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妄想設定作品集三  作者: 蒼和考雪
maou girl
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1 魔王として

「魔王様! 人間どもが攻めてきました! いかがいたしましょうか?」


 ガタガタと走りながら広い玉座の間に入り報告する動く鎧。この場所は魔王城。名前の通り魔王の住まう居城である。この世界では人間と魔王……正確には魔王率いる魔族とが争いあう世の中であり、今もその争いは続いている。


「……いつも通り。攻め入る者たちを滅ぼし、逆に攻め返す」

「了解したしました!」


 動く鎧の魔族に答える魔王はまるで少女のように見える。しかし、その年齢はこれでも百を超え、その実力は当然魔王を名乗るにふさわしいものである。彼女が魔王となったのももう数十年以上も前の話。その時からずっと魔族たちを率いて人間との争いを繰り返している。彼女の目的は一応世界征服、魔族により支配された世界を作ることとなっている。


「……………………」


 しかし、そんな理想を持つ魔王の眼は何処か無機質なように見える。意思がないわけではない。だが……どこか、魔王という有り様に対し飽いているような、もしくは何かを諦めているような、そんな感じにも見える。

 魔族と人間の戦いは激烈なものとなっている。魔王はその戦いに参加せず、外で魔族たちと人間たちの戦いが集結するのを待つ。魔王の役割は主に魔族を率いる旗頭であり、魔族たちに支持を出す筆頭である。その力を振るうことがほとんどの場合ありえない。

 だが、彼女が力を振るう機会が時折ある。


「見つけたぞ! お前が魔王だな!」

「…………如何にも」


 少女が玉座から立ち上がる。玉座の間に侵入した人間が一人……魔王を討つために召び出された勇者である。この世界における魔王はある程度の時期をおいて現れる人間にとっての脅威。魔族自体は脅威ではなく、魔王が脅威である。その魔王が出てきたとき、勇者を召喚してそれを討つ、そういうサイクルができている。この少女の姿をしている魔王はその勇者を幾度か殺して攻めてきた人間事殲滅し、その攻めてきた人間の国へと逆に攻めることを行っている。そうでなくとも人間たちの国を征服するために攻め入っているくらいであり、かなりの所業を彼女は行っている。人間側の恨み辛みもかなりのものだろう。

 勇者召喚も本来ならば幾度も行えることではないだろう。召喚に必要な魔力、場合によっては生贄のような犠牲すら必要になることもある。しかし、それくらいなことをしなければならないくらいに魔王との戦いは熾烈で苛烈、かなり切羽詰まった状態になっているのが現在の人間の状態だ。


「うおおおおおおおおおおおっ!!」

「………………」


 勇者は強い。この世界に生まれなかった勇者はこの世界とは別の世界に生き、そこで過ごしている。この世界は豊富は魔力とそれを力に変えることのできる世界の理がある世界。この世界に生まれし者は生まれつきその理の中で生きており、それゆえに他の世界よりも楽に強く生きる。そのためか、ほかの世界の有り様としてこの世界よりも過酷な世界の住人はこの世界に適応することで大きな力を得ることができる。勇者というものはそういう形で力を得た存在だ。だからこそ、勇者はこの世界のだれよりも多くの場合強い。

 だが、魔王はその中でも極めて例外的な存在だ。異世界から召ばれ、大きな力を得た勇者……その勇者ですら、この少女の姿をした魔王にはかなわない。それほどまでに、魔王は強かった。


「がはっ…………」

「………………」


 勇者が床に倒れこむ。その腹部には大きく開かれ、その部分から内臓が零れ落ちている。そうして倒れこんだ勇者に向けて、魔王は魔力を放出して上から勇者を押し潰す。ぐしゃり、とその身体が零れ落ちた内臓ともども潰される。そしてさらにその魔力を炎へと変換し、その肉体のすべてを焼き尽くした。


「…………これで終わり」


 自分を狙ってきた勇者、その命が費える瞬間にも、魔王の心は揺れ動かない。いつも通り、魔王としての役割として魔族を率いて人間たちを攻め、支配するために働く。自身を襲ってくる勇者は撃滅してそのすべてを消し去る。彼女はそれを行うだけの機械のようなもの。自分の意思を伴っていようとも、そのありようは機械や人形と同じようなものである。


"よくぞ勇者を討ち果たした。我らが魔族の悲願を果たせ。それが魔王の務めだ″

「…………っ」


 少女の姿をしている魔王は手で頭を押さえる。魔王の声……いや、魔王の意思、彼女ではなくこれまでのすべての魔王の意思を統合したような、魔王という存在を作り出すおおもとの意思。言うなればそれは亡霊のようなものだろう。この世界に生まれ落ちた最初の魔王、その意思から続いている魔王たちの怨念、亡者のような願望、欲望、その結晶のようなもの。

 少女は最初は魔族だった。きわめて強力な、という但し書きが着くがそれでも単なる魔族だった。しかし、そのかつての魔王から続く魔王の意思、それが彼女を魔王へと変貌させた。彼女はそのかつての魔王の意思に従っている。それはそれほどまでに魔王の意思が強力である……というわけではない。彼女の場合はその意思に逆らえる。それほどまでに少女の力は強かった。だが、そこまでするほど少女に願いもよくもなかった。ゆえにその意思に従い、彼女は魔王をやっている。


「……………………」

"おおおおお! 我らが悲願! それを叶えるまであと少しよ!"


 少女には理想もない。願いもない。ただ、魔王の意思が言う世界征服を行うだけ。その先に求めるものなど何も存在していない。


「………………」


 ゆえに、彼女はただ『魔王』であるという事実を胸に、『魔王』らしく、『魔王』として、在る。

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