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「ケンヤ様」

「フェリシア様のご紹介に与りました。加倉井賢哉です」

「…………ふむ。其方はこの国の者ではなかろう」


 フェリシアを含め、この場にいる他の人物とは賢哉は明らかに容姿が違う。世界の違い、根本的な人種の違いというものもあるが、基本的に賢哉の出身である世界の出身の国によくいる人間の特長を持つ賢哉はこの国の多くの人間とは違う。魔族や亜人とももちろん違い、人間だが明らかに別の国……いや、それ以上のどこか、別の大陸出身の存在ではないかと思われるくらいに見た目は違う。

 とはいえ、この世界においては魔族や亜人の類もいる以上、人種の違い特徴の違いは有れども同じ人間である以上差別はほぼないし、賢哉自身の見た目はそこまで悪いというわけではないだろう。一般的な美的感覚から格好いい、美人であるとは流石に言えるくらいではないが、決して見目が悪いというわけではない。まあ、王族や貴族など基本的には美人や格好いい人間が揃うところではどうしても見劣りはするのだが。


「はい。少々事情があり、開拓領地の方に流れてきました。フェリシア様との出会いはその時に」

「………………」


 王、そしてフェリシアの父母からの眼はどことなく懐疑的なものである。それもそうだろう。フェリシアの父母に関しては娘の傍にいるよくわからないどこの誰とも知れぬ人間であり、王からすれば明らかに自国の人間ではない異国民だ。誰がどう見ても怪しいとしか言えない。そのうえ開拓領地に送られたフェリシア……立場を失った貴族の娘に取り入って副領主という立場を持った人間だ。誰がどう見てもどう考えても色々な意味で怪しい。

 とはいえ、怪しくはあるが、決して賢哉自身が何かそういったこの国における問題行動をしたかと言えば……一応亜人や魔族を開拓領地に住まわせる、ということをしているが、大きく他領に対して問題行為を働いたとか、そういうことは……少々奴隷の購入などがあったり、商人を通じて他領からの人の引き抜きがあったり、最近ではアルヘーレンからの人民の流入など…………と、深く考えればいろいろと問題のある行為ではないかと思われることをやっている気もするが、賢哉自身は……決してろくでもないことはやっていない、はずだ。


「事情とは?」

「……少々話すのは難しいのですが、私は魔法を使える人間でして、その関係で少々一悶着があり、それにより此方に送られてしまったのです。詳しく言ってしまうとその情報の真偽を確かめるの難しく、信じられないようなことも多々あるので、詳しくは今はまだ話せません」

「……そのようなことでは信じるのは難しいな」

「そう言われても仕方のないことでしょう」


 賢哉としても、自分の怪しさは理解していないわけではない。だが、正直に全部話しても逆に信じられないようなことばかりで信用されそうにない、というのもある。ゆえに詳しく話すつもりはない。もちろん自分の知り合いや関係者には多少事情を話すことくらいはかまわない。賢哉自身この世界に送られ元の世界に戻ることを考えるのは放棄せざるを得ない状況であり、この世界で過ごすことになるだろうと思っているため、自分の事情を知っている者が多ければそのほうが都合がいいだろうという思いはある。とはいえ、この場で話すのはやはり違う、と思うところである。


「ですが、それでも信用してもらえなければ、私も自身の力を振るえません」

「……力?」

「はい。フェリシア様の送られた開拓領地の発展は他の開拓領地に比べ、目覚ましい発展を遂げているものと理解されていると思います。フェリシア様に領主としての才覚がない、とは言いません。しかし、いくらフェリシア様に素晴らしい領地経営の才があったとしても、現状ほどの発展は不可能でしょう。今まで領地を治め、経営してきたそちらの方々でも、同じような発展はできていない。ましてやフェリシア様はあの方々よりも開拓領地へと持ち込まれた資金、人材の数は少ない」

「…………そうなのか?」

「確かにその者の言うことは間違っていません。人材と資金は私と妻が多く、娘にはあまり持たせてはいませんでした」

「ふむ……」

「フェリシア様との出会いは、そもそも彼女が危機にあった時に私が救出した時です。寄る辺もなく、流れ着いた私がフェリシア様を救け、その功と魔法の力から私を取り立てていただきました。私自身、いきなりどことも知れぬ地に来てしまい、誰の庇護も、何の後ろ盾もなく彷徨うのは厳しいと考えていました。それゆえに彼女を救ったこと、その恩と私の力を示し、その力を友好的に利用することで彼女に従うこととなったのです」


 実際には賢哉の方が打算ありきで助け、その恩から雇ってほしいとした、という感じではある。とはいえ、賢哉の力が開拓領地、そしてフェリシアたちの助けになったことは事実だろう。実際に悪い選択肢ではなかったと言える。まあ、仮にダメならばダメでも賢哉はどこか落ち着けるところまで彷徨い、そこでまた力を見せた物と思われるが。


「魔法の力か。魔法使いなのか?」

「はい。開拓領地においては簡素ながらも建物の建築を行ったり、水路を作り上げたり、領地の守りを担う結界をはったり、各所への移動で飛行したりなどしておりました」

「…………そのような魔法があるのか」


 流石に賢哉の発言に王は驚く……というよりは懐疑的である。魔法使いの使う魔法とは本来そこまで扱いやすいものではない。そもそも、簡単に魔法を使う賢哉の存在がいろいろな意味で異常であり、この世界ではもっと手間のかかるものなのである。賢哉だけは他の魔法使いとは違い、別世界の理を知り、また賢者の才という特殊な才能を持っているがゆえにそのような形で扱うことができているわけだ。つまり賢哉の扱う魔法とはこの世界の一般的な魔法とは全く違うものであり、ゆえに賢哉の話す魔法の内容を信じることは難しい。それこそ実際に自分の目で見なければ。


「この場で何かやって見せろ、というのならば可能です。ですが、その場被害がでることもありますし、どのような魔法を使えばいいのかと悩むことになりますので、実演を望むのであれば外でやるのがよろしいかと思いますが」

「……………………」


 王は少しだけ、一瞬、フェリシアの方に視線を向ける。王としては賢哉の言うことを全て信じることは難しい……が、そもそも賢哉のことを言いだしたのはフェリシアなのである。アルヘーレンの治めていた領地への侵略、それをどうにかする秘策として。つまり、フェリシアはそれだけ賢哉を信じることができるということでもある。でなければそのようなことを言いだすことはできないだろう。仮に王を謀っているというのならばせっかく拾った命を失いかねない。それに、賢哉の言う通り実演をしろと言われできなければ嘘だとわかる。いや、そもそも騙そうとしたところでいずれバレるのだから嘘をつく意味はないだろう。


「いや、よい。アルヘーレンの娘がつまらぬ嘘でこちらを騙そうとしてくるとは思わぬ」

「では」

「その力、信じてみようではないか」


 そういう形でアルヘーレンの領地、その侵略への抵抗、奪還への話し合いが始まった。


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