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 元アルヘーレンの領地を奪還した賢哉。賢哉および王国側としては奪われた領地を奪還できればそれでいい話ではある。しかし、隣国の方は奪うためにどれだけの努力をしてきたか。取り返されたからとあきらめることはできない。むしろ隣国側を怒らせ、全面的な争いへと発展することになった。


「……はあ」

「溜息を吐くと幸せが逃げると言いますよ?」

「攻めてきた相手を追い返したら戦争を吹っ掛けられたんだ。溜息もつきたくなる」


 隣国は王国に戦争することを通達してきた。もちろんアルヘーレンの領地へと向けて。準備としては両方とも必要であるが、王国側は元アルヘーレンの領地に多大な軍勢が存在する状態である。王国の兵士が、という形ではなく王国にいる貴族たちの私兵、彼らが雇っている兵士達であるが、彼らは元々奪われた元アルヘーレンの領地の奪還のためにきたわけだが、今回賢哉がほぼ一人で領土を奪い返した形になり、彼らは活躍の機会がなかった。

 しかし、ここで隣国が戦争を吹っ掛けてきた。彼らとしては取り返す際に彼らが役目を果たせず戦果を得ることができなかったが、今度は流石に彼らも参加せざるを得ない、いや、何が何でも参加するといった感じである。仮に賢哉が止めたところで……むしろ、賢哉がいるからこそ逆に彼らは反発するだろう。彼らが功を得ることができなかったのは賢哉のせいだと思っているがゆえに。もちろん賢哉のせいではなく、彼らが賢哉の言ったことを理解せず自分勝手に行動した結果であるが、こういった逆恨みは事実を考慮されるものではない。そもそも自分たちが勝手をしたとも思っていないのではないだろうか。

 そういうことで今回は賢哉が指揮官、主導という形になるのは奪還の時と変わらない者の、軍勢はその時と違いしっかりと元アルヘーレンの領地に集った全ての貴族の兵士たちを集めての本当の意味で戦争を行う形となる。賢哉にとっては実に面倒な話であり、自分一人で行った方がよほど気楽でやりやすいと思っている。とはいえ、こいった社会的な柵、人と人との繋がりは簡単に無視できるものではない。


「一つ聞いてもいいか?」

「なんでしょう」

「今回、あいつらを使って行動しなければならないのか? 戦果に関しては参加した時点で十分功をもらえることにしていい。俺としても奪還の時点で戦果としては十分、今回の戦争に関してはそこまで極端な戦果は求めない。できれば俺が殲滅して速攻で終わらせて犠牲者を少なくしたいんだが」

「…………あなたにそれができることは理解します。しかし、彼らはそれに納得するでしょうか?」

「納得するかは関係ない。将来的な禍根になり得る可能性はあるが、かといって犠牲を増やすのも得策ではないだろう。そもそも烏合の衆と言ってもいいここにいる軍勢を指揮してちゃんとした戦いができるかも怪しいな。俺は彼らに信用されていないだろうし、見た目も実際の年齢も彼らが信を預けるほどのものでもない。それに俺の指揮能力は高くない……それこそ元々この領地を治めていた貴族、フェリシアの父親とかの方が指揮官には向いているはずだ」

「……そうですね」


 賢哉は自分の能力に関して正しく理解している。賢哉は賢者の才を持つ存在であるが、賢者と言ってもそれは権謀術数に優れ知将謀将としての才があり稀代の軍師であるというわけではない。あくまで魔法の才にて極めて高い才能を持つというだけのものである。まあ、魔法と言っても、あらゆる魔法の分野に精通する、という意味でかなり広い範囲だ。それこそ魔法使いの才や僧侶の才ではなく、賢者の才と当てはめられるくらいに。まあ、つまりは賢哉の指揮官として能力では集まっている軍勢を率いて戦争を行い犠牲少なく最大の戦果を出せる、というほどのものではない。賢哉は単純に魔法を使い戦のが一番強いのである。


「ですが、やはり……」

「どうしてもだめなのか?」

「…………はっきり言えば、ダメとは言えません。ですが、後で問題が起きる可能性もあります。それこそ人の反感を買う可能性は高いでしょう」

「わかっている。だが、仮に俺が兵を率いて戦い負ける場合の方が困るだろう?」

「それは確かにそうですが……」

「軍勢の数、それに俺自身も戦闘には参加するだろうから勝てるだろうが、やはり犠牲に関して文句を言われればその文句に対して反論することはできない。それこそ俺のせいで犠牲が増えた、という言い方をすれば先の功も削れるかもしれない。後で文句は出るかもしれないが、実際に行い結果を出した功績自体は否定できるものではないだろう。それよりも失敗を行いその結果功績を削られるような形になる方がはるかに面倒だ。本当に、俺はそれをやってはいけないのか?」

「………………私はあなたに忠言をするためにここにいます。しかし、この場において正式に決定権を持っているのはあなたです。ゆえに、あなたが軍を率いてどう戦うかを決めるのはあなたの責任にあり、あなたの自由でもある。私がどれほど何を言おうとも、最終的な決定を行うのはあなたです」


 それは事実上の賢哉の行いを止められない、という内容である。そもそも王命を受け行動しているのは賢哉であり、賢哉が兵士たちをまとめる必要性は本来ない。彼らは元アルヘーレンの奪われた領地の奪還のために集められたわけであり、それが成された以上本来はそれ以上の行動は必要ない。もちろん戦争を行うと宣戦布告された以上それを無視することはできず、幸いなことにその戦争を行うだろう地点の近くに手の空いた兵士たちがいるのだからちょうどいいと使わない理由がないわけであるが、それでも元々今回のことに関わっているの賢哉である。まあ、元アルヘーレンの奪われた領地の奪還は彼らも受けていたわけだから、同じ内容で指示されている賢哉と同様その後のことに関わるのは変な話ではないだろう。


「つまり、俺の好きにしろと?」

「彼らの指揮官であり、決定権があるわけです。彼らをどう扱うかはあなたの選択によります。まあ、彼らがあなたの指示に従わない可能性もありますが……少なくとも始まる前からの勝手は行わないでしょう。始まってから接敵するまでは恐らくそれなりに時間がある。その間にあなたが望む行動をし、結果を出すのであれば、それは問題がない行動とは言いませんが、どうしようもありません」

「そうか。ならそうさせてもらおう」


 本気になれば結局のところ賢哉の行いを止められるものではない。そして、賢哉自身を罰することも事実上難しい。下手に賢哉を否定し追いやるようなことをしてしまえば、場合によっては別の国に行く。本気で賢哉の行いを否定し抗することはできない。であれば、賢哉は好き勝手にしてもいいということだ。まあ、そこは賢哉自身の倫理観、常識的感覚に頼るしかない。彼とて人間であり、下手に他者とのかかわりをこじれさせたくはない。しかし、それでも。やるべきことはやる、守るべきものは守る、救えるものは救う。無駄な死をもたらさず、相手を討ち滅ぼす。それこそが求められるべき戦果である。


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