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 一応奪われた領土は奪い返し、そのことについて王国の兵は報告に向かう。もちろん報告先はこの国の王、賢哉に命を下した王様へである。


「……それは真か?」

「はい。流石に奪われた範囲、距離の関係上時間はかかりましたが……一日、正確には様子見も含め三日ほどで侵略された土地を取り返し、またそこにいた隣国の兵士たちを無力化。私たちは戦闘には参加しておりません。いえ、彼も戦闘そのものはおこなっていないと……」

「戦闘は行っていない、か。ではどうしたのだ?」

「魔法により各地にいた兵士達を攻撃し、麻痺させ戦闘能力を奪っておりました。もちろんこれは相手を傷つける意図がないからこその結果でしょう。彼に彼らを殺すつもりがあれば、簡単に全員を殺すことができたかと思います」

「…………そうか」


 賢哉のことに関しては既にフェリシアの方からいろいろと話を聞いている。しかし、王としてはそのすべてをそのまま受け入れることはできない。一応フェリシアの性格、人格を考えれば嘘を言うはずもないし、だます理由もないわけであるが、やはりその内容は信じがたいしフェリシアの賢哉への感情は恋する乙女的なあれもないわけではない。過大に物事を話し賢哉の評価を上げようとしているのではないか、そう思う所もないわけではない。ゆえに今回の行動に王国の兵士をつけ、彼らを目と耳として賢哉の実際の能力を届けさせたわけである。

 そしてわかったことは、フェリシアの言っていることは嘘でない可能性が非常に高いということ。また、フェリシアの知る限りの賢哉の能力よりも賢哉の能力は高い可能性があること。仮に賢哉と戦うことを考慮する場合、普通に戦うことはまず不可能であること。少なくとも隣国の兵でも勝ち目はないし、この国の兵でも勝ち目はない。そして賢哉は魔法使いだと言うことだが、王の知る限りの魔法とは明らかに種類、性質の違う別の魔法を使うということ。

 そもそも賢哉の扱う魔法についての話を魔法使いにしてみたところ、ありえない、頭がおかしいという話になるレベルの代物である。この世界で魔法は戦闘、攻撃などに大きくは発展しておらず、そもそも簡単に扱えるものではない。魔法使いの兵士という者が全く育っておらず、才能で使える者もそう多くはないなど、色々と理由があるが、根本的に魔法はその出力、使用用途の関係上利用価値がそれほど大きくないというのもある。それこそ賢哉が賢者の才を持ち、高い魔法の力を持ってそのうえ異世界での魔法の技術など、賢哉独自の扱い方で行っているからこその魔法であり、仮に賢哉と同じことをするのであればよほどの高い才と賢哉から直接魔法を学ばなければいかず、また賢哉の魔法のすべてを学ぶことはできないだろうとも。これに関しては開拓領地に実例があったりする。

 ちなみに、この世界の人間の魔法で賢哉と同じことをやろうとしても不可能だが、どの程度までならできるのかというと……とても高い才能を持つ人間が、しっかりとした準備を時間をかけて行い、対象の規模を現在の百分の一にして、そのうえで使用時間がとても短くていいのならば、なんとかできなくはないかもしれない、といった具合である。そもそも魔法がそう簡単に戦争に転用できるのならば既に魔法が戦争に使われている。兵士などに魔法使いの力が入っておらず、また開拓などにも全く使われていない点でこの世界の魔法使いの魔法のレベルがなんとなく想像できるだろう。


「……あの娘を人質にするか? いや、ダメだな。そういったことをすればあの者は敵に回ろう。むしろ誠実に、きちんとした対応をする方がいいか。そもそも敵に回してはいけない存在であろう。喧嘩を売るようなやり口はいかぬか」


 賢哉の力は異常であり、あまりにも強すぎる。王としてはどう考えても不穏分子であり、しかし使えれば使いできるだけ利益を得たい。であればどうすればいいか、と考えるとフェリシアを利用することを考える。だがすぐに思い直す。仮にフェリシアを人質に取ったところで、賢哉はその人質を容易に奪い返すことができるし、逆に人質を取ることもできる。それこそ王国の全土を一瞬で人質とすることができる……それくらいに賢哉の魔法は恐ろしく以上で強い。

 そもそも別に敵というわけではない。余所の国に行かれれば困るが、現状フェリシアとともにおり、そのフェリシアと一緒になることを王に認めてほしい……とフェリシアの方から提案してきた状況である。それを認めれば少なくともこの国から離れることはないだろう。フェリシアのように、普通に対応すれば相手も普通に対応してくる。同じ人間であるのだから変に敵対的な行動をとらずに友好的な行動をとれば敵に回るようなことにはならないだろう。

 ちなみに賢哉は王城から出て元アルヘーレンの領地に向かう前に、フェリシアとフェリシアの母に対して守りの魔法をかけている。フェリシアの父親は賢哉に続いて王城を出て元アルヘーレンの領地の方に向かっているので必要はない。これに関しては人質の安全を守るため、警戒と監視の性質のある魔法だ。もちろん守護の性質もあり、何か二人に害する意図があればその情報が賢哉へと伝わることとなっている。王に対して完璧に信頼はしていない、と言った感じだ。もし仮に二人、あるいはどちらかに手を出して何かしようとしていれば賢哉の方から最低でも警告の何かがあったことだろう。そういう点では王が思い直したのはよかったかもしれない。


「ところで、捕らえた者たちの扱いはどうなっている?」

「現状は捕虜として扱っています……彼が食料も場所も簡単に用意できるようなので」

「そうか、そういえば開拓領地の発展を担っていたのだったか……そのような建築や農業もできるのか」

「畑からすくすくと食べられる野菜が育つさまは異常でした……」

「…………それは大丈夫なのか?」


 流石に賢哉の魔法の異常さゆえに、王も少し心配になる。賢哉の作った野菜、それを食料として安全なのか。いきなり成長しすぐに食べられるくらいにまで育った野菜が果たして普通の野菜と同じに食べられるものか。不安になっても仕方がないだろう。


「ふむ……あちらの動きはどうなっている?」

「まだわかりません。そもそも状況の変化が唐突すぎるうえに、その規模があり得ないくらいのものですから向こうも情報を得るのが大変でしょう」

「確かにこちらに送り込んだ兵がすべていなくなったのだからしかたあるまい。奪ったと思った領土が僅か一日で奪い返される……悪夢としか言えんな。予算もかけ、費やした物資に積み上げた屍の数を考えれば信じたくなくなるだろう」


 賢哉の行動の結果侵略してきた隣国に与えた影響、被害は計り知れない。向こうは領土を奪うのにしっかりとした準備をしてきたのに、賢哉はたった一人でそれを奪い返したのだから。向こうが奪うのにかけた物資や人員を考えれば賢哉一人で取り返されるのは反則と言っていい。こちらは被害なしで奪い返した……それどころか兵を削り、捕虜として後々に利用される。殺されていたとしても別の形で大きく損をすることになるだろう。

 そんな状況ゆえに今後どうするか、隣国もまだ決められない。しかし、このままではいられないだろう。少なくとも、何か行動を起こしそして結果として帰ってこなければ……彼らはあきらめることを選択することもできない。ゆえに、また一波乱あることだろう。そう予測された。



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