表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/190

78


「………………ここが魔族と獣人たちの村?」

「ああ」

「まったく……俺たちがそこまで役に立つとも思えんが」


 ネーシアとアルグレイスを連れて賢哉が共同の村へと来訪する。ネーシアとアルグレイスを連れてきた理由はやはり賢哉の立ち位置、人間と亜人の現状をネーシアとアルグレイスの方から語ってもらうためである。とはいえ、二人もそれには少々難色を示していたが。

 そもそも人間と亜人や魔族は仲が悪い……というのは過去の出来事からもわかることなのだが、亜人同士も別に仲がいいというわけではない。そもそもどの亜人も別の種族、別の村落、別の一族。人間同士ですら争い合い、同じ種の亜人同士ですら争い合うこともあるのだから、各亜人同士が仲がいいということは特にない。個人的なつながりのある者など、個人間で仲のいいものはいるかもしれないが、ここ暗黒領域ではそもそもお互い知り合う機会や家の行き来、村同士の行き来などほぼなく、そして獣人と魔族の村のように獲物や資源の取り合いになり争い合いお互いの仲が悪くなる、ということも珍しくはない。とはいえ、基本的に暗黒領域に亜人や魔族が散らばった結果、そういうケースはかなりのレアケースになる。そもそも開拓領地からその場所を目指して移動できる場所、というほど近くにある亜人や魔族の集落ばかりではないだろう。かなり遠くまで逃げ、暗黒領域の奥地で自分たちの住む場所を作っている亜人もいる。普通は暗黒領域に住む彼ら同士で出会うことはあまりない。住む場所や住み方、欲しがる物の違いもあることが多いわけであるし。今回はその中でも少々特殊なケースだったと言えるかもしれない。


「具体的に何を話せばいい?」

「…………まず、私たちと人間の関係。この地の現状とか」

「……ふむ、人間がいい存在であるという必要はないわけか」

「ま、そこは別に。彼らとの協力体制さえ作れれば人間に対して友好的という必要もないかな。最悪お互い利で取引をするだけでも……争い合うようなことにならなければ、まだなんとか」

「……彼らだけでの生存の困難を説けばいい」

「それは難しくないか? 俺たちもそうだが、別に人間の助けが必要だったとは言わん」

「本当に?」

「…………」


 ネーシアとアルグレイスの住んでいた場所、ドワーフやエルフは問題がなかったとは言えない状況だった。一応生き残るという点ではまだそれなりに持ちこたえることのできる状況ではあったが、時間を置けば置くほど徐々に全体の数を減らしていったことだろう。そもそも、今の彼ら自体ある程度の同種がまとまった結果とも言える。全てのエルフやドワーフが一堂に会し村を作り上げたというわけではなく、彼らもそれぞれ元々は別の場所にいた。家族単位、村単位、一族単位それぞれで独自の物だったが、自然と住む場所が少なく、そして暗黒領域の過酷な状況で数を減らした結果、今のある程度まとまった状況になった。

 エルフやドワーフはまだ直接的な戦争を起こすほどではないが、それでも暗黒領域に住む魔物や獣の脅威により、数を減らし、食料の確保も徐々にできなくなっていき、最終的には滅亡……ということになりかねなかった。そして獣人や魔族はそれ以上に近い他種族との争いにより大きく数を減らしかねなかった状況である。それにより滅亡へと向かう可能性は決して低くない。戦士の数が減ればそれだけ食料の確保の難易度も安全の確保の難易度も上がる。

 それらを一挙に解決することができるのが賢哉である。人間の庇護、という見方をしてしまうと心情的に認めがたいかもしれないが、しかし賢哉個人であれば力で無理矢理そういうふうに従えられた、とみることもできる……それはそれで人間への反発になるかもしれないが。


「ふむ…………」

「確かに言われた通りではあるんだがな……」


 獣人や魔族も、現状の不安定さ、危険は理解していないわけではない。賢哉に頼ればかなり安全や資源の確保の容易さが上がるというのはわからないわけでもない。ただ、それを素直に受け入れられるかはまた話が違う、ということである。ましてや相手は人間、これがまた別の亜人であれば受け入れられたかもしれないが、彼らがこの地に来ることになった原因である人間である。


「なら、本当にここまで手を加えた現状から引いてもらう?」

「……それは」

「……このまま争いを抑える者がいなければ、お互い殺し合いになる。それではだめだ」

「なら受け入れるしかない」

「…………」

「…………」


 賢哉に文句を言うのは簡単である。賢哉も諸々の事情からむしろ自身に敵意を集めるようにしているというのもあるが、元々人間への敵意があるためそういった誘導がしやすい。だからこそ不満のはけ口を自身に向けさせているのだが……結果として賢哉側、人間側への反感が強まり、最終的にどうしようもなくなるかもしれない。そしてそうなった場合、賢哉としても手の出しようがなくなる。その時、獣人と魔族は果たしてどうするか? 結果的に両者が争い合い、その被害がひどいことになる。特に今は両者が共同生活できる村があり、そこまでの道も作られている。この状況で争いの再開が起きれば確実に惨事になるだろう。

 獣人と魔族の長も諸々の危険を理解していないわけではない。だからこそ、賢哉との話し合いの場を作っている。とはいえ、そもそも原因であるのは人間側だが、その後の反発と受け入れない所に関しては獣人や魔族側が悪いわけである。今回のことは。反感、反発、敵意で現状に対して正しく認識することを止め、人間の敵意で現実を見ず敵を作りそちらに攻撃する。それは結局現状をどうにかできるものではない。賢哉という人間の存在の手を借りる方がよほど利があるし、将来の役に立つ。


「………………話し合いをしてみる」

「こちらもやってみよう。簡単に受け入れられるとは思えんが」


 魔族の長と獣人の長は自分の仲間たちとしっかり話し合うことを決める。そうしなければ先へと進むことはできない。今の状況を改善し、お互い手を取り合い、暗黒領域という危険で過酷な地に安全な場所を作り、自分たちがしっかりと正しく生活できるようにする。そうするのに人間や他の亜人との関りも無視できない。暗黒領域には人間も進出してくるし、他の亜人たちもいる。資源の取り合い、戦いや争いばかり行うのではなく、話し合いと譲り合い、手を取り合い助け合うこと、そういったことが重要になってくる。自分たちは話し合うことのできる生き物、理性を持ち対話できるものなのだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ