた。角が生えたような形で仮面に奇妙な模様が施されている。


 その男は声を上げた僕に顔を向け、両手を広げ言った。


「おやおや、神聖な儀式を邪魔するとは、神に仇なす不届き者もいたものですな」

「黙れ。神が貴様らのような連中の蛮行を許すわけがないだろう。妹は返してもらうよ」


 僕がそう宣言すると、黒ローブを着た連中の何人かが前に出てきた。この中でリーダー格は角の生えた仮面の男だろう。


 それ以外の数は全部で10人。リーダー格の左右に1人ずつ、更に真ん中に4人、前衛に4人といった配置で続く。前衛と僕たちとの距離は騎士の歩幅で7、8歩分程度といったところだね。


「ふん、こんな連中しょせん烏合の衆よ」

「数だけ揃えたところで無駄よ。我らにおまかせを殿下!」

「待て、勝手に前に出るな!」


 しかし僕の制止も聞かず、ハイルトンとコマイルが飛び出した。だが、それとほぼ同時に黒ローブの2人が何かを投げつける。


 それは地面に命中すると爆ぜ、細かい粉末が辺りに飛び散った。2人の騎士はその中に飛び込む形となり。


「な、なんだこれ、は?」

「体が痺れて、うごけ、な……」


 ハイルトンとコマイルがその場に倒れ動かなくなった。どうやら麻痺効果のある粉が仕込まれていたようだね。ハイルトンとコマイルはこれでもう動けない……だから油断してはいけないと言っておいたのだが――

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