表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/190

92



"隣国の兵士たちに告ぐ"


「あん?」


 元アルヘーレンの領地に攻め込み、その領土を奪った隣国の兵士達。その兵士たちは奪った領土に滞在し、取り返そうとする王国の兵士たちを押し返す役目がある。彼らとしてもずっとここにいるつもりはないわけであるが、やはり元アルヘーレンの領地のすべてを奪うまではなかなか戻る選択を取りづらい。幸い……と言えるかどうかはわからないが、入れ替えは行われているし必要な物資はしっかりと運ばれているため、少なくとも戦い続けることはできる。まあ、このまま戦い続けてもお互い消耗するだけであり、どちらかがどうしようもなくなるまで戦いが続くということはないだろう。これ以上は戦えない、厳しい、あるいは戦争状態を続けられなくなることで交渉に入り、その結果返すか正式に奪った領地を得ることができるか、という話になる。結果としてはこの戦いの状況に見合わないが、そんなことを戦争に参加した下の人間が考えたところで仕方のない話である。

 そんな彼らであるが、唐突に彼らは何者かの声を聴く。それはどこから声が届いているのかわからないが、元アルヘーレンの奪われた領地にいた全ての兵士たちに聞こえている。


"そちらが奪った領地を大人しくこちらに返すこと。それが果たされない場合、そちらの兵士達の戦力を奪う。今のうちに大人しくそちらの国へと戻るのであればこちらも手を出さないが、そうせずにこの地に残るようであれば、こちらも容赦はしない。殺すようなことはせずとも、戦闘は不可能なように追い込むだろう"


「……何言ってんだこいつ?」

「頭がおかしいんじゃねえの?」

「って言うか誰だよお前」


 唐突に聞こえてきた声に彼らがかける言葉はなかなか辛辣な物である。まあ、そう言われても仕方のないようなものだろう。いきなりだし、奪った領土を何の大家もなく返せと言われても困る。それに容赦はしない、とか殺さずに戦闘不能にする、戦力を奪うとか言葉は述べているが、それができるなどとは到底思えない。仮に戦いになった場合、お互い消耗があることは間違いない。それを全ての戦力を大人しくさせる、などということは不可能だろう。それは今までの戦いの結果が物語っているわけである。

 そうして声は聞こえなくなったわけであるが、実に下らない心理的な駆け引きだ、なんだ大言壮語かとその声を聴いた彼らは特に気にした様子もなく、己の仕事を行っていく。


「ん?」


 カッ、と空が光る。それが兵士たちに落ちた。


「うぎゃあああああああっ!?」

「ぎえええええええええっ!?」

「びゃああああああああっ!?」


 すべての兵士というわけではない。いくら賢哉と言えども領地のすべてをいきなり網羅し移動することはできない。徐々に奪われた場所の各場所に赴き、そこにいる兵士たちを処理して、最終的には全部の兵士たちを処理するつもりである。ちなみにかれらに落ちた何か、空で光を放ったそれは雷である。もちろん通常の雷であれば一撃で死に至る危険があるのだが、雷は雷でも賢哉の魔法による雷であるため死ぬようなことはない。電撃が走り、それにより痺れさせる、特に金属鎧を着ていればその影響力も大きい。まあ、魔法だからそこまで装備は重要かも不明だが。

 ともかく、雷によって兵士たちは行動不能になる。そんな兵士たちの前に賢哉は進み出た。


「だから戻れって言ったのにな」

「普通は本当に行動不能にされるなんて思わないものですよ……」

「まあ、それはそうだが……っと、ちゃんと処理を頼む」

「わかっています。殺してはいけない、捕まえて捕虜に、ですね」

「ああ。まあ、食料の問題も捕虜にした兵士を運ぶ手間も捕虜を閉じ込めておく場所の問題もあるから簡単な話ではないだろうけど」

「いえ、これだけの捕虜が手に入るのならば……戦争が続けられるかは不明ですが、かなり有利に話を進められる可能性はあります。それだけでも十分功は大きい物ともいますよ」


 捕虜を確保するだけでなく、彼らの着ている装備も無傷で手に入る。仮に装備品としては使えずとも金属は再加工も容易であるため利用方法は多い。問題があるとすれば捕虜の数が多すぎて彼らを食わせることができるかだが、捕虜の扱いに関しては割と雑に扱われることも多い。高官でもいれば彼らは扱いは変わってくるだろうが、雑兵は捕虜を返す場合の金額も安く、その支払いが行われない可能性もある。場合によっては奴隷として売り払った方がよほどいい、ということになりかねない。

 そんな感じの話し合いを賢哉と王国の兵士が話しているのだが、賢哉としては今後の戦い次第だろう、と思っている。仮に戦争が今後も行われるのであれば、そこに賢哉が出るのであれば……今回みたいな命は奪わない、みたいな容赦のある戦いにはならない。それこそ本気で相手を殲滅するつもりでかかる。そうなれば、まだ生き残っている兵士を回収しようと動くだろうと思っている。ゆえに生かして残したほうが都合がいいだろう。誰にとって都合がいいかは難しいところだが。

 と、色々と考えがあるわけだが、賢哉の魔法によってあっさりと奪われた領土が奪還された。その魔法の力に王国の兵士、ついてきた各貴族の兵士たちは驚き、とんでもないと話し合う。もしこの場に魔法使いとしての知識、経験、能力の高い物がいればその出鱈目さにあんな魔法使いがいてたまるかと叫ばれていたかもしれないが……それはこの場にいる者が知り得ることではないだろう。

 なお、この時戦いに参加できなかった兵士達から文句を言われたものの、彼らは自分で参加しないと意思表示したのだからと賢哉は言い、王国の兵士達も賢哉の意見に同調、そもそも王命を受けている賢哉の意見を無視している時点で彼らに文句を言うことはできないのだからと文句を封殺した。まあ、恨まれる可能性はあるが、賢哉の強さであればどうとでも対処できるので特に問題はないと言える。いや、問題ばかりな気もするが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ