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「お父様、お母様!」
「フェリシア!」
「……今までよく頑張ったな」
親子の感動の再会……というには場所的に王城であるためか、どうにも妙な感じがある。しかし、まあこれまで四年間離れていた愛しい家族と一同に会するのである。相応にいろいろと感情はあるだろう。とはいえ、場所が場所なのであまりそういうこともしていられない。そもそも呼ばれた理由の問題もある。
「今までどうしていたのかしら?」
「フェリシアの方にはあまり人を連れて行かせることはできなかった。しかし、私たちの方はあまり開拓領地の発展は成功したとは言えないが、フェリシアの方は噂で聞くほどだ……フェルミットからの支援もフェリシアからのものだろう?」
「…………こちらもこちらで色々とあったのです。お父様とお母様の方では問題はありませんでしたか?」
「ないはずがない」
「そうね……なんとか皆で生きるので精いっぱいだったわ。でも、なんとかやっていけていたけど」
開拓領地での生活、発展はそもそも簡単なことではない。フェリシアの開拓領地のような大きな発展をしたり、まともに領地を治めるということ自体ほとんどの場合ありえないと言ってもいいくらいである。それでもフェリシアの父母は部下とお金の力があったため、開拓領地としてある程度の成長や改善はできた。もっとも、魔法による力押しができるフェリシアの所よりは大したものではないだろう。フェリシアが賢哉という存在を自陣営に取り込めたのはとても大きなアドバンテージだったと言える。
その賢哉であるが、賢哉も王城に来ている。そもそも開拓領地から王城に来るまでの移動、その間の護衛、王城でも一応護衛をつけることはできる。本来王城は安全な場所であり、護衛をつける必要性はないともいえるのだが、基本的に護衛は単に護衛としての役目以外にも色々とあるのでつけることが可能である。まあ護衛が持っている武器などがあればとりあげられるのだが。流石に王城には王族もいるのでそちらを危険にさらすわけにもいかない。それで守ることができるのか、という疑問もあるが、そこは個人の武勇でどうにかうるのだろう……いや、さすがにそれは無理を言いすぎか。まあ、武器を取り上げると言っても、それこそ本当に王族に合う場とかであり、目に見えてわかる武器だけだ。すぐに取り出せる位置にないものは取り上げられない……というかそこまで調べられないし、手間をかけるのもというのもあるだろう。そもそもそこに武器があってそれを使い襲おうとする場合どうしても手間も時間もかかるわけで。ゆえにそこまで危険視はされていない……のかもしれない。まあ、それらは賢哉やフェリシアが気にすることでもないが。
「……ところで、フェリシアがつれてきている彼は?」
「護衛の方かしら? それにしては…………そもそも開拓領地の人? この国の人とは思えないのだけど」
「…………そうですね。この方はケンヤ様です。私が開拓領地に行く際に起きた危機から助けてくれた、開拓領地の発展に多大な貢献をしてくれた、私の補佐に近い役割をしてくれている方です」
「………………ふむ」
「…………あら」
フェリシアの父母は賢哉のことを語るフェリシアの表情からどういうことか理解したのか、表情を変える。父親の方は少し不機嫌そうに、母親の方は面白いものを見たように。
「…………確かフェリシアにはアミルがついていなかったか?」
「はい。彼女は開拓領地の方での仕事を任せています。私とケンヤ様がいなくなると仕事が滞るので」
「……それは、たしかにそう、だな……上がいなくなると困るか」
「フェリシアと……その人が開拓領地のトップなのね。そこまで信頼しているの?」
「もちろん……とても信頼していますよ」
「そうなの」
賢哉はそんなふうに話すアルヘーレンの一家の様子を眺めるばかりである。まあ、父母と娘の会話に割って入るのは良くないだろう。特にこの三人は今回離れ離れだったのが集まることができた、感動の再会なのだからそこに割って入るのは空気が読めていない……まあ、フェリシアが賢哉のことを話した時点でそんな空気でもないような気もするが。
しかし、そんな風に家族の会話もずっと続けられるわけではない。そもそも王城に集まったのはここに呼びつけられたから。謁見の準備さえ整えば、ここに全員が集まっているわけなのだからすぐに謁見することになるわけである。
王城、謁見の間。アルヘーレンの家族を呼び出したのは儀式的な意味合いのある物ではなく、どちらかというと個人的なものに近い。元アルヘーレンの領地の現状を解消するための呼び出しであり、それゆえに下手に話が広がると外聞きが悪い。まあ、今更ともいえるのだが。そういうことでここには関係者、ある程度事情を知る者達しかいない。そういう意味ではあまり仰々しくやる必要はないわけであるが、一応形はいる。
そういうことでアルヘーレンの一家、およびついてきた騎士や賢哉などの護衛も謁見の間に入り、王に対し臣下の礼をしている。
「楽にしてよい」
「はっ」
王の言葉をきっかけに普段通りに……とはいっても、王の前なのでそれほど気を楽にできるわけではないが。
「久しいな」
「ええ」
王とフェリシアの父母は知人である。いや、そもそもフェリシアの姉が王子との婚約をしていたわけであるし、この国の公爵であり国の要所を防衛管理している貴族なのだからむしろ知り合いでない方がおかしい。しかし、四年前の事態もあり、もう一度会って話す、という機会はなく、王側は元々沙汰を出す側でありそのためまともに話すことはできない。罰を下す以上下手に相手側を心配したりもできないわけで、色々と王にも思うところはあっただろう。
「積もる話がないわけではない。しかし、今はアルヘーレン……いや、今では違うが其方の治めていた元アルヘーレンの領地の侵略され奪われた領土の奪取の方が重要なことになる。それに其方たちを呼び出したのは本来予定される期限とはまた別、本来よりも早い呼び出しになる。これで期限が縮められたというわけではなく、ただの呼び出しに過ぎないがいろいろと邪推するものもいよう。ゆえに無駄話はせず、必要なことだけを詰めよう」
今回の呼び出しは開拓領地に向かったアルヘーレンの家の人間としては本来あり得ないもの。それゆえに色々とその意味合いをこのことを知った貴族たちが変に考えるかもしれない。そしてその時どんな行動をするのか予想もつかないわけである。ゆえに、あまり無駄に話すことはできない。たとえそれがかつての友人で会っても。まあ、そもそもプライベートでの話ではないから仕方がないのだが。
「わかりました」
「うむ、ではまず現状から話そう。そもそも……」
そうして王は現在の元アルヘーレンの領地の状況、隣国との争いの状態などについて話す。もっとも、これらに関しては下手をすればアルヘーレンの側の方が知っていることもある。開拓領地に来た人民から伝わる現地の情報もあるし、フェルミット商会など、フェリシアやその父母が全く情報収集ができないわけでもない。ゆえに大体は知っていることだった。もっとも、それは確認の意味も込めてだったのかもしれないが。




