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 元アルヘーレンの領地から脱してきたアルヘーレンの家の人間に従っていた領民。もちろんそれは全員がそのままそっくりアルヘーレンへの忠誠心があるというわけではない。今の元アルヘーレンの領地ではだめだと考えた者、家族を戦火から守るために抜け出てきた者、その理由は様々。そして訳ありの彼らが逃亡先として選べる場所として開拓領地であるアルヘーレンの家の家人間がいる場所が選ばれただけ、という話でもある。まあ、元々アルヘーレンの人間に従っていたからこそ、アルヘーレンが領主をやっているならば受け入れられやすいのではないかという打算もないわけではない。

 そういうことでフェリシアの治める開拓領地へとやってきた多くの元領民たち。その中のほんの一部になるが、フェリシアやアミルにとっては美緒ぼの絵ある物もいた。まあ、貴族という立場であるとはいえ、全く領民と関わらないというわけではない。フェリシアは立場上面倒な話はあるが、家の状況的には婿を迎える立場だったのではないか、と思うとやはり領民と面識があった方が後々都合がいいだろうとある程度知られていたところもあるだろう。まあ、結局のところアルヘーレンは分散し現在の状況になってしまっているわけであるが。

 そんな彼らだが、立場としては他の開拓領地に住む、開拓領地に来た人間たちと同じ、亜人や魔族などとも同じである。フェリシアたちと知り合いであるという人間が多いからと言って、その彼らを優遇することにはならない。これに関しては彼らは理解はしてくれているが、中には元々領民だった自分たちなのだから領主の家系だったフェリシアは優遇するべきでは、と考える人間がいなかったわけでもない。とはいえ、フェリシアも別に一人で開拓領地を治めているわけではなく、賢哉の存在もありそれは受け入れざるを得ないものとして受け入れた。まあ、そもそもそう思う人間の数が少なかったのでそこまで大きな問題でもない。

 とはいえ、人数が人数だ。元アルヘーレンの領地から逃げてきた人間と言っても、領地の全体が逃げたわけではない。そもそも、そう簡単に住んでいる領地を移動できるほど人間は身軽ではなく、また住む所も働くところも財貨も様々あるのを捨てて余所に行くなど普通は考えない。今回来た人間は侵略された場所に近いところに住む領民や、あるいは侵略された場所からなんとか脱してきた領民などである。彼らはそのままでいれば戦火に巻き込まれ家族や自分の命を失う危険もあるし、侵略してくる隣国に対応するためその近辺に駐留することになるだろう兵士という存在もまた彼らにとってはいろいろな意味で苦しい。場合によってはその兵士がその地にいる人間に乱暴を働くこともあり得る。あるいは貴族と関係のある人間がその権力を悪用する危険もないわけではない。そういう危険から逃れるため逃げてきた物もいるだろう。

 だが、まあ全体としてはそこまで多いというわけでもない……というのは元アルヘーレンの領地に対して。開拓領地の現状を思い起こせばわかるが、開拓領地はあってもせいぜい街が一つか二つ、と言ったくらいの広さである。日々拡張を続けているが、それでも街をもう一つ作るくらいの広さを簡単に用意することはできない。まあ前々から広げているのである程度はなんとかできるわけだが……そのある程度を元アルヘーレンの領地から逃げてきた人間だけで埋められてしまう、となるといろいろと言いたいことはあるだろう。


「資材が足りないな」

「土で仮住まいにする」

「木を採ってこりゃいいよな?」

「ああ、頼む」

「巡回は増やしますか?」

「……いや、規模的にきついな。そこは俺が魔法を使う」

「何かいるか?」

「仕事できるように何か……あった方がいいけど、今は厳しいかな。そういった話はあとで」

「食料は足りる?」

「…………そっちで用意できる分は?」

「…………あまり多くない。蓄えている分を出せばまだ」

「なら、少し頼む。必要になるならそれこそ魔法で何とかするしかないな……」


 どたばたと賢哉は忙しい。人数が増えればそれだけ必要な物資は増える。そして彼らが起こす面倒も出てきて領地全体が話探しくなることだろう。まあ、賢哉は直接的に彼らに提供する物で必要な物を差配するために動き回ることになっている。

 一方で新たに来た彼らをまとめるのはフェリシアとアミルの役割となっている。もちろんこれは場合によっては危険がありうるため、賢哉の方で守りの魔法に危険を監視する魔法など、様々な魔法をつけたうえで送り出している。流石に頼ることになったアルヘーレンの家の娘であるフェリシアに乱暴を働く不埒者はいない……と、思いたいが、色々と彼らの立場はアルヘーレンが起こした問題がきっかけにあるというのもあるし、フェリシア自身は美人で貴族の娘といういい立場の女性である。場所が開拓領地とは言え、現状では一応領主のような感じであり、もしかしたらうまくすれば……と、考える人間がいないとも思えない。まあ、賢哉の手がなくともアミルがそばにいるため簡単にそう危険なことにはならないと思うが、アミルとて完璧に守り切れるとは限らないだろう。ゆえに賢哉の方で守りをつけているわけである。


「あっちはあっちで大変だろうけど……」

「まあ、そうでしょうね……やっぱり誰かつけたほうがいいのでは?」

「ナルクがつくならいいが」

「ちょっとそれは……やはりそこは信用の問題でしょうか」

「そうだな。フェリシアはここで一番偉い立場だから、絶対に信用できる奴をつけないといけないし」


 そういう人間も探しておいた方がいいのでは、と賢哉は思う。しかし、色々な意味でフェリシアにつけられる人間は多くない。性別が女性で戦力として十分な能力を備え、そのうえ信頼できる人間……一番いいのはアミルが戦闘能力を持つことなのだが、さすがにそれは簡単ではないだろう。なお、亜人という部分で考えればエルフの中に信頼できる女性の戦闘能力を持つ人間がいないわけではない。この場合の問題は亜人という立場だろう。それさえなんとかなるならば彼らをつけるのでもいいのだが。


「まあ、状況が落ち着くまでは忙しくなるな……」

「一番忙しいのは副領主様ですからね……」


 魔法を使い様々な分野、場所で色々な形で活躍する賢哉はとても忙しい。まあ、その大半は魔法を使っているだけなので苦労するわけでもないのだが。


「これくらいならなんとでもな。とはいえ、今の状況で全部かってわかってるわけでもないから、もっと忙しくなる可能性もある」

「…………問題は解決しませんか?」

「根本的な部分をどうにかしないと難しいかもな……」


 元アルヘーレンの領地に隣国が攻めてきたこと。それが影響し今回のことが起きている。その根本的事象をどうにか解決しなければ、今後もまた流入する人民が増える可能性はある。いや、そもそもさらに侵略されればより国としても大変な事態になり得る。


「何とかしてほしいところだけど……」


 一度変わってしまったことをどうにかできるか、と言われればはっきり言って厳しいと言わざるを得ない。これからどうなるのか、少し不安になる賢哉である。


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