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「それで、其方たちでうまくどうにかできないか?」

「無茶を言います。いくら私たちでも、大きく状況が変わった今かつてのようには無理でしょう。そもそも防衛だけをしていればいいならばともかく、既に領地の一部が奪われている。その奪還までを考えるならとても難しくなります」

「やはりそうか……」


 いくらアルヘーレンの家の人間として今まで防衛を担ってきたとはいえ、流石に現状をどうにかできるほど簡単な話ではない。そもそも今まではただ防衛を何とかすればいいだけであり、今回みたいに奪われた場所を奪い返すことを考慮しなくてよく、またちゃんとした領地としての力、兵士や装備があった。だが今ではその兵士も他の領地の人間を借りているような状態、そして今はアルヘーレンの領地というわけでもなく、また領民も出て行って戻ってきていない。領地の力自体が衰えた中、ただアルヘーレンの人間を指揮官に戻す、土地を治める立場に戻すだけで取り返すことができると思うのならばそれは流石に考えなしというしかない。

 そのあたりは王様も一応分かっている。そもそもフェリシアの父親だけではなく、フェリシアの祖父のようなかつて経験を積んだ人間からも話をして聞いている。今ここにいないのは元アルヘーレンの領地に行っているからだが、フェリシアの祖父でもまとめきれないし守るのも難しい。これは単純に各領地の兵士をまとめ上げるということが難しいからでもある。

 アルヘーレンの領地にいた兵士だけならば、相応に守ってきた経験と戦いに備えた装備さえあればちゃんとできていたわけだが、今ではその力が衰え、他領の兵士が来ている状態。数だけでいえばアルヘーレンだけの時とは違うのだが、問題はその兵士にまとまりがないこと。たとえ相応に鍛え戦闘能力がある兵士であっても、指揮官に従わず自分勝手な行動をするようならば戦闘への対応能力は下がる。そもそも各領地の兵士がアルヘーレンの領主、アルヘーレンの家の人間を指揮官として言うことを聞くかというと、彼らには彼らの意見、意思、そして主がいることもあり、そちらの命令の方を重視する。もちろん今回のことは王国にとって大きな問題であるため相応にそこまで自分勝手なことはしないまでも、かといってまったく自分たちの都合を通さないかというとそういうわけでもなく。

 そういうこともあって確実にうまくいかないだろうということがわかってしまう。国の一大事なのだから全員一致で協力すればいいのだが、そういかないのが大人の都合、貴族の都合……まあ、自分の利益を優先してしまう結果というか、そういうことなのである。そういったことの調整をするのが偉い人なわけだが、なかなかうまくいかないのが現実だ。


「何かいい案はないか?」

「そう簡単に思いつくのであれば、私たちでなくとも思いつきます」

「それはわかっている。こちらに軍師がいないわけでもない……防衛だけならばまだなんとでもできるかもしれないが、奪い返すとなると本格的な戦争に発展しかねない……そもそも取り返すこと自体が難しいというのもあるがな」

「攻めてきたのは向こう、ですが、そういった事情は考慮されませんでしょう。難しいことです……」


 王国に攻めてきたのは隣国で奪ったのも隣国、それを取り返すことはそもそも元々自分の側に存在していたものを取り返すだけの話なのだが、奪った向こうからすれば奪った物が取られるのだから激しく抵抗する。そもそも悪いのは向こうであるが、かといって侵略に費やした物資、戦いで失った兵など、向こうにも痛打はある。その痛打を考慮せずただ取り返すのは無理だ。少なくとも交渉で返して貰うのは厳しいし、返してもらうならば相応の対価がいる。一方的に攻めてきて奪ったのは向こうだとしても、そうなってしまう。実に嫌な話である。


「王」

「む…………そなたは娘の……」

「フェリシア・アルヘーレンです」

「うむ。以前あった時よりも大きく育ったものだ。其方の姉に……いや、すまぬ。これは失言であった」

「…………いえ。あのことは姉が悪いことに変わりはありません。原因はいろいろあったとしても、あの行動をとったのは姉ですから」


 かつてのフェリシアの姉が起こした事件。そのことに関しては王も色々と思うところはある。もちろんアルヘーレンの家の人間としても思うところはあるが、結局のところ悪いのはフェリシアの姉……一番悪いのは、彼女である。もちろん他にもいろいろと原因となる存在はいるだろう。しかし、やはりこういうことは、実際に犯罪を犯したほうが悪い、悪事を働いた方が悪いわけで。まあ、それを追求したところで仕方のない話だ。既に当人たちはいろいろとその件を切っ掛けに罰を受けているわけであるし、その関係者も巻き込まれいろいろとあった。起きた出来事は変えられない。終わった出来事は戻らない。既に解決してしまった出来事であるためこれ以上蒸し返す必要もないだろう。

 と、そういった話に発展しかねない面倒な事柄に王が触れたが、実際フェリシアは彼女の姉に似てきて……と、そんな話になると相当ずれこむため、元の話、つまりは元アルヘーレンの領地の侵略の話に戻る。いや、そもそもフェリシアが話しかけたのはどういうことかというと、そこにつながる話のはずだ。


「……おお、その話はまたいずれ、落ち着いてからにしよう。して……其方が話しかけてきたのは、何か妙案があるから、かな?」

「妙案というほどのものではありませんが、私に今回のことを解決する秘策があります」

「なんと」

「……フェリシア、一体そはどういうことなんだ?」

「どういうことなのかしら?」

「……其方たちも知らぬのか。いや、今まで離れ離れであった以上知っているはずもない、か。秘策とは何か。話してもらえるか?」


 考えられることは開拓領地のこと。特に亜人や魔族などの存在は大きいだろう。しかし、それらを兵士として使う……とかは流石にあり得ないと思われる。彼らが人間のために活動するなど、いくら人間に従っている状態でも流石にあり得ない。それだけ人と亜人や魔族には大きな溝がある。とはいえ、それらの解決をフェリシアの治める開拓領地は行ってきたからこそ彼らとのつながりがあるわけなのだが。


「その前に、一人紹介したい者がいます」

「……ふむ」

「私の護衛を務め、開拓領地を治める手伝い……いえ、私と一緒に副領主という立場で開拓領地の統治と発展を行っている方です」

「…………ほう」

「………………」

「………………」


 秘策。それは賢哉の存在。賢者の才を持つ、この世界の存在ではない異世界の勇者との戦いを経験した賢者の魔法使い。実際、賢哉がしてきたことを考えれば戦争に勝つことは不可能ではないだろう。フェリシアはそのすべてを見たわけではないが、今までの成果がそれを物語っている。その秘策、最大の手札である賢哉を、この場、王に対して切ったのである。



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