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開拓領地がある程度平和裏に収まりつつある中、隣国は再度元アルヘーレン領地へと侵略を再開した。とはいえ、さすがに彼の地を治める貴族もそこまで馬鹿ではなかったか、あるいはこの王国自体が相応に隣国の危険を理解していたか、その侵略をなんとか食い止めることはできた。もっとも、奪われた土地を奪い返すとまではいかなかったが。
王国としても自分の国の土地が奪われるのは大問題であると考えている。それゆえに、その領地の貴族の手腕に不安を抱いた王国が各地の貴族に依頼し兵を出させたり、王国自体が持っている兵士を出したりと国防の動きはしっかりとしている。そういう点では今の元アルヘーレンの領地を治める貴族はその手腕が信頼されていない状態であると言え、あまりよろしくないだろう。とはいえ、隣国の侵略に対抗するためにその行いは確実に必須である。それゆえに受け入れざるを得なかったともいえる。
とはいえ、侵略自体は守れたが周辺に兵士が増えた……それもその地にもともといる兵士ではなく、外部の人間ばかり。とうぜん余所者が増えれば今まで起きなかった問題も起きるようになるし、そもそも土地を奪われた状態の領地生産性の問題もある。いや、領地自体の生産性……というか、それまでの税の関係もあって領地そのものにはそこまで余裕があるとは言えないだろう。そういう点では領地自体が立ち行かなくなる危険もあるかもしれない。
そこでもまた王国は王国側から支援を行ったり、そのほか領地の争奪に関わった貴族に必要な物資の提供をさせたりとさせている。そもそも兵士も出しているのに物資も出さなければいけないなど、普通は渋る貴族もいるだろう。実際渋る貴族はそれなりに多い。とはいえ、今回のことでしっかりと行動していれば、王国側に自分の覚えがよくなる、と考えられるので、派閥的な立ち位置の問題や自分の懐事情、領地の余裕などの関係もあって出す貴族はそれなりにいた。
それらの事情は別に貴族だけに限らず、それなりに力のある商会も必要な費用を貸し付けたり物資の運搬を行ったりしている。もちろんその中にはフェルミット商会も存在していた。
「結構大変なんだな」
「まあ、国の一大事ですからね……」
「やっぱり領地を奪われるのは拙いか」
「当然です。一部だけでも奪われた時点で相当な不祥事と言いますか……特に治めていた貴族とその派閥にとっては結構大きな傷になるでしょうね」
出費に兵士の問題と、その地を治めていた貴族にとってはかなりの醜聞だろう。下手をすればアルヘーレンの家の者にも飛び火しかねないが、現状彼の地ではアルヘーレンの影響力はほぼない状況であるため今のところは大丈夫、と行った所か。とはいえ、現状その地を治める貴族と比べればそこまで問題にはならないものの、今回の騒動が大きくなっていけば問題視する者も出てくるだろう。
「ところで、開拓領地はいいのか?」
「それは大丈夫です」
「開拓領地は本来正式な領地ではありませんし、お嬢様は厳密には今は貴族とはいいがたい状況です。そもそも開拓領地は本来兵士や物資、必要な資金を贈るような余裕というものはありません。それこそ開拓領地に頼るようなことになれば末期ともいえる話になりますね」
「…………ならこっちは特になにもしなくていいのか」
何もしなくていい、というと流石に語弊が出てくるかもしれないが基本的に開拓領地は無理に動かなくてもいい。賢哉たちのいる所では結構な余裕があるが、それを見せる必要性もないだろう。
「どう思う?」
「まあ、確かに手を貸す必要性はないと思いますが……」
「でも、アルヘーレンの人間としては手を貸したい気持ちはありますね」
「……ですが、要請もなしにこちらから人や物資を送るわけにもいきません。私もお嬢様と同じで手を貸したい気持ちはありますが、できることとできないこと、やっていいこととやってはいけないことがあるものです」
「問題となるのは難民がこちらに来ることかもしれませんね……むしろそういう面では向こうにいられない人間を受け入れる受け皿となっていることであちらの手助けをしているともいえます」
「それはそれでこっちでは大問題だけどな」
開拓領地でも、こちらはかなりまだ余裕がある方である。それでも結構な難事となっている元アルヘーレンの領地から来る人民。こちらで結構大変ならば、別の開拓領地、フェリシアの父母が治める開拓領地の方へ行った人民たちはどれほどの何時となり得るのか。
「…………あっちの開拓領地の状況はわかるか?」
「かなり厳しいことになってるみたいですね……」
「………………」
「………………」
ここの開拓領地を基準に考えてはいけない。しかし、それを知らない人間に理解しろというのも酷だろう。
「支援を頼めるか?」
「……はい、それくらいなら。とはいえ、あまり過剰にはできませんが」
「お願いします……」
「頼みますね」
「ええ」
別の開拓領地への支援……まあ、ここの開拓領地がそのまま支援を行うのではなく、アルバートを通してフェルミット商会からの支援となるわけだが。まあ、ここの開拓領地がフェルミット商会に売ったいろいろな恩……というほどでもないが、繋がり、関わりを尊重し、彼らもまた手を貸す、ということなのだろう。あるいはフェルミット商会が送り出したという形にした元領民たちのこともあったからか……いや、むしろあれはフェルミット商会は支援した側だろう。今までのこと、よりはこれからのこと、遠くない未来フェリシアが貴族へと返り咲いたとき、あるいは賢哉が上位の立場に本当の意味で立った時のことを見越しての支援、恩を売るという行為……なのかもしれない。




